第3話 中編

 秋月レンジがメテオスクエアにたどり着いたのは、それから数分後のことだ。


 彼がその身にまとう、八十三式強化外骨格・全一は、装着者の身体能力を数十倍に高める。

 全一を装着した彼の脚力は、時速60キロメートルで走ることができ。助走なしで25メートルの跳躍が可能だった。


 メテオスクエアは、その名の通り四角い建物に巨大隕石が直撃したかのような形をしており、なかなかに遊び心とインパクトのある建物だ。駐車場もクレーターを意識した円形の形をしていた。


 二階のゲームセンターは、市内に数少ないゲームセンターの中ではもっとも大きい。

 この国にもう、二台しかないという競馬の古いゲームがあり、そのゲームのためだけに全国各地から来客があるらしい。

 しかし、小さい会社なのか、売り上げが悪いのか、あるいはその両方なのか、音ゲーが数台最新のものがあるだけで、全体的に置いている機械は古いものばかりだった。

 その遊び心とインパクトが満載の建物の隕石の部分から、ティラノサウルスが顔を覗かせているのを、駐車場からレンジには見た。


 餌をさがしているのか、きょろきょろと辺りを見回している。


「でかくね?」


 メテオスクエアの屋上の隕石のオブジェから顔をのぞかせる恐竜の足は、1階のテナントにあった。

 どうやら、天井だけでなく、床をぶち抜いたようだった。


「なあ、もしかして、あれ」


 メダルゲームに興味のないレンジでも、円形に六席あるメダルゲームの中心に位置する恐竜には見覚えがあった。

 大型のメダルゲームではあったが、恐竜の全長は1メートル程度だったはずだ。


「どういうからくりかはわからないが、君が今考えている通り、巨大化しつづけているよ。

 いや、ヒヒイロカネを取り込んだとしか考えられないか」


「ヒヒイロカネを?」


「この街はすべてヒヒイロカネでできているという話はしただろう?

 つまりは、その建物もメダルゲーム自体もだ」


「だからって、あれじゃ、なんでもありすぎだろ」


「神の金属だからね、ヒヒイロカネは。おまけに液体金属で、形状記憶能力を持つ。

 なんでもありすぎなくらい、なんでもありなんだよ。ご都合主義を絵にかいたような物質だからね。

 君もがんばれば巨大化できるんじゃないか?」


「元に戻れるならそれもありだけどな」


「冗談だよ。まあ、巨大化しようと思えばできるし、元にも戻れるのも保証しておくけれど」


「試したことがあるのか?」


「いいや。でも、君のまとっている八十三式も、同じヒヒイロカネだから。

 なんでもありすぎなくらい、ご都合主義の塊。できるよ、たぶん。おすすめはしないけど」


「毎回学ばされるよ、あいつらとあんたには」


「ぼくとおしゃべりを楽しんでる暇があるなら、早く殲滅してほしいかな。街全体がヒヒイロカネなんだ。

 あと、もう眠いし。

 目標は、おそらく街全体のヒヒイロカネをとりこみ続け、際限なく巨大化する。怪獣映画の怪獣くらいにはなるはずだよ」


「それ、もっと早く教えてくれない?」


「すまない。さっきから眠たくてしかたないんだ」


「俺だって眠いんだって!」


 レンジは、先のスクランブル交差点での戦いで得た、攻撃は最大の防御と言わんばかりの自動防衛機能であるカマイタチ現象を発生させる形態へ姿を変えた。

 右手に刀を精製すると、それをティラノサウルスがしているように、左手で触れた建物、両足がついたアスファルトから、街を構成するヒヒイロカネを取り込み、刀身をどこまでも長く伸ばした。


「おー、伸びる伸びる。これ、ココイチとかセブンイレブンまで伸びてるんじゃないか?やってみるもんだなあ。ドンキまでくらい伸ばせそー」


 真夜中ではあったが、両目のコンタクトレンズ型通信機が、彼の視界を昼間とまったく同じ明るさと色で映し出していた。

 それでも刀身の先が見えないほどに長く伸びていた。

 重くはなかった。箸を持つのと変わらない軽さだった。

 本当になんでもありだ。


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