異世界転生
……目を、覚ましたら。
僕は青色の床に倒れていた。
慌てて起き上がり、辺りを見渡す。
狭い。まずそれが認識できた。
次に。
座椅子? そして、揺れている?
顔を上げる。見慣れた光景が広がっていた。
……バスの中?
老人が座席に腰かけていた。女子高生らしき女の子が音楽を聴いている。サラリーマンが眠りこけ、僕の傍に立ち尽くしていた男性が苛立ったような舌打ちをした。
僕は再び辺りを見渡す。
ここは、バスの中。
しばらく、揺すぶられていた。
しかし混乱は収まらない。
何だ? どういうことだ? VR装置の故障? 変なサイトに飛ばされたか? にしてもバスの中の光景を映すサイトってどんな……? 疑問しか浮かばない。
とりあえず、つり革を持って、揺さぶられる。
……そうだ。
ここがVR空間かどうかを確かめる方法があった。「ペン」と「虫眼鏡」が浮かんでくるかを確かめればいいのだ。
念じてみる。インテリジェンスアシスタントシステムが生きている空間なら反応して出てくるはずだ。
手を広げる。「ペン」と、「虫眼鏡」。
VR空間だ。じゃあやっぱり変なサイトに飛ばされたのか? 僕だけ? 一緒に轢かれた他の人は? 色々なことを考えている時だった。
クラクション。鉄が潰される音。大きな衝撃。体が真横に吹っ飛んだ。あ、これはやばいやつ。そう認知した時には……。
……目を、覚ましたら。
僕は青色の床に倒れていた。
慌てて起き上がり、辺りを見渡す。
狭い。まずそれが認識できた。
次に。
座椅子? そして、揺れている?
顔を上げる。見慣れた光景が広がっていた。
……バスの中?
起き上がる。老人。女子高生。サラリーマン。舌打ちをする男性。さっきと同じ光景だ。
慌てて立ち上がる。何が起きたのかさっぱり分からない。だが、とりあえず。
先程の記憶が残っていることを鑑みるに、おそらくVR空間であることは確定しているので、「ペン」と「虫眼鏡」を取り出す。状況を把握しなければ。何が起きているのか。仲間はどこか。そもそもここはどこなのか。ハッキリさせないと。
バスの中を歩く。人をかき分ける。ものすごい嫌な顔をされたり舌打ちをされたりしたが気にしない。こいつらはおそらくデータだ。
何か手がかりはないか。何か今の状況を知る方法は。
ふと、「虫眼鏡」の存在に気づき、検索をかけてみることにする。
〈手がかり〉
「ペン」でそう記し、「虫眼鏡」で覗く。字が消える。しかし、その後には何も出てこない。
抽象的な概念は検索できないんだ。何となく分かってはいたが絶望する。「ペン」と「虫眼鏡」を持ったまま狼狽える。何を、どうすれば……正解は? どういう判断を下せば……。
次の瞬間。
クラクション。鉄が潰される音。大きな衝撃。
……目を、覚ましたら。
僕は青色の床に倒れていた。
慌てて起き上がり、辺りを見渡す。
狭い。まずそれが認識できた。
次に。
座椅子? そして、揺れている?
顔を上げる。見慣れた光景が広がっていた。
……バスの中?
ループしてる!
ようやくそれだけのことに気づけた。無限ループにはまっているんだ。
VR装置の故障だろうか? まずそれが浮かんだ。装置の故障でどこかの壊れたサイトの無限ループに飛ばされた。そこで延々事故に遭いつづける。
だが……。
インテリジェンスアシスタントシステムが生きているということは、あるいは現アドレスが特定できるかもしれない。
試みる。返ってきた表示は。
〈あなたは今『カクヨム』にいます〉
「カクヨム」の中なのだ。もちろん、インテリジェンスアシスタントシステムが故障していなければ、の話だし、ここはどう考えてもさっきまでいた「King Arthur」の城ではないのだが。
もしかして、これも『エディター』の仕業か?
小説から物体を引っ張り出せる『参照型エディター』。逆は? アカウントを本に閉じ込める『エディター』がいたとしたら?
その仮説が僕の中で有力になり始めた。と、なるとここは小説の中。抜け出すには……手元の「ペン」を見る。
円を書いてみる。
しかし、書いた傍から線が消えていく。どうやら「ペン」による脱出はできない。
ではどうすれば?
まずい。
時間だけが過ぎている。このままじゃまた、事故に遭う。事故に遭ったら……。
と慌てだした頃だった。
クラクション。鉄が潰される音。大きな衝撃。
駄目だ!
今度はそんな自覚と共に目を覚ました。
やっぱりループしてる! どうやら一定間隔で事故に遭って事故の数分前に戻されるようだ。しばし床の上に寝転がって唖然とする。近くにいた男性が舌打ちする。ここまでは完璧にさっきと同じだ。
起き上がる。何か、何か手がかりがあるはずだ。このループから抜け出す手がかりが。『エディター』を攻略する手がかりが。
様々なことを考える。そうしている内にも時間だけが過ぎていく。
駄目だ。考えていても何も分からない。動かなければ。情報を探しに、きっかけをつかみに……。
人をかき分けながら前に進む。運転席。中年の男性が運転している。しかしその手元が、一瞬崩れる。
気づいた時には。
クラクション。鉄が潰される音。大きな衝撃。
抜け出せない!
僕は絶望する。これで何回目だ? これをずっと繰り返すのか?
床に仰向けに寝転がったまましばし呆然とする。舌打ちする男性。この舌打ちも後何回聞かなければならないのだろう。
とりあえず起き上がる。ループはしているが記憶は引き継がれている。次の事故に遭うまでの間に何か手がかりを得て、次の自分にバトンを……。
と、思って体を起こした時だった。
「うまくいったか?」
男性の声。続いて聞こえる、女性の声。
「……いったみたい」
それは懐かしい声だった。聞きたかった声でもあった。思わず僕は叫びそうになった。慌てて口を覆う。声をかける。近くに倒れていた、二人のアカウントに。
「すずめさん! 飯田さん!」
二人が反応する。
「物書きボーイか」
しかし飯田さんはあまり嬉しくなさそうな顔をした。すずめさんの方を見る。彼女の表情も……いつの間にか、スカイスーツではなパンツスーツ姿になっていたが……固かった。警戒している。おそらくだが、『エディター』を。
しかしひとまず状況を伝える。
「あの、僕さっきからずっとループしていて……」
「ループ?」
飯田さんが困ったような顔をする。
「さっきと同じか……」
「さっき?」
僕が訊ねると、すずめさんが答えた。
「さっきはジェットコースター」
「ジェットコースター?」
しかし飯田さんがすずめさんの声にのみ応える。
「今度はバス」
事態が飲み込めない僕は訊ねる。
「あの、これって一体……」
しかし全部言い終わらない内に、飯田さんがこちらを向いて告げた。
「転生だ」
「転生?」
そう。飯田さんは頷く。
「異世界転生だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます