第1話 中編
「目標のレイヤードレベルを特定した。レイヤードレベル7。
八十三式強化外骨格・全一の使用許可も降りたよ。おや、めずらしい。今日は勝手に装着してないのか」
レンジはヨモツの通信に応答せず、火ダルマの男の生命の灯火が消えるのを、ただただまっすぐに見つめていた。
そして、呟く。
「神隠しは、神が人を喰らうこと……
でも、ここまで消し炭みたいにしたら、食ってもうまくないと思うんだけどな……
もっとレアとかミディアムとか……
もしかしてあいつら味覚とかないのかな……」
「……どうやら聞こえてないみたいだから、全一をこちら側で展開させるよ」
レンジの鼻から血が突然したたり落ちた。
「ちょ、鼻血が八十三式になるとかやめて!
右手の親指をガリッて噛んだり、刀で切って血を出すのが、俺のスタイルなんだから!
てか、使用許可が降りたのか。今回はレベルいくつ?」
「レベル7だよ」
「あ、聞こえるようになった。レベル7か。この間より2個上だな」
「さすがの治癒能力だね。鼓膜の再生程度なら63秒で可能なのか。
けれど、君に消し炭になられたり千切れとばれたりしたら困るから、念のため八十三式の対火機能を拡張しておいたよ」
「そいつはどうも」
「それにしても、この間はレベル5で、今回はレベル7。
なかなかおもしろいめぐりあわせだね」
「ん? レベルファイブはわかるけど。確かゲームか何かの会社だよな? 妖怪時計とか、稲妻11人とか。レベル7って?」
「小説家の宮部みゆきの著作のタイトルさ。
彼女はなかなかのゲーム好きでね、
好きなゲームはICO、そのノベライズを自らかってでたくらいだし、一応はミステリー作家になるのだろうけど、剣と魔法のファンタジーも書いたり、レベルファイブのゲームの脚本にけちをつけたことがあるんだ」
「それ、何か今回のアンサーと関係あるの?」
「ないよ、全然まったく1ミリも」
「わかった。さっさとレベルセブンに転送してくれ」
「レンジ、君はもっと見聞を広めた方がいい。知識は広く浅くでいいんだ。
ひとつのことをつきつめて、オタクになる必要はない。
にわかでいいんだよ。だれにでも話を合わせられるからね」
はいはい、とレンジは思いながらゲートをくぐった。あんたは俺の保護者かよ、と。
レイヤード世界への転送は、ヨモツが管理する「アカシャの門」によって行われる。
アカシャの門とは、門という名がついているが門の形をしておらず、陽炎のような揺らめきだ。
レンジはその陽炎をくぐり、神の世界、レイヤードレベル7へと転移した。
「ここがレベル7か。それにしても、本当に不思議だな、上位レイヤード世界は」
上位レイヤード世界は、そのレベルによって、あるいは主たるアンサーによって、空の色や気温や気圧、重力が若干異なりはするが、レベルゼロとほとんど同じ風景が広がっている。
ヨモツの話では、この国や世界の歴史から失われた大陸や国が上位レイヤード世界に存在する可能性があるという。
上位レイヤード世界は、人にとっての現実世界であるレベルゼロに重なって存在する異世界だ。
しかし、上位レイヤード世界からレベルゼロは丸見えで、逆に最下位にあたるレベルゼロからは上位レイヤードを見ることはできない。
「君の姿も今はレベルゼロからは見えない。誰も君に触れることはできない。
ぼくは君の目を通して、正確には君の目にはめられたコンタクトレンズ型通信機を通して、君と同じ世界を見ているけれど」
レベルゼロからは決して見えないものを、レンジは今回もすぐに見つけた。
白いのっぺらぼうのアンサーが、ロータリーをゆっくりと歩いていた。
「てっきり、口から火を吐いてるのかと思ってたけど……」
アンサーは、ただ歩いているだけだった。
歩きながら、無作為に、いや、無差別に触れたものを発火させているようだった。
「会話は可能かな?」
「可能だと思うかい?」
「だよな……」
「あの青い火は、何度くらいだ?」
「2000度はあるようだね。煙草の火が大体700度だそうだから、その約三倍だ」
「煙草を吸わないお子さまには、わかりづらいたとえだなあ」
「ぼくも吸ったことはない。
でも君は肉体年齢はともかく、戸籍上は23歳だ、これくらいは社会常識じゃないかな」
「ヤンキーの、手に煙草の火を押し付けるやつなんだっけ?」
「根性焼きがどうかしたのかい?」
「根性焼きか。じゃあ、あいつの手を押し付けるとしたら、ド根性焼きだな。消し炭になるか、千切れとぶけど」
「それはなかなかおもしろい。
徒党を組まなければ意気がることもできない連中の悪しき風習がまだ続いているか調査をした後に、しかるべき組織に煙草の火を二千度まで上げるよう話をしてみよう。
ちなみに最近流行りの電子煙草は低温加熱式と高温加熱式があって、ア……」
「火はあいつを倒せば消えるんだよな?」
レンジは、ヨモツが彼の見聞を広めようとしているのを遮り言った。
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