摘花
幕画ふぃんさんと結月さんによる連携攻撃が続く。
まず、幕画ふぃんさん。
もの凄い速さで切りかかり、飛んできたMACKさんの居合剣を受け止める。
次に、結月さん。
強風。室内なのに。咄嗟に僕は顔を覆う。腕の隙間から戦局を見る。
飛び退く
幕画ふぃんさんも距離をとっている。剣を握ったままじっと相手を観察している。身に纏った真っ白な鎧には……無数の傷が。
MACKさんの足下には魔法陣が展開されていた。室内にあった埃や塵が巻き上げられて散っていく。竜巻。風系の魔法を使ったようだ。
「離れれば糸、接近すれば剣、さらに迫れば魔法……そして私の欲しいファンアート……ファンアート(大事なことだから二度言う)」
結月さんが戦局を分析する。
「MACKさん、強い」
「『円卓の騎士』の一人だからな」
幕画ふぃんさんがつぶやく。
「まぁ、一筋縄ではいかんな」
と、自分の体を確認するように掌を見る幕画ふぃんさん。
「オーガ十二体……霊位魔法を使うのが限界か?」
「……あの、提案なんですけど」
「物書きくんに魔族を書いてもらったらどうでしょう?」
「物書きくん?」
幕画ふぃんさんが結月さんを見る。
「はい。あそこの彼なんですが……」と、僕を示す。
「『ペン』で描写したものが現実になります。私たち作家はパーツを書いてそれを組み立てる描写をしないと駄目ですし、生き物の描写は難しいのですが、物書きくんはほぼ無制限に何でも出せます」
「そんな便利な能力が……」
「いえ、能力じゃないんです。彼は小説を書いたことがない」
彼女の声に僕は頷く。
「僕はただ、便利なツールを持っているっていうだけです」
「魔族を書いてもらいたい」
幕画ふぃんさんが僕に近づく。
「描写が難しくないものを言う。
「名前から察するに……犬?」
「地獄の、な」
ふぃんさんがにやりと笑う。整った顔立ち。鋭い……だが、不思議な圧のある……眼光。
「書いてくれ。特徴を言う。数が欲しい。六匹出してくれ」
言われた特徴を僕なりに記した。
〈――夜の闇のように深い黒。皮膚は焼かれた丸鶏のように爛れている。犬の焼死体に艶やかな黒毛が生えたような全貌。しかし……その、目。血のような、という言葉では表現できない。美しい彼岸花のような。たわわに実った苺のような。深紅の目玉をした猟犬だった。群れで生活しているのだろう。数は……六匹〉
テキストファイルを展開。途端に六匹の猛獣が姿を現す。ふぃんさんが叫ぶ。
「上出来だ! 物書き少年!」
と、彼が口にした後には。
屠られた犬の死骸が転がっていた。ふぃんさんの足下に……四匹。しかし残りの二匹は……。
「MACKに飛びついたか!」
残りの二匹の黒犬は、MACKさんの竜巻魔法によって切り刻まれていた。漆黒の体毛が風塵となって消えていく。
「まぁ、いい。それでも中級魔族四体分だ!」
幕画ふぃんさんが叫ぶ。
「魔力として、十分っ」
「もう一回トライします! ふぃん様!」
ふぃんさんが剣を逆手に持ち、構える。
同時に
初めは何が起きたのか分からなかった。
離れれば糸。接近すれば居合。さらに接近すれば魔法。
MACKさんの行動は、その順序を踏むはずだった。
しかし明らかにおかしい行動をMACKさんはとった。
両手を伸ばし、指先を動かし、そう、まるで、マリオネットを動かす時のような……要するに糸を動かすような行動をとったのである。
それは、ふぃんさんと結月さんが数秒前の地点にいる時であれば有効だった。ふぃんさんと結月さんは僕に執筆を依頼するために距離をとっていたからだ。
しかし今の二人は違う。ふぃんさんは剣を逆手に持ったまま走り、結月さんは
もう、ほとんどMACKさんの目前だ。居合を使わないとおかしい。あるいは、竜巻魔法に切り替えるべきだ。
コンマ数秒遅れて、MACKさんが異常に気が付いた。
剣を振ろうと身構える。しかしその時には遅かった。
「人位魔法――
ふぃんさんの声が聞こえる。
「貴様の体感時間を三分の一にしたぞ……MACK!」
その叫び声と共に、
「やりました!」
結月さんが叫ぶ。手には……マツバギク。鮮やかなピンクの花が一輪。
「お前が頭に花など生やしていなければ、こんな低級な魔法は通じなかっただろうがな……」
ふぃんさんがつぶやく。逆手に持った黒剣を、すらりと鞘に納める。
と、同時に、
「目を覚ませ、『円卓の騎士』よ!」
MACKさんの介抱は僕がした。混乱した精神状態の安定、及び、これまで酷使された肉体の回復。書いた文章がMACKさんの体の中に消えていく。
「う……僕は……」
正気を取り戻したMACKさん。結月さんが膝を貸し、MACKさんの頭を支えていた。ふぃんさんが頬に手を伸ばす。
「正気を取り戻したか」
「熊を……熊のような悪魔を倒そうとして……」
「それ以上しゃべるな。体力を使うだろう」
ふぃんさんが真っ直ぐにMACKさんを見つめる。
「私もライオン男と蛇男に敗れた。能力が正しく行使できなくてな」
MACKさんが頷く。
「……そう。能力がおかしくて」
「『エディター』の影響です」僕はつぶやく。
「『暴走型エディター』」
「……そういえば、君たちが『エディター』の討伐に来たことは知っていたが、この城を占拠している『エディター』の特徴については知らなかったな」
「作品が曲解されたり拡大解釈されたりするんです」
結月さんがつぶやく。
「私もしばらく能力がおかしくて」
「今は平気なのか?」
ふぃんさんの問いに結月さんが答える。
「〈
「君たちがそれを倒してくれたから能力が改善された」
「じゃあ、僕は?」
訊ねるMACKさんに僕は答える。
「あいつでしょうね」
僕の視線の先。
抉られた床。クレーターのような跡がいくつもある。
無事な床は一カ所。その一カ所に二人がまとまっている。
けらけら笑いながら水晶玉を浮かせているメロウ+さんと、
彼女たちの目線の先では、起き上がった熊人間が、大きな欠伸を……していた。
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