一話 戦禍で塗装された城は青空の中悠々と聳え立つ。

"元革命軍"リーダー、デーメーテールの戴冠式を控えた幹部達は戦争が終了して尚ご多忙の様子。


何としても完遂する必要のある任務の一つが、王城の復興事業である。


アンジェラとイェルミの熾烈な戦闘が繰り広げられたエントランスの修繕、夥しい数の部屋の視察。


そして今、クソニッチな部屋から出てきたのは憔悴した様子のサルタ。



「さて、気を取り直して次の部屋へと進もうか。」

とは言えども、足取りは先程に比べ格段に重い。



(麻薬部屋、猟奇部屋に続き次は一体何が来るんだ...)

恐る恐るドアノブに手を掛ける。


古い蝶番が物憂げに鳴った。



(......ん?)



部屋の中はクモの巣が張り巡らされておりまた何年も開放されていないような木造の甘甜な薫りが鼻腔を滔みたす。


クモの巣をかき分け辺りを見回した感覚だと先程の部屋に比べ些か見劣りする等という思念が脳裏を過るのである。



(まずは安心か...)

一通り巣を片付け、指で捏ねて窓から外へ放つ。



(絵画...?)


何時描かれた物かは判りかねるがかなり古い物だということは直感が教えてくれるようだ。

床に俯せになっていた額縁と絵画を基に立てる。



(鬨をあげる兵士達の絵か...)



絵には盍簪団結の兵士が両手若しくは武器を掲げて勝ち鬨をあげている様子が油絵により描出されていた。

その兵士達を円周にしその中央には如何にも王座という貫禄のある椅子に鎮座する王。



(王権奪取戦争の勝利を祝した物だな。

...いや待て。)



気がかりは中央の王の表情がどう見ても艱苦を嘗めた様な顔であること、そして雲の隙間から射す偸光とそこから伸びる巨大な手。



(これは何のメタファーなのだろうな...

まあこの絵の詳細も判らないのにこの絵の真意を解ろうとするのは無粋か。)



「取り敢えずここは問題無さそうだ。」


他にも壁には色々と絵が掛けられていたがどれも肖像画や町の風景画であり全く素性が知れない絵ばかりであった。



その後も2階部の部屋の探索を続行したが"初手クライマックス"といったアレであり、物足りぬ調査となった。



(アドラの方は大丈夫だろうか。

見たところ煙らしきものは漂っていないから大麻部屋の餌食にはなっていないだろう。


デーメーテールが入る部屋は3階部だな。この前まで前王がそこに居座っていた訳だが入念に調べあげる必要があるか...


これを終えた後は混乱した市民をどうにかして元に戻す必要がある。

我々革命軍を支持してくれていた層は問題ないだろうが、保守派が反乱を起こすことも想定しておかなければならないな。


戴冠式は敢えてそういった反乱を意に介さない雰囲気を醸す為に盛大に且つ"便宜上"無防備の状態で執り行うのが善策だな。

我々の軍の力は未だに有り余っているという示威も兼ねるとなると...


膨大な資金が必要となるが...


ここは只今豪遊中の兵達にボランティアしてもらうしかないな...


何とかして経済を我々が主体となって回さねばならない。

混乱した王城下町を潤すのも必定...


そして最も大切なのは近日行われるであろう会議───

第五次王権奪取戦争における謎。


アンジェラの安否も念頭に置かなければならないか...

クソ...忙しすぎる。糖が足りないとかいうテンプレワードも出てくるわ。)





その時



ワッとアドラの驚嘆の声が耳に入った。

2階部の奥の部屋からのようだ。



「どうした!」


急いで階段を駆け降り、エントランス1.5階部の踊り場に出、反対側の階段を駆け上った。



廊下に出ると、2階部の奥の部屋の前でアドラが腰を抜かして尻餅を舂いていた。



「何があった?」




「いや...何もないって...

へへへ...このままここいら一帯の金銀は俺の物だぜ...」



「金銀?」



「あっ...またやっちまった!クソ!

......あっ!ヘス!お前も来てたのか!」



アドラが咄嗟にエントランスの方向とは反対方向の廊下を指差す。



「なにっどこだ!」



「逃ーげるんだよー。」

アドラの目が一瞬赤く光り爪先に血流が集中し...


一息にエントランスの踊り場へダッシュ。



「あっ、お前!」


廊下を抜けエントランスへ...



「よっしゃ!どっかで売り捌いてしまえばもう俺のモンだ。

さあ目の前に広がるのは夢の国!億万長者!


すぐだ! 

                すぐにもだ!

      己を迎エ入れるノ...



(ぷにゅ)


アドラの鼻先がゴム毬らしきものに突き刺さった。



「おーいサルタ、こいつ金塊を盗み出そうとしてたぞー」

アドラの顔を豊満な胸に収納した"妖艶そうな"女。



「モロクかよ!ちょ、ちょっと金塊をお返しになさって...」



「ダメです。」



「くそぉ!飛び出し乳房ダイブで俺の夢が潰えるなんて...不幸だ...」



「さて...落とし前...あんたどうつけるつもりだ...?」

サルタが殺意の波動を以てこちらへ向かってくる。



「まぁまぁサルタもそう熱くなるなって」

モロクがアドラをつまみ上げ、金塊を擂る。



「これは言うまでもなく我々の国家予算と僅かを売って経済を回していく資金に使う。

アドラは幸せにならなくてもよい!」



サルタがモロクから金塊を受け取る。



「俺は○津じゃないんだぞ...メガネェ...この睚眦の恨み、晴らさでおくべきか...」

アドラがサルタを睨め上げる



「ま、まぁあの金銀財宝の部屋、アドラが見つけてくれたんでしょ?なら...」



「こいつが見つけなくとも私がいずれ見つけとるわ。」



(確かに...!)


「あっ、あと3階からは私も手伝うよ、部屋探索ね、」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る