第1話 後編
「火はあいつを倒せば消えるんだよな?」
レンジは、ヨモツが彼の見聞を広めようとしているのを遮り言った。
「おそらくはね。
問題は、君の八十三式の耐火能力がちょうど2000度だってことくらいかな」
「おいおい、今のあいつ、本気出してると思う?」
「半分も出してないだろうね。
5000度から7000度くらいは覚悟しておいたほうがいいんじゃないかな」
「つまり……」
「あの手につかまれたら終わり」
ゾッとした。
同時に八十三式の手のひらに、もう一振り刀を精製していた。
「だったら切り落とすだけだ」
二振りの刀を振りかぶる。
「火を出すのは手だけと決まったわけじゃないよ。
手首を切り落としたら、ガスバーナーみたいに火を出してきたりして」
レンジがアンサーの手首を切り落としたまさにその瞬間、
「ほんとに出てきたんですけど!?」
ヨモツの予想は的中し、切断面からガスバーナーのように、いや、火炎放射器のように超々高温度の炎が放たれた。
レンジはすばやくしゃがみ炎をかわすと、アンサーの足元に滑り込み、さらにその腕を切り落とした。
しかし、
「切っても切っても、ガスバーナーがとまらないんですけど!?
輪切りにした肉片の両方から火が出てるんですけどー!?」
通信機の向こう側から、楽しそうに笑うヨモツの声が聞こえた。
彼はともかく、レンジは常に命の危険にさらされているが、互いにこのようなやりとりをしながら戦うことで、狭くなりがちな視野が広くなり、レンジは自分ひとりでは思い付かないような作戦を思い付くことができる。
この上位レイヤード世界にレンジとアンサー以外の存在がいたとしたら、彼がふざけて遊んでいるように見えるかもしれない。
だが、例えるならそれは手術中にオーケストラを流す天才外科医がいるのと同じで、集中力を高めるのだ。
「さっき、あんたが言ったとおり、おもしろいめぐりあわせだった。この間のアンサーに先に出会っててよかったよ」
レンジには見えていた。
目の前のアンサーを殲滅する方法が。
「シナツヒコのことか? 風は火の勢いを増すだけだぞ。
なんだ? 火が消えた?」
「カマイタチは、真空状態の中で起きる。
同じレイヤードレベルで作り出した真空状態なら火は消せる」
ヨモツは、なるほど、と感心し感嘆の声をもらした。
「ゼロ距離のカマイタチでどこまでも切り刻んで、こいつの体の中にある火を全部消してやる」
「いいアイデアだが、そんなことをしたら君が酸欠になるぞ」
「俺が酸欠で死ぬ前に、こいつの火を全部消すだけだ。
たとえ、酸素欠乏症になったとしても、俺なら多少時間はかかるだろうけど……あ、やべ、意識が……」
「まったく……」
ヨモツはため息をつきながら、先程感心し感嘆の声を漏らした自分を恥じた。
「ぺらぺらしゃべって自分から酸欠になりにいくとは……
機転がきくようで、きかないな君は」
「う、うるせ……」
レンジの意識が、途切れた。
そして、レンジが目を覚ましたとき、そこはレイヤードレベルゼロ、人の住む世界だった。
「……ここは?」
「目が覚めたようだね。そこはミハシラ市民病院だよ」
まるでレンジが目を覚ますのを待っていたかのように、ヨモツの声が聞こえた。
ヨモツは病室にいるわけではなかった。レンジの目につけっぱなしになっていたコンタクトレンズ型の通信機からその声は骨伝導でその耳に届いていた。
「勝ったのか俺……」
「すんでのところでね
今回君が殲滅したのはミカハヤヒだったモノだと判明した。
神産みの際にイザナミの命を奪ったカグツチを、イザナギが斬り捨てた際、カグツチの死体から生まれた神だ」
「そうか……」
「あの、手から二千度の炎を出す力を、君の八十三式に組み込んだ」
「あんたは、まるで、俺をアンサーにしようとしてるみたいだな」
レンジはそう言うと、再び意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます