管理者のお仕事 ~箱庭の中の宝石たち~ 番外編7 21回目の世界崩壊

出っぱなし

第1話

 199X年、世界は最終戦争の業火に包まれた。

 海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体が死滅したかにみえた。

 だが……人類は死滅…………やっぱり……していました。


~ 完 ~















「い、いやぁああああああ!!!」


 この世界の創造主、美の女神イシス・エメラルドの悲鳴が天上界にこだました。

 天上界にいる他の神々は、またかと嘲笑している。

 

「う、うう。なぜですか? なぜ、人は己の全てが破滅してまでも争うのですか?」


 イシスはがっくりと四つん這いにうずくまった。

 これで何度目になるのか、また創造世界を崩壊させてしまったようだ。

 

 やれやれ、世話の焼ける女神じゃ。

 神々の王である神王たるワシが、直々に慰めてやるかのう?

 御礼にそのこぼれんばかりのデカ乳を揉ませてもらって、チョメチョメを……

 ムヒョヒョヒョヒョ!


 ワシは、神王の絶対不可視の隠密スキル『全てを見守る者』を解いて、イシスの元へと向かおうとした。


「ああ、もう、うるさいわね? あんた、またやらかしたの?」


 運命の女神クロートー・アパタイトが、ワシよりも先にイシスの側にやってきた。


「うえーーん! ロティちゃん、聞いてよぉー!」


 イシスは、クロートーの薄い胸にすがりついて、世界崩壊の顛末を涙ながらに喚き散らした。

 クロートーはやれやれと呆れ顔でため息をついたが、頭を撫でてたまに肩を抱いたりイシスを慰めている。


 チッ!

 あの貧乳め、またワシの邪魔をしよって。

 ワシは、解こうとしていた『全てを見守る者』を維持し、再びイシスの仕事の監督ストーキングに戻った。


 クロートーに慰められ、元気を取り戻したイシスは再び世界を創造し直した。

 これで、イシスの天地創造はかれこれ21回目を数えることになった。

 しかし、まだ一度も世界の寿命まで存続させてはいない。

 つまり、すでに20回も世界崩壊をさせている。


 天上界の落ちこぼれ、どこまでも駄女神、ある意味破壊神、それが美の女神イシス・エメラルドである。

 

 イシスは元になる核戦争で汚染された世界を、女神の力で浄化した。


 一日目、

「光あれ!」

 イシスの一言で、世界には再び光が差し、昼(光)と夜(闇)が生まれた。


 二日目、この世界は中古のため、すでに空(天)は存在している。

 イシスは大地を作り直し、海が再び生まれ、地に植物を復活させた。


 三日目、太陽と月と星はすでに創られておる。

 イシスは、魚と鳥、獣をつくり、神に似せた天使を創った。

 調子に乗って幻獣も創った。


「よーし! ここまでは、完璧です! 世界の基礎が出来ましたので、休憩です!」


 イシスは、天上界と創造世界との狭間に浮かぶ小島『世界の観測所』へとウキウキと戻っていった。


 うむ。

 流石に21回目となれば、イシスですら手際が良いわ。

 中古とはいえ3日で世界を創るとは。

 ワシですら、初めて天地創造をした時など、休憩は7日目だったのに。

 

 イシスはああ見えて、意外と能力はあるのじゃ。

 それ以上に、頭が残念すぎるのじゃが。

 それ故に、可愛がりたくなる。

 決して下心ではない!

 もう一度言う、断じて下心ではない!!


 それから、数万年の時が流れた。


「はわぁああ! 魂の輝きはいつ見ても宝石のようでキレイです!」


 イシスは飽きもせず『世界の観測所』にあるドーリア式の一部屋だけの小さな石造りの神殿で、大きなクリスタルの結晶で創造世界を眺めていた。

 紅茶とチョコレートケーキを頬張り、優雅なティータイムじゃ。


「何よ、また引きこもって世界を眺めてるの?」

「あ、ロティちゃん、久しぶり! うん、だって、順調で楽しいんだもん!」

 

 確かに、イシスの言う通り、今回の世界は順調に栄えている。

 やはり、人という種を作らずに代わりに天使にしたことで、平和な世が長く続いているようじゃ。

 だが、神のお告げに忠実すぎて、人間に比べていささか退屈じゃがな。

 堅実な天使たちのおかげで、イシスの創造世界は初めての成功になりそうじゃな。

 ワシも上司として嬉しい限りじゃ。


 クロートーは、文句を言いつつもイシスの横のソファーに座って一緒にケーキを頬張った。

 イシスと一緒にクリスタルを眺めている時、クロートーは何かに気が付いた。


「あら? イシス、あの柱ヒビ入ってない?」

「え? どれどれ?……あ、本当だ! ずっと気付かなかった。」


 おお、本当じゃ。

 ワシも気付かんかった。

 流石に21回目の天地創造にガタが来ておったか。

 普通なら、ここまで酷使はせんからな。


「うう、どうしよう。わたくし不器用だから直せないよ。」

「それだったら、神王のエロクソジジイの息子のヘパイストスに頼めば? 確か、建築の神だったでしょ?」


 誰がエロクソジジイじゃ、この胸タイラー!

 女好きで何が悪い!

 ワシは、ハルマゲドンに備えて子をたくさん作らねばならんのじゃ!

 だから、愛人を作るのは当然の義務じゃ!


 ぜぇぜぇ……落ち着け、ワシ。

 ここで怒りに任せてあの無乳を懲らしめてしまったら、ワシがイシスをストーキングしているなどと良からぬ噂が立ってしまう。

 これも、仕事の一つじゃからな!

 下心ではない!

 親心じゃ!


「うーん、ヘパくんかぁ。」

「何、ずいぶんと嫌そうな顔して?」

「う! だって、いっつも睨まれて怖いんだもん。」


 と、イシスはビクビクした目で震えた。


 うむ、ヘパイストスか。

 あやつは仕事好きの堅物だが、別にイシスを嫌ってなどおらん。

 むしろ、イシスのデカ乳を好きで凝視しておるだけじゃ。

 顔が厳ついから、睨みつけておるように見えるだけじゃがな。

 あのムッツリスケベが。

 

「何子供みたいな事言ってるのよ。そのうち壊れても知らないわよ。」

「うう。だったらロティちゃんが頼んできてよぅ。」

「ええ、嫌よ! あいつ、元嫁のアフロディーテが弟のアレスにNTRれて離婚してから、溜まりまくってんのよ。女神なら誰でもいいってぐらいギラついてて近づきたくないわ!」

「あうう! ロティちゃん帰らないでよー!」


 クロートーは、半泣きで頼むイシスを置いて帰っていった。


 我が息子ながら哀れになる。

 神々の中でも上位の地位なのに、ブサメンは偉くなっても女にはモテんか。


 それからさらに数万年が過ぎた。

 終末の日はやって来た。


「ふん、ふん、ふふん♫」


 イシスが鼻歌を歌いながら『世界の観測所』の模様替えをしていた。

 神殿の柱は最早、誰の目にも明らかなほど折れる寸前だった。

 しかし、イシスは未だにヘパイストスに頼んでいなかった。


 ワシは黙って見ていた。

 いくらヘパイストスと話をするのも嫌だと言っても、仕事の責任を果たす義務があるのじゃ。

 相手が怖いなどといって、必要な仕事を後回しにするなど言語道断じゃ。


 だが、ワシは忘れておった。

 コヤツはダメな女神、駄女神なのじゃと。

 

「おう、邪魔するぜ?」

「ひゃぅ!? へ、ヘパくん!!?」


 イシスは、ヘパイストスの突然の訪問に驚き、後ろに飛び上がった。

 そして、でかいケツがドンっとぶつかった。

 壊れかけの柱に。


「もう、イシス! あんたがいつまでも柱の修理をしないからあたしが代わりに……あ。」

「いたた。……あ、ああ、ああああ!!?」


 柱はこの衝撃で見事にへし折れ、真っ逆さまにイシスの創造世界に落ちていった。

 この柱はただの柱ではなかった。

 神世界の柱なのである。

 硬度は星をも砕く硬さ、質量はブラックホールよりも重く、速度は光を超え、宇宙の法則が乱れる。

 

 そして、世界は『無』に帰した。


 柱が折れ、瓦礫の山と化した『世界の観測所』でも、虚無に等しい沈黙が流れた。


「……あ、オレ用事思い出したわ。」

「あ、あたしもそういえば……」

「え? え? ふ、ふたりとも、どうしたの?」


 ハッと気付き、ヘパイストスとクロートーがススっと逃げるように消え、イシスは現実を理解できていないのか、オロオロとしたまま座り込んでいる。


 ……イシスよ。


「ふぇ!? こ、この声は神王様!?」


 そして、ユラリと姿を現したワシを見て、戦慄した顔で固まった。


 こんの、ぶわっかもんぐぁあああ!!!!


 ワシの怒りが大爆発した。


 この時、すべての神々は『ハルマゲドン』がついに始まったのかと勘違いした。


☆☆☆


 その後、ワシの本気の怒りで、イシスは数万年泣き続けた。


「う、うう。次が最後の挑戦です。でも、落ちこぼれのわたくしには自信がありません。どうすれば良いのでしょう?」


 イシスは未だに天地創造をすることなく、天上界をトボトボと歩いていた。

 そこに、神々の女王であるワシの妻ヘラがイシスに近づいてきた。


「あら、イシス、元気がないわね?」

「え、へ、ヘラ様!?」


 イシスがヘラに跪くとヘラはにこやかに笑った。

 そして、上機嫌にイシスに悩みを打ち明けるように優しく微笑んだ。

 イシスは戸惑っていたが、少しずつ天地創造のことについて話し出した。


 一体、どうしたというのじゃ?

 我が妻ではあるが、こんなに上機嫌なのは初めて見る。

 いつもすぐにヒステリーを起こすし、嫉妬深くて女神たちにすぐに因縁をつけるので、神々から恐れられておるというのに。

 イシスの天地創造に快くアドバイスまでしておる。


「な、なるほど! 世界の管理者を選ぶのですか!」


 イシスは目からウロコが落ちたかのように元気になった。

 そして、ヘラに何度も礼を言うと早速管理者を探しに旅立った。


「うふふ。……さて、あなた? 見ているのでしょう? 出てきなさい」


 ヘラは笑顔でイシスを見送るとくるりとワシの方を振り向いた。

 

 な、なん……だと……!?

 ワシの究極の隠密スキルを見破ったのか!?


「当たり前です。あなたの気配など、わたくしにはありありと感じますよ?」


 な!?

 こ、心まで読んでおるのか!?


「当然です。わたくしには隠し事は出来ません。さあ、帰りましょうか? 数十万年もわたくしを放置していたのです。他の女と浮気できなくなるまで絞り取りますわ! ムフフフ!」


 ひ、ヒィイイイ!!?


☆☆☆


 その後、イシスは神の代理人、世界の管理者を見つけた。


 ここから本編の管理者のお仕事の始まりとなる。

 21回の大失敗を生かし、22回目の正直になるか、それは神々ですらまだ分からない。

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