回想三話 今生を終える哭は臓を反響し子規の口より溢れる。
王室。
「さて、スペクタクルの始まりだ、アヴィドが何処まで駒を進めてくれるか...」
王が頬杖を付き不適な笑みを浮かべる。
「なァ王さんよ、拙もそろそろ昂って来たんで掻き回して来ていいか?」
アマテュルクは刀砥を終え砥石を喰らった。
「そうだなぁ、まぁいい。そろそろ革命軍も尖兵を放出し泥試合を仕掛けてくる頃だな。お前が好きな血腥なまぐさい闘いが出来るだろう。」
(どうせアヴィドは恐らくあのガキで止まるだろう。ならばここで新進気鋭を出すのも一興。)
「ザギはまだ休憩だ。」
アマテュルクの背に張り付いて外へ出ようとするザギを目敏く引き止めた。
「えぇ~つまんないのお」
ザギはフェイの持つ端末を覗き込みながら呟くと、噛んでいたガムが万有引力の法則により落ちた。
「早速敵の首の一貫文を拵こしらえて来やすぜ。何処に飾ろうかなァ...」
「そんなものを王城に持ち込むな」
イェルミの容喙を背にアマテュルクは須臾も惜しまぬ速度で飛び出す。
「王殿、奴を王城ここに鎮座させなくてよろしかったのですか?奴はあの性格だが五角天でも一頭地抜いた手練れ。万が一敵が王城に辿り着いた時に頼りに...」
「その万が一を起こさぬよう放ったのだよ。...と、その話だがもう既に敵の一人が侵入しかけているようだな?フェイ?」
「...」
フェイは紺色に戻った髪を靡なびかせ静かに頷いた。
「一人ですか、ということは...」
「そういうことだ、イェルミ。出番だ。敵は地下牢の通用口を掘削して侵入してくる。」
✝️
革命軍拠点。
革命軍拠点周辺では静かに数多の尖兵が待機している。
そんな中、突如革命軍参謀の大音声が静寂を裂いた。
それは尖兵達の戦線投入を意味していた。
「本格的な戦いが始まろうとしている。敵五角天の一人が戦場を疾駆する様子を確認したとモロクから連絡が入った。件くだんの一人はパンデモニウムと邂逅すると予想されるが...」
サルタが口を開くと尖兵達から早くも雄叫びが上がる。
「もしアドラメネクの追跡を回避し本陣に特攻する場合と、新しい五角天の一角を出してくる場合を懸念し、君達尖兵に出てもらう。私は質より量の考え方は好きではない。あくまでも君達一人一人の活躍を期待している。」
「ウォォォ!!!」
尖兵達はワールドカップの観客の如く声を上げる。そして尖兵らしく徒歩で戦場へと駆り出た。
✝️
ブツブツブツブツブツ...
草原を歩く青年の、無意識下に漏れ出る愚痴が止んだ。
「来たな...」
アドラメネクが後続の精鋭部隊を静止し、真っ直ぐ王城からまばらに飛び出し突撃しようと戦場を激走する幾百かの敵兵を眺める。
「そして...上...」
少し離れた高さ10m前後の崖に目をやり呟く。
「無双ゲーならここからが見せ場だよな?一騎当千の戦いがやっと出来る...」
敵兵もアドラを確認したのか武器を構え一直線に駆けてくる。
「おい、精鋭の奴ら、己が一撃で何十人か殺るから残りは相手しろ。どうやら己には先客がいる。」
アドラと敵兵の先頭その間約100m。
途端にアドラの目が一瞬真紅に染まったと思えば見る間に右手が煙を発し始めた。
「...血流操作、右手50%。」
そして塊となって突っ込んでくる敵兵へと走りだし塊に飲み込まれた。
...と、一瞬にして轟音と共に塊の下の地面が隆起し弾けた。
一人の青年は浮き上がる岩盤のブロックより上の位置へ煙を発する両足と共に飛び上がっていた。その下では大量の弾け飛んだ地面と敵兵の肉がシェイクされ土煙で忽ち見えなくなった。
「お、おい40人は巻き込んだぞあれ...」
「今がチャンスだ。一気に畳み掛けるぞ!」
精鋭舞台は驚く暇も作らず敵兵の殲滅に取り掛かる。
✝️
「ほほう、幹部格ともなれば10mの直立跳びは朝飯前ですか。」
道化の仮面の中の瞳が炯炯と煌めき、崖を一飛びで越えた青年に向けられた。
「例の五角天か...無双ゲーで言うところのボス、だが滞りなく倒せる。先ずはあの気持ちの悪い仮面を剥がし脛椎に一撃を与えようか...」
「心の声がダダ漏れですよ、まぁまだ戦争は始まったばかり。気楽に行きましょうよ。」
アヴィドは背に携えていたシーシャを取り出し水煙草を吹かす。白煙が仮面の中を充満させた後口と目の部分の穴から立ち昇った。
「まずは邪魔も入らないようですので話をしましょうか。
そうですね、例えばこの非情な世界について何か思うところはありますか?」
「何もねえよ。己は悪魔の名を襲名し、頭一つ出た能力を手に入れた。それで十分だ。」
「先程貴方はその能力で我々の歩兵を瞬殺しましたよね?でも考えてみて下さい、実力は違えど命の単価は同じ筈。
なのに何故物語では一騎当千の人間同士の戦いばかりが重視されるのでしょうか。
この戦争も主役は数多い尖兵達のはず。
それが結局は私達五角天と貴方達幹部の一騎討ちに委ねられている。」
「そりゃそうだろ。木偶の坊千人よりも"一騎当千の個"が肝要じゃないのか。
命の重みは同じかも知れないが価値は当然違ってくる。」
「では貴方から先程の数十名の命の分、奪わせて頂きます。」
アヴィドはアドラとの間を一息に詰めすれ違う要領でアドラの後方へ回る。
アドラの眼球が真紅に染まりつつその姿を右に写し、動かされる間もなく...
アヴィドのシーシャから伸び出た大剣がアドラの右手と脛椎を叩き切った。
精鋭舞台が相対した敵兵を殲滅し静まり返ったと同時、崖の上も同様轟斬のえもいえぬ音が一回鳴り、静まり返った。
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