違和感

「『模倣型』? だよね?」

 すずめさん。僕に『レアメタリック・マミィ!』を返してもらってからつぶやく。

「いやに精巧だったけど。っていうか……」

本物オリジナル以上」

 のえるさんが一息つく。

「新種の『模倣型エディター』。特徴は二つ。一、作家の精巧なコピー。従来のタイプと違って本物オリジナルと見分けがつかない。二、作家の作品に登場するキャラクターの能力を全部使える。同時行使も可能。俺たちがさっき追い詰められたのも……」

「『椅子』他、私たちの作品の能力が目白押しだったから。私たちはキャラを切り替えなきゃだけど、向こうは切り替えなしで、キャラAとキャラBの能力を同時に使ってくる」

 加藤さんが髪を撫でる。

「いきなりピンチで嫌な汗かいた……」


「で、物書きくんは何をしたの?」

 すずめさんが腕を組む。

「突然能力が使えなくなったけど」

「タイトルを『切り取り』ました。これです」

 僕は「ハサミ」を見せる。

「『King Arthur』の城で手に入れたツールです。『ペン』で言葉を書いてそれを切断すると、どこまでの範囲かは分かりませんが、その言葉が一時的に使えなくなります。僕が再び『ペン』で言葉を書いて返却しない限りずっと使えない」

 のえるさんが頷く。

「なるほど。その『ハサミ』でタイトルを切り取ると、『カクヨム』上で作品そのものがアクティブな状態にならなくなるから使えなくなるのか」

「そんな感じです」

 それから僕は続ける。

「三人がこの武器庫に来た経緯を教えてもらえますか?」

 加藤さんが答えた。

「経緯も何もないよ。あの遺跡群であの変なビームを浴びて気を失って、意識が戻ったらここにいた」

 すずめさんが続く。

「この部屋、ドアが開かなかったの。ずっと閉じ込められっぱなし。でもさっきいきなりドアが開いて、警戒したら……」

「『模倣型エディター』の本体が来た」

 のえるさん。神妙な面持ち。

「金髪女の格好をしている『エディター』だ。ここへはメイド服姿で現れた」

「あいつがここへ?」

 ちありやさんが驚く。

「さっきまで第一制御室にいたはずだぞ?」

 僕は続く。

「僕たちより先にここへ来るなんてこと、可能なんですか?」

「ひとつに」

 飯田さんが人差し指を立てる。

「場面転換描写によるワープをした可能性がある。僕たち作家が『公開』ボタンを押さないとできない手だな。僕たちは『公開』ボタンの押下から敵に追跡されてしまう恐れがあるが、『エディター』たちにはそのリスクがないから自由にできる。作家にできることは『エディター』にもできるということは、エディの発言から分かってる」

 ふたつに、と飯田さんはちありやさんを示して続ける。

「電池くんは勝手知ったる基地のはずなのにアンジェラに道案内をさせた。この基地、常時通路の組み合わせが変わるな?」

「その通りだ。『エディター』騒動が起きてから作った基地だからな。万が一侵入されても敵が混乱する造りにした」

 ちありやさん。それを聞いて満足したように飯田さんが続ける。

「もし第一制御室を制圧したことで基地内の通路を自由に編集できるようになったのだとしたら、僕たちより先に武器庫に行くことも容易だろう」

「何にせよ厄介な事態わね」

 綺嬋さんが頷く。続いて僕は口を開いた。

「あの女『エディター』、見た目を自在に変えられる……?」


 僕はこれまで見てきたあの金髪姿の女性の姿を一通り説明した。と、のえるさんが小さな声で応じた。

「多分自由に変身できる。『模倣型』の本体だからな」

「厄介だね」すずめさんがため息をつく。

「で、こちらの方たちは……?」

 すずめさんがちありやさんと綺嬋さんを示して訊いてくるので、僕は答えた。

「『イビルスター』の幹部の方です。こちらの紫の髪の方が綺嬋さん。あちらのロボット……の電池が、ちありやさん。ロボットの中には日諸さんがいて、操縦してます」

「ロボットの電池ってどういうこと?」

 僕たちは少しの間、作家の情報交換の時間をとった。綺嬋さんとちありやさんの能力の説明をしたところで、ちありやさんが困ったような声を出した。


「もしかしたら、だが。迂闊に能力のことは口に出さない方がいいのか? 精巧にコピーできるということは、目の前の作家は偽物で敵である可能性もあるということだな?」

「こっちには飯田さんがいます。見破れます」

 僕の言葉に綺嬋さんが返してくる。

「検知できる人間が一人しかいないっていうのは危険わね。私たちは実質その飯田さんに縛られてる形になるわよ」

「飯田氏、何か飯田氏に頼らなくても敵を見破るいい方法はないか?」

 ちありやロボに乗った日諸さんが飯田さんに訊く。腰に手を当てた飯田さんがつぶやく。


「方法って言ってもな。熱がないことしか分からないから、触って確かめるくらいしか……」

「危険ですね」

 何となく、だけど。僕は自分の中の変化に気づいていた。

 僕はこうして作家たちと作戦会議ができていることに喜びを感じていた。ちょっと前まで、「できるか? できないか?」を迫られるだけだったから。

「私の『レアメタリック・マミィ!』が役に立つかも」

 すずめさんが鋭い目線を送ってくる。

「熱感知でしょ? エネルギーの探知くらいなら『レアメタ』登場人物のメットでもできる」

「すず姉の問題は……」

 と、飯田さんがつぶやく。

「武装しないとメットの性能が使えないところだ。仮にすず姉が偽物だった場合、偽物は嘘もつけるしすず姉の強力な火力も手に入れられる」

「その点飯田氏は能力が戦闘向きじゃないから敵に回ってもリスクがない、か」

 日諸さんの声がちありやロボのスピーカーから聞こえてくる。

「そういえば、のえる氏の哲学魔法で感知することはできないのか?」

「多分、考え方を捻ればできる」

 ウサギの着ぐるみみたいなのえるさんが口元に手を当て、つぶやく。

「方法を模索してみる。現状、『疑わしいものを消す』能力はあるから、最悪容疑者を強制退場させることはできる」


「アンジェラ、熱感知で敵を見破ることはできないか」

 ちありやさんの問いに人工知能アンジェラが答える。

〈限度があります。ですが感知システムの向上は可能です。システム開発、取り掛かります!〉

「しかし時間はかかるようだな」

 日諸さんの困ったような声。

「やっぱり太朗くん頼りね」

 すずめさんがぐっと背伸びをする。

「確かに太朗くんに縛られる形になるけど、逆に彼が偽物じゃない状況さえ確保できれば、安全なわけだし」

「一応、『ノラ』ビッグスリーが揃ってるし、『イビルスター』の幹部さんもいるし」

 加藤さんがふう、と一息つく。

「太朗くん一人を確保することくらい、訳ないでしょう」


「話がまとまったところですまない。今後の方針についてなんだが……」

 ちありやさんが提案する。

「戦力を確保したい。現状とれる選択肢としては、我々『イビルスター』の総員を導入するか、君たち『ノラ』の援軍を招集するか、なんだが」

「どっちが早いかな?」

 と、すずめさんがつぶやいた時。

 どこか、近くの部屋で爆音が響いた。開け放たれた武器庫のドア越しに聞こえてくる。

「誰かが戦闘している」

 飯田さん。

「『イビルスター』のギルド員か?」

「その可能性はあるわね」

 綺嬋さんがデザートイーグルを構える。

「『イビルスター』幹部は今基地内を探索中わよ」

「幹部なら連絡が来る。私は今、基地内の通信を全て押さえている」

 ちありやさんが冷静に告げる。

「私に援護要請がないということは、『イビルスター』幹部じゃない」

「ってことは、僕たちの仲間だな」

 飯田さんがポケットに手を突っ込む。

「『ノラ』の誰かが戦ってる。助けに行こう。救出できれば戦力になる」

 ……ん? 

 何かが少し引っかかった。何だろう。変な感じが……。


 しかしそんな違和感を整理する前に、ちありやさんが告げる。

「今は微力な戦力も欲しい。今すぐ援護に行こう!」

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