extra-hard:21

向日葵椎

2-in-1

 21回目のライバル戦は倒せない。

 そういうゲームがあった。


 このRPGはファンタジー世界の小さな村で生まれ育った主人公が、日々の鍛錬の末に世界の平和を脅かす魔王を倒すために旅立つところから始まる。主人公は魔王城へ向かう旅の道中に魔王の配下を倒すことで徐々に強くなるが、それは主人公と同じ村出身で共通の目的を持ったたくさんのライバル達も同じだった。冒険のストーリー上ところどころで計28回も発生するライバル戦では、終盤へ向けて強くなるライバル達の変化を実感することができる。


 僕はゲームを進め、そして問題の21回目のライバル戦を始める。

「ロロノレ、その姿はどうしたの」

 主人公とライバルの会話から始まる。

 このライバルの名はロロノレというようだ。

「私も強くなったのよ、どうかしら」

 ロロノレは明らかに人間ではなかった。長々とした黒髪を垂らす頭からは二本の角が生え、背中からは見る者の生気を丸ごと吸い込みそうなほど広い暗闇の翼、両手両足は先端へ向かうほど黒々とし、尖った爪の鋭さは空気さえも切り裂く予感を覚えさせた。元は女の子であっただろうことは胸部を覆う防具の微かな隆起の他に、一言目の口調からわかる。

「…………」

「何か言ってよ。……決めた、やっぱりここは通さない」

 ロロノレのセリフの後に両者のパラメーターやステータスが画面へと表示され、自由に戦闘できるようになる。

 しかし「勝てない戦い」に必要なことは戦闘の前から決まっていた。あるアイテムを使用するのである。このゲームのライバル戦では、表向きの情報はないものの7の倍数の回では何らかの特別なアイテムを使わないと勝つことができない相手が待ち構える。逆を言えばライバル戦ごとに決まった特殊アイテム使えば勝てるのである。だが21回目のこの戦闘はある問題により勝つことはできない。その問題は21回目が3の倍数でもあるからだ。3の倍数のライバル戦では、これも非公式ではあるが相手にアイテムが効かない能力が備わっている。特殊アイテムを使わないと勝てない能力と、アイテムが効かない能力――この二つの能力が21回目のライバル戦という理由によってロロノレに備わっている。それが偶然か否かはわからないけど、この戦闘を切り抜けることはできる。自分にアイテムを使用するのだ。ここでは「必ず逃げられるアイテム」を使用する。実はライバル戦は終了する。アイテムを使わなくても逃げきれるのではないか? それは今からやってみよう。

 プレイヤーを走らせる。

 目の前にロロノレが飛んでくる。

 爪で切り裂かれプレイヤーのライフが0になる。


 ――Pause――

(一時停止)


 御覧の通り逃げようものなら即死する。だから逃走アイテムを使用するしかない。これが21回目のライバル戦――ロロノレ戦の攻略法だ。

 しかし僕は逃げない。試したいことがあったからだ。

 一時停止を解除すると即死したプレイヤーが復活した――これは復活アイテムを所持している効果で、復活ごとに一つ消費される。今回のロロノレ戦のために所持上限いっぱいまで持ってきているので、あと98回死んでも大丈夫。

 復活後、即座に特殊アイテム〈止水しすいかがみ〉をロロノレに向けて使用する。

「くッ……」

 反応があった。ロロノレは手で顔を覆う。

 しかしやはりロロノレにダメージはない。

 試したいことというのはこれだ。僕はこのアイテム〈止水の鏡〉がロロノレ戦の前に手に入ることと、「作中で一度も使用されない特殊アイテム」であることが気になっていた。

 元々ロロノレは倒せた相手なのではないだろうか。そういう疑問があった。ライバル戦から逃げるのが攻略法なのはロロノレだけで、それはロロノレ戦が偶然21回目だから3の倍数ということで決まったように思えてしまう。

 ロロノレは反撃してこずセリフが表示された。

「あら、あなた強くなったのね」

「村ではロロノレに一度もかなわなかったけどね。これで村の友達と戦ったのは21回目。これでも全部勝ってきたんだよ」

「ふーん、まだ7回目くらいかと思ってた」

「余裕かッ! こっちは死にそうだよ!」

 いやもう一回死んでるけど。

「どうして3をかけたのかしら」

「ロロノレが3で割ってるんだよ!」

「ふふっ」

 なんだか楽しそうだ。村ではこうだったのかもしれない。

 また戦闘が再開する。

 ロロノレが黒炎をプレイヤーに放つ。

 プレイヤーが即死する。

 アイテムを消費して復活する。

 僕はまた〈止水の鏡〉を使う。

 ロロノレが顔を手で覆う。

「いたた……あなたは本当に強くなった」

 セリフの内容と違ってロロノレにダメージはない。

「今日は負けないよ」

「私も強くなったと思わない?」

「強い。強いよ、前よりもっと。でも、どうして姿になってまで……」

「……あなたを、あなたたちを守りたかったからよ。でも……そうね。もうそろそろおしまいにしましょうか」

 セリフが終わり戦闘が再開する。

 ロロノレが動き始めた途端、僕は逃走アイテムを使った。


 おそらく〈止水の鏡〉を使えばロロノレにはあるだろうし、特殊アイテムの影響で攻撃も効くようになっているかもしれない。でも鏡を嫌がるロロノレの姿が脳裏に浮かんでそれを試す気にはならなかった。


 21回目のライバル戦は倒せない。

 そういうゲームがあった。


 *


 ――ゲームクリア後――


 僕はプレイヤーを村へと走らせた。

 あの後ロロノレに会える場所がなかったからだ。

 今どんな姿かも、謝ることができるかもわからないけれど、21回目のライバルはそう簡単にいなくなりはしないだろう。

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