回想二話 眼鏡に夐絶された蒙き眼で天下は望めるのか


だだっ広い草原を王城へ向かい一人の少年が歩いていく。

いや...青年か...



そしてその後ろを精鋭部隊の新隊が間を空けて後続する。



「チッ、サルタだかサンマだか知らんが何が様子見だ...

どうせ向こうも直ぐに五角天を出してくるっつーの、とっとと己(オレ)を出せってんだ!!」


ブツブツブツブツ...




✝️




革命軍本陣では、リーダーのデーメーテルと、参謀のサルガタナスが作戦の確認を行っていた。



「サルタ、私は戦略に関してはお前に一任しようと思う。監視はモロクが担当しているから、二人で相談して王政府軍を打ち崩す謂わば『頂門の一針の策』を練ってくれ。」



「承りました、リーダー。現在は既にアンジェラを単騎で突入させ、揺さぶりをかけています。そして王城に対し正面から攻撃を仕掛けるという方針です。」



「...アンの身は持つのか?いくら戦術に秀でていると言えど、多勢に無勢じゃないか?」

デメテは怪訝そうにサルタを見る。



「御心配には及びません。彼女の剣技の本領は、逆境の時にこそ発揮されます。多勢に無勢が彼女の最も得意とする戦況です。

...それに、便宜上、『痺れを切らした』幹部の一人が増援(仮)に赴いていますしね。」



「成程、相手が一騎当千の士、つまり五角天を出さない限りは問題ない訳か。」



「アンジェラには五角天を引き摺り出せと言ってあります。無理な深追いはしないようと。もし五角天が戦場に駆り出されたならば確りと一人ずつ対処します。幹部の数はこちらが上回っていますので。」



「把握した。それにここからも確認出来るが、精鋭部隊を少し戦場に待機させているようだな、あの人数なら五角天の一角は止められるか...」



「率直に申し上げますと、五角天の実力は私も把握していないのです。もしかすると、戦況は泥沼化し、最悪の場合は尖兵軍団を出し質より量を重視せざるを得なくなる可能性があります。」


(そう、問題は五角天の実力の如何だ...奴等がどれだけ私の策略を蹴散らすか...多少の、いや相当量の誤算は覚悟しておかなければならないか...

それと、心に引っ掛かるのは『五角天』という表記だ...相手に幹部格の人数を公開するような名称...まず相手側の幹部格は五人以上いると捉えた方が賢明だな...)


サルタは目線を落とす。



「どうにも幹部が機能しなくなり得る状況なら、私も出る。敗北は確定事項であっても刺し違えで片の目玉は抉るつもりでな。」

デメテはニヤっと笑った。



「いえ、リーダーが直々に戦場に出なければならないような状況にはしません...私達幹部の威信に欠けて...」



「...そうだ!ヘスは精鋭部隊の駐屯陣に居るが、会いに行かないのか?」

瞬間、サルタの顔は爆発した。


「けっけけっ結構で、です...す...」


サルタは自ら後ろへすっ飛びドアノブで頭を思い切り打ち、かぶっていた簡易装備の兜の頭頂の部分にアビスが現れた。

その反応は、我々を騙す為の演技とさえ思える程に。


デメテが驚いて目を丸くしているのに気が付くと、サルタは恥ずかしそうに兜を撫でた。



「...おっ、スマンスマン、お前にとってはヘスが『頂門の一針』だった訳だ。ククッ、」



全く緊張感のない彼女にサルタは少し呆れつつも、我がリーダーの底知れぬ強さを見た気もした。





✝️




王室。


「一人のガキと虫の群れが城に近づいてるようだ、大王。」

背広を纏い道化の仮面をつけた長身の男が口を開く。



「いっちょ行ってみるか、アヴィド?革命軍を初っ端からビビらせるのも面白いだろう?」

王は笑いながら五角天序列2[マカ]に問い掛ける。



「へへッ、拙は勝手気儘に敵の首ぶら下げて来やすぜ、適切な時に不適切に暴れられたらそれで拙は満足なンだわ。」

この見るからに危険そうなオッサンは五角天序列4[テッタレス]アマテュルク



「ねーねー、大王ちゃーんウチも早く殺りたいなー!」

王にまとわりついて愛嬌を振り撒くカラフルなツインテールの女の子は五角天序列3[ニグレド]ザギ。



「大王殿にそのような口の聞き方をするな。」

イェルミが一喝する。



「まあよい、先駆けはアヴィドだ。アマテュルクとザギ、そしてイェルミはまだだ。というか、アヴィドが敵を殲滅すれば最早出番は無いかも知れんがな。

さて、敵幹部の動きは筒抜けだ、常に主導権を握るのは我々王政府軍である。我々に楯突いた身の程知らずには七天の裁きを与えるのだ。そして握る主導権は『イニシアティブ』ではなく、『ヘゲモニー』としてだ。」


王は満足げに言い放つ。



「御意。先ずは原に居座る虫とガキを誅す。」

アヴィドは黒い影と成り窓から投身していった。



城下ではアンジェラの襲撃による大混乱で続々と兵が城から草原へ飛び出し、戦争の泥沼化は一層強まっていたのを王はまだ把握していなかった。

彼は下々の兵には一片の興味も示さない。






✝️




草原を蟻の行列が歩く。

その先頭は、サルガタナスの言うことを聞かず戦場へ飛び出した青年。


「ヘスが居る時だけ媚びへつらいやがって、あのクソメガネ...おまけに頭も固い。だからいつまでたっても...」


ブツブツブツブツ...


青年のぼやきと後続兵の軍靴の音が妙なコントラストを奏で始めた頃、彼らに向かって混乱により城下町から飛び出してきた敵兵の軍団が近づいていた...


そして時を同じくし、待機している精鋭部隊の元に「禍」が訪れようとしていたのであった...


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