二十回目の先へ

ポンポン帝国

二十回目の先へ

 僕は、自称小説家だ。といっても、まだ一冊も書籍化されてないけどね。けどね、それでも今まで何もしてこなかった訳じゃないんだよ。


 これまで応募した回数は十九回。そして、選考から落ちたのも十九回。絶対面白い筈なんだ! 今までの審査員の目が節穴なだけなんだ!!


 次で二十回目。いい加減、親もうるさいし、いつまでもバイトってわけにもいかない。これが最後だ。最後のチャンスだ。


 まずはターゲットだな。どこの層に読んでもらいたいか。万人向けって言っても実際はそんなに都合よくはいかない。たとえば恋愛物なら学生とか、オフィスとか、それこそ、男向け、女向けとある。


 それが決まったら次はジャンル。今流行りの異世界か? いやいや、僕が今まで出してきた中で異世界が半分を占めてるがどれも賞に掠った事すらない。きっと僕には向いてないんだ。


 ラブコメ? 百戦錬磨の恋愛達人の僕にぴったりのジャンルだ。一回も誰かと付き合った事ないけどね。あぁ、駄目だ。


 ミステリー? トリックを考える頭がない!!


 あーーー! もう。実は僕って何も書けないんじゃないか。頭がこんがらがってきた。これは相当苦労しそうだぞ。


 漸くジャンルも決まり、次は作品の研究をしなきゃ。まずは、自分の書いてきた作品を振り返ってみないとな。webでもいくつか載せてたし、読者にどんな事が評価されてたのか、何が駄目だったのか。振り返ってみよう。


 とまぁ、ここまでで半年かかってしまった。それだけ今回の作品への思いは大きい。なんたってこれで駄目なら最後なんだから……。


 けど、ここからはプロットを練っていく事になる。ストーリーの土台になるから適当な事は出来ない。まぁどの作業も適当に出来る事が全然ないんだけどね。


 っとまぁここからも三ヶ月かかった。ホントはもっと時間をかけたかったけど、そろそろ親を止めきれない。今の状態から詳細を詰めていこう。







 よし、とりあえず賞への公募分で十万文字は書けた。これが賞への公募の最低条件だから仕方ない。よし、後は結果を待つだけだ。


 自分でも驚くべき事なんだが、今回の作品が最終候補まで残っている。ま、まぁ当然の事なんだけど、膝の震えが止まらない。


 そして今日は審査結果の発表の日。結果はネットに発表される。


 あぁ、心臓の音がうるさい。少しは黙れないのだろうか。


 結果発表は十二時ちょうど、あと少しで発表だ。


 怖い。今までも勿論結果を見るのは怖かったけど、本当に怖い。


 時間になった。よし、僕はきっと大丈夫。きっと大丈夫だ。結果発表を開く。


 …………。


 無かった。あぁ笑えばいい。無かったんだ。これで終わったんだ。あぁ、スッキリしたな。これで未練なく、やめる事が出来る。二十回もやったんだ、もういいだろ? 親にも迷惑かけた。僕もそんなにもう若くない。周りの人間は結婚やつが増えてるしな。いつまでも夢を見ている訳にはいかないんだ。


 わかっているだろ、僕。何で涙が止まらないんだ。これで終わりだって自分で言ったじゃないか。何の為に決めたんだ。諦めろ、それが一番だ。







 それから僕は、就職活動をはじめ、まだ決定はしてなくても親を悲しませない程度には頑張って生活していた。正直刺激もへったくれもない、そんな毎日だ。


 そんなある日、一通の手紙が入っていた。


『作者さんへ


 あなたの作品のおかげで私は死ぬのをやめる事が出来ました。


 大賞は逃してしまったけど、私にとってあなたの作品が一番でした。


 無責任な事を言ってはいけないのはわかっています。


 だけど作品を作るのをやめないでほしいです。


 そこにはきっと新しい希望がある筈だから……』


 希望……?


 希望って何だ。


 何だ、僕。諦めたんじゃなかったのか? わかりやすい奴だ。そうだよな。僕の事を一人でも待っていてくれる人がもしいるなら諦めちゃいけないんだ。


 次こそ、そうさ、次こそやってやる。二十一回目の挑戦だ……!!

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