神のみぞ許された力
「あの頭の花をどうにかすればコントロールから外れる!」
幕画ふぃんさんが叫ぶ。
「何とか近づいて花を攻撃するんだ!」
「でも、近づけません……!」
「二段階構成で行こう」
幕画ふぃんさん。
「私がMACKの剣を防ぐ! その隙に花ちゃんが……!」
「分かりました!」
身構える
「『円卓の騎士』に魔力は使いたくない……剣技で何とかさせてもらう!」
MACKさんの間合いに飛び込む二人。
二段構え。まず幕画ふぃんさんが剣を構え飛び込む。
瞬間的に振り回される剣。MACKさんの攻撃だ。
しかし幕画ふぃんさんが黒剣でかろうじてそれを受け止める。
大振りのMACKさんの剣に対し、幕画ふぃんさんの剣は
「花ちゃん! 今だ!」
「ふぃん様に『花ちゃん』って言ってもらえた……!」
宙を舞う
「私、頑張るっ……!」
たくましい手がMACKさんの頭上に伸びる。
が、次の瞬間。
「はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわぁ!」
ほとんど悲鳴に近い声を上げて結月さんが
「ありがとうございますぅ! あのっ、ほんっとうに、心の底からっ、ありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「何が起きた花ちゃ……」
と、言いかけた幕画ふぃんさんの手止まる。
直後、取り落とされる黒剣。
「とっ、尊いっ……」
……尊い?
「お礼に何でもしますっ! 結月、脱ぎますっ!」
「尊い……尊すぎる……後光が……」
「あれなんですか?」
僕が背後にいた赤坂さんに訊ねると、赤坂さんも何やらおそろしいものを見るような目でMACKさんを見つめている。
「あ、あれは、神のみぞ許された力……」
「神?」
「ええ、神です」
いつの間にか「脳筋ゴリラ」から女の子に戻っている赤坂さん。
「う、うらやましい……私も……」
知らない内に赤坂さんも狂い始めている。
何だ? 『エディター』の影響か?
「赤坂さんしっかりしてください! 『エディター』に……」
しかし赤坂さんはしっかりした表情で応える。
「……違います! あれは『エディター』じゃない! ある意味『エディター』よりも強力で、かつ幸せな力っ……」
「幸せ?」
「あれを見せられた作家は、幸福感のあまり死にます。特にMACKさんは……朝活で『あれ』を送り付けるので多くの作家さんをベッドの上で悶死させてきた……通称『モーニング・キラー』!」
幸福感のあまり死ぬ?
僕は結月さんを見る。
「死ねますっ……私死ねますっ……っていうかむしろ死ぬなら今……幸せなまま人生終わりたいっ……誰か……あ、そうだ。ふぃん様殺してぇ! 私今この状態で、しかもふぃん様に殺されるとなればきっと天国に……はっ、ここが天国かっ」
「ああ、何と尊い……ありがたやありがたや」
狂乱ぶり。逆に怖くなる。
MACKさんが剣を手にしたまま、跪く二人に近づく。危ない。あのままじゃ切り捨てられる。
何が原因だ? MACKさんの何がトリガーで二人はあの状態に……と、見つめて分かった。
色紙……? 色紙くらいの大きさの四角い、おそらく画像ファイルがMACKさんの手の中にあった。MACKさんはそれを額にかざしている。あれが、二人の異常行動を引き起こしているのか。
目を凝らす。さっき僕が〈糸〉を検索で引っ掛けたせいで室内は暗かったが、何とかMACKさんが掲げている画像ファイルを見ることができた。
そこにあったのは……。
獣耳の男子の服を小ぶりな唇で咥え、そっと脱がそうとしている、同じく獣耳の銀髪少女の絵……。男子の腹筋が見え、女子の柔らかい腰つきが見える、ちょっとセクシーな絵。
じっと、よく見る。それは
ここまで来てようやく鈍い僕にも理解ができた。
「ファンアート?」
「そうです」頷く赤坂さん。
「あれは神のみぞ……神絵師のみぞ許された力。作品を絵にすることにより、作家を視覚的に悩殺する。MACKさんの絵の美麗さは噂には聞いていましたが、まさかこれほどのクオリティとはっ」
確かに絵のクオリティは高い。エロすぎない上品なエロさ。しかし女の子が男の子の服をめくっていることである種の「野性的な」官能はある。結月さんの作品は恋愛小説だ。上品さに垣間見える野性感……たまらない刺激に違いない。
「何でもしますぅ! どうかこの結月花めをあなた様の下僕に……奴隷にしてくださぁいっ!」
「まぶしいっ、ああ、幸せなまぶしさっ」
「あの、結月さんが興奮するのは分かるんですけど何で幕画ふぃんさんが?」
「幕画ふぃんさんも花さんの作品読んでファンだったんじゃない?」
推しが尊いってやつだよ。赤坂さんがぶるぶる震えながら続ける。
「わ、私も跪きたくなってきたかも……私の作品にあんな美麗な絵がついたことを想像するだけで、ああ……ああ……」
と、既に片膝を床についている。
いかん。これは何とかしなければ。
さっと周囲に目を走らせる。……よし、この部屋には他にない。そう頷いてから「ペン」を走らせる。
〈ファンアート〉
それから「虫眼鏡」を使う。
即座に、MACKさんの手にあった画像ファイルが僕の手元に飛んできた。
飛んできた画像ファイルを抱え込む。これはこれで大事な作品だ。床に伏せるのはよくない。せめて僕が身をもってこれが視界に入ることを防ごう。
すると効果があったのだろうか。結月さんと幕画ふぃんさんが目を覚ます。
「はっ、私、何を……」
「花ちゃん! 危ないっ!」
幕画ふぃんさんが額を床にくっつけていた結月さんを引っ張る。寸でのところで。
MACKさんの振るう剣先が結月さんのいたところに振り下ろされていた。
「あ、危なかった!」動揺する結月さん。
「あの多幸感……ファンアートっ!」
「認知はしていたが、完全に隙を突かれたな」
額を拭う二人。しかし顔はまだニヤニヤしている。
「物書きくん! 今はそれ持ってて!」
大声で指示を飛ばしてくる結月さん。
「後でちょうだい!」
「あげません」
いじわるをする僕。
「ええええええええええええええ! 何でえええええええええええ!」
発狂する結月さん。
「MACKさん正気に戻してくれたらあげます……っていうか、MACKさん正気に戻せばまた描いてもらえるのでは?」
「その手があったかああああああああああああ!」
即座に、
「マツバギク覚悟しろおおおおおおおおおおお! 根っこも残さねぇからなあああああああああ!」
野獣モードと言っても過言ではない。見た目と行動の一致。
「花ちゃん、連携だ!」
幕画ふぃんさんもやる気満々。床に落ちていた剣を拾い上げる。殺気というか、黒いオーラが全開になる。
まぁ、とにかく、僕が言えることは。
おそるべし、ファンアート。
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