先輩と後輩くんと21回目

ジュオミシキ

第1話

「後輩くん、君は21という数字を聞いて何か思いつくことはないかな?」

「21……?たしかトランプでそういうゲームありましたよね。ブラックジャックでしたっけ?」

「後輩くん。これだから後輩くんは後輩くんなんだよ」

「すいません。というか何か怒ってます?」

「いいや、まったく怒っていないよ」

「明らかに怒ってるんですけど……。え?あの、僕、なにかしましたか?」

「君は何もしていないさ。そう、何もね」

「どう考えても含みを持った言い方ですよね、それ。……本当に分からないので答えを教えてもらっていいですか?」

「ふん」

「まずい、完璧に拗ねていらっしゃる。ご機嫌取りにクレープでもいかがですか?」

「後輩くん、それは私本人に伝えることじゃないと思うんだが。クレープは食べるけれども」

「あ、食べるんですね」

「どうですか?美味しいですか?」

「おいしい」

「それで。先輩はどうして怒ってたんですか?」

「そうだね、ではここまでヒントをあげよう。言ってしまえば君が記念日を忘れていたからだよ」

「何の記念日ですか?」

「そういうのを聞いちゃうから後輩くんは後輩くんなんだよ。もう知らないからね」

「ええ⋯⋯?でも本当に心当たりが無いんですが。付き合い始めた日も違うし、先輩が僕に内緒でプレゼントしようとしてたペアリングを机の上に置きっぱなしにしてた日でもないし」

「後輩くん、後ろの記念日の方は忘れてもらって構わないよ」

「あ。あれですか?僕だけ有名なケーキ屋さんのモンブラン食べちゃったから先輩にコンビニでモンブラン買ってきた日ですか?」

「後輩くんなにそれ私知らない」

「そうですよね⋯⋯じゃあまったく分かりません」

「はあ⋯⋯君は覚えていてくれていると思ったんだけど、残念通り越して悲しいよ」

「すいません⋯⋯」

「いいかい?今日はね、私たちが初めて手を繋いでから21カ月の記念日だよ」

「さっきのすいませんを返してください」

「ええ!?なんで急に冷たくなるんだい?」

「そりゃあだって、あまりによく分からない事で怒られましたから。なんですかその中途半端な記念日、もしかしてそれ毎月思ってたんですか?」

「わ、悪い?」

「別にいいですけど、その定義で言うと記念日なんてたくさんあるんだからそんなの毎回やってたら疲れますよ?」

「む。それには私も本当に怒るぞ。記念日なんてとはなんだ!それが大切なものだと君は理解出来てないのかい?」

「あのですね、先輩。だから⋯⋯先輩?」

「なんだい」

「泣いてません?大丈夫ですか?」

「だい、じょうぶ」

「はいはい。⋯⋯怖い夢でも見たんですか?」

「君が、離れていっちゃう」

「はあ⋯⋯本当におかしな夢を見るんですから。だから急に21ヶ月だなんだと言い出したわけですね」

「君が⋯⋯」

「先輩。どうせ同じ21だったら、もっと違うお祝いにしませんか?うん、記念日を年一くらいにしましょう」

「?」

「それで21年目。初めて手を繋いだなんてそんな初々しい時もあったなって、ちょっと恥ずかしくなったりして懐かしむんですよ。あの頃はそんなだったなって」

「後輩くん⋯」

「きっとこれからもいろんな事が変わったり、増えたり減ったり、大喧嘩したりしれっと仲直りしたりすると思うんです。でも僕はそういうのを、先輩と一緒に触れていきたいんです。今までそうしてきたように、これからも」

「うん」

「だからもし変わらないことがあるとすれば、僕は先輩と一緒にいるってことくらいなんじゃないですかね。ほら、今度こそ記念日をお祝いしなきゃですし」

「⋯⋯そうだね。すまない後輩くん、私とした事がつい面倒な彼女になってしまっていたよ」

「気にしないでください、いつもの事です」

「なんだかそんな反応も安心してしまうよ」

「ついにそちらへ目覚めましたか」

「うん、まさかその上の返しがあるとは思わなかったよ。これだから君といると楽しくてしょうがない」

「21回目の記念日も飽きずに迎えられそうで良かったです」

「ふふっ。やっぱり君は君だね。私が好きでたまらない君だよ」

「それってどっちの意味ですか?僕か、それとも先輩が?」

「う~ん。それは21回目のお楽しみ、ってことでどうかな?」

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