雷弾の桜花 21回目の出撃

土田一八

第1話 不穏な21回目の出撃

 私は騎士団本営から出撃命令を受けて愛機の『桜花』を操縦して自宅を兼ねている金井ヶ原飛行場を離陸した。今回は整備の都合で後席に操縦士である天羽ちゃんが同乗した。その他の霊導騎士達は度重なる出撃によって機体整備に追われていて、3機ある霊鳥は現在私の愛機であるこの『桜花』のみが稼働していた。りくちゃん達の努力にも拘らず度重なる連戦で酷使された天羽ちゃんと飛鳥ちゃんの機体は、早くもオーバーホールとなって依然として整備中だった。

 それにしても出撃回数が多い。この4月に霊導騎士となったばかりだというのに私は既に通算21回目の出撃で、天羽ちゃんも通算18回目の出撃であった。昨日は2回も出撃したし、その前は夜間出撃だった。勉強はクラスメイト達のおかげで何とかなっているが休みが無く、霊力が完全には回復しない状態が数日続いていた。


 

 離陸直後はやる事が多いのでおしゃべりをする暇は無かったが、所定飛行高度に達して上昇から水平飛行に移ると天羽ちゃんが交話器越しに話しかけて来た。

「ねえ、桜花ちゃん」

「なあに?」

「最近、やけに出撃が多くない?」

「うん。多いね…」

 私は天羽ちゃんの発言に肯定したが、語尾が鈍く下がる声で天羽ちゃんが鬱憤を相当溜め込んでいる事に気付いた。彼女はミーハーで思い立ったら吉日というアクティブな人物で人には割と何でも言うタイプだ。

「それって、私達が新米だからかな?」

 天羽ちゃんは珍しく不満を口にする。

「そういうのはあんまり関係ないんじゃないかなぁ?」

 私に聞かれても出撃が続いている理由は私でも良く分からない。苦笑いをするしかない。

「若いから経験積ませようとか、無理が利くとか、…もしかして新米いじめ⁉」

「えーっ⁉」

 私は「いじめ」という単語に反応して思わず声を上げる。

「あ、ごめん…」

 天羽ちゃんは謝る。

「大丈夫だよぉ」

「うん…」

 何となく気まずい空気がコックピットに漂う。しかし、その「いじめ」が私と天羽ちゃんと出合ったきっかけだった。昔の私はもっとおっとりしていて、天羽ちゃんはもっと尖っていた。鈍重と俊敏。そんな言葉が当てはまっていた。性格は正反対だったが顔や髪型は似ていた。成長すると背丈や体格までほぼ同じになった。見た目だけでなく趣味嗜好も同類で赤の他人だが不思議と他人という感じはしなかった。

「それにしても、何で私達が関西圏まで飛ばないといけないのかなぁ」

 私はつい、本音を言ってしまう。

「ホント。龍ちゃん達、何してるんだろう?」

 天羽ちゃんも同調した。



「うーん。そろそろの筈だけど…?」

 霊探(霊力探知機の略)は反応を示さない。私と天羽ちゃんは見張りを厳重にしながら琵琶湖の近くまで来た。本営からの事前情報によれば琵琶湖付近で霊魔が出現したとの事だった。内容がざっくばらんなのはいつもの事だけど、もうちょっと精度の高い情報を寄越せばいいのに…。そうすれば、もうちょっと的確に対処できるのに、と毎回思う。

 琵琶湖周辺を周回するが霊探は全く反応を示さず目視でも確認できなかった。

「桜花ちゃん。霊魔は地上設置型かも知れないね」

 天羽ちゃんは見解を示す。それなら霊探に反応しない事も理解できる。

「うん。分かった」

 私はその見解に同意する。天羽ちゃんは下部偵察窓に設置されている霊導探察機で探察を始めた。私は見張りをこなしながら天羽ちゃんの指示に従って『桜花』を操縦する。探察は高度を上げると範囲が広がるが精度が荒くなり、下げると範囲が狭くなるものの、精度が上がってほぼ確実に霊魔を発見できる。その代わり飛行条件は操縦者にとって非常に厳しいものになる。地形や鉄塔、送電線などの障害物に気を配らなければならないからだ。霊導探察機の焦点は最大72mあるので飛行高度は大体60~70mという事になる。私は『桜花』を低空飛行させて慎重に操縦する。

「うーん。見つからない…」

 琵琶湖周辺の上空を何度も周回するが発見に至らない。さすがに焦りが出て来る。

「ガセネタだったのかな…?」

 天羽ちゃんは訝しがる。

「もしかしたら、湖の中なんじゃないのぉ?」

 私はふと思いついた事を口にした。

「それは気が付かなかったなあ」

「よーし、湖を探察してみよう」

 私は機首を湖の方に向けた。



 湖上には若干の島はあるが、それ以外は障害物は無い。引き続き低空飛行で探察を続行する。

 竹生島と沖ノ島の中間点を飛行中だった。

「いた‼」

 天羽ちゃんは声を上げた。霊魔は水の中にいたのだ。しかし、遠距離の為、増槽を吊るしたので爆弾は搭載していなかった。増槽と爆弾はコンバート装備なのだ。

「よし、急上昇から急降下して霊威砲で攻撃するよっ‼」

「了解‼」


 私と天羽ちゃんは呪文を唱えて霊力を霊威砲に充填する。


「発射‼」


 霊威砲から紫白い霊光が解き放たれる。


 どーん‼


 水面に水柱が高く立ち上がり水煙がもうもうと辺り一面立ち込める。霊威砲から放たれた霊光で水中にいる霊魔を消滅させる。

「消滅を確認」

 探察機を覗いていた天羽ちゃんは私に報告した。

「やったぁ~‼」

 私は叫ぶ。天羽ちゃんは騎士団本営に無線で報告した。

「了解。帰還せよ」

 何とも不愛想な返事だった。これに天羽ちゃんはカチンときた。

「桜花。本営に乗り込むよ」

「了解」

 私は背中に不穏なモノを感じながら羽田空港に向かった。


 羽田空港の管理棟前に駐機すると天羽ちゃんは旋回機銃を引っこ抜いて、怖い顔をして管理棟の中に入って行った。


                                    完

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