報告書1 全ては私の下へ収束し、記述される筈だった。

プロローグ もう始まっている

一夜にして終わりを告げた王権奪取戦争。



王城は主を失い、城下町も勝利を祝う革命軍の兵士達と突然にして政権交代が知らされた市民達との間の温度差はかなり大きいものであった。


城下町は王城を中心、ハブとして放射線状に大きい道が通っており、その大通り沿いに建物が立ち並ぶ構造である。


その大通りの中でも王城の門前に続く一際広い道にて革命軍勝利のパレードと戴冠式が行われることとなった。





~第五戦期創世年1/2~





革命軍の兵士達は未だ興奮冷めやらぬ様子。


柔軟性のある市民、商売上手は酒屋やオープンテラスの宴の席などを急ピッチで用意し、この期に乗じて売上を伸ばそうとする。


そのため、そこら中でテーブルを囲んだ革命軍の兵士が酒を呑み交わしていた。


また、兵役が一段落し、家族との再開を喜ぶ者もいれば...

宴の席の横を棺に納められた者の行列が描く。


死人は纏めて火葬される。


最早この形式でしか対応出来ない程の死人が出たという事実は、酒の肴としては棘があるだろうか。



(一つ僥倖だったのは...死体回収屋の存在か...)

宴と棺に囲まれ生と死のコントラストに包まれただだっ広い道の真ん中を革命軍参謀、サルタが往く。


彼には前王朝のアンシャン・レジーム(旧体制)を革新する真新しい政策を考えるという大きな役割が控えていた。



(税は必要不可欠にして最も民の怒りを買いやすいセンシティブな処だが...

前王朝の悪政は明らかな物だったからハードルはまだ低いとは思うが、それに...

戦後処理も私の役割であり更に今回の我々の勝利の鍵となった────


忙しいな...忙しすぎる...)


空を見上げると所々煙が立ち上っている箇所が見受けられる。


その灰は革命軍に王権を授けた有志であり...新政府開闢の狼煙でもあった────



戴冠式を9日後に控えた今日こんにち、サルタに限らず革命軍幹部、いや新政府の幹部には王城内部の視察という重要な仕事があった。



(さて、中々王城もダメージを受けているな...)



特に一階部エントランスが酷い有り様である。



「うわ~、ひっでぇ、壁がボコボコじゃねえか!」

サルタの横から現れたのは寝起きのアドラ。



「...アンジェラだな」



「そういえばアンジェラは?見てないぞ、」



「彼女の安否は不明だ。」



「え...」



「生きていてもらいたいものだ...」

(王城でおそらく五角天の何れかと対峙し、王軍を敗走させた所を見ると生存している可能性が高いことになるが...やはり何かが引っ掛かる。)



二人は階段を上がり、2階部へと差し掛かる。


王城エントランスの構造、1階は部屋分けはほぼなく、広大な広間が存在し天井は王城最高階の5階まで突き抜けていてシャンデリアがぶら下がっている。そのエントランスの真ん中に幅15m程の階段が踊り場まで続き、その後二手に分かれて2階部へ連結するものである。


2階部~4階部までは部屋が一定数存在し各階へと接続する階段も多数ある。

エントランスの部分はどの階でも見晴らしが良く全ての階を一望出来るものになっていた。



「アドラ、お前は右へ行け。私は左へ行く。」

サルタが階段の踊り場で提案する。



「メガネに指図されるのは気に食わないけど仕方ねえな、」

アドラは右の階段へ進み2階部東側の部屋部屋を探索しに杣入りした。



サルタは左へ進み、やがて2階部の回廊に差し掛かった。

扉が4個あり、中々入り組んでいる様子である。



(取り敢えずここから点検するか、)



一つ正面の扉を開けると、、、



「ぐわっ!ゲホッゲホ...」

大量の煙がサルタに襲いかかった。



(この臭い...まさか...)

少し香ばしいチーズのような香りが鼻を通り脳を刺激する。



(麻薬か...

成程...戦場へ出る兵士を薬漬けにして興奮状態で闘わせていたのか...)



「クソ...吸ってはいけない...」

(しかも低コスト高依存率のGS(girls scout)のhot box型の吸引...

どこまでも外道だ。)



次の部屋、また次の部屋と進むが特筆すべきことは無く...


2階部西側最後の部屋の前に立つ。



扉を開けるとまず先程の麻薬による甘美な香りとは打って変わり血腥い臭いが鼻を刺す。



(なんだこれは...)


眼前に広がるのは猟奇的という言葉では含有出来ないであろう蒐集物の数々。


一貫文の如く耳の穴を紐で通された生首の数珠繋ぎ、その生首どれもが新鮮さを失い、その虚ろな瞳は最早無機物以外の何物でもない。瞳さえ溶けて無くなった頭蓋も勿論のこと。


また壁には延々と臓器やら性器やらが区分けに掲示され、正に異様そのもの。

臓器も髑髏然り新鮮みを失い全てが濃い灰色に変色していた。



「これは...どうしたことか」

(こればっかりはどう処理すれば良いのか検討もつかない...

一体誰だこんな悪趣味な部屋を作ったのは...)



正に酒も不味い、鬼も泣く、薔薇は枯れるなんて言ったレベルの猟奇。

サルタはこの後も続く王城視察に早くも暗雲が立ち込めたように感じた。

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