10話.[察してしまった]
「椛」
「はい?」
「キスしたいのか?」
あーって察してしまった。
間違いなく翼が余計なことを言ったなこれは。
「私は抱きしめてほしいです」
「そうなのか? 俺はべたべた触れられるのが嫌だと思っていたからなにもしていなかったんだけど」
「え、どんどんしてくださいよ、私達は付き合っているんですから」
と、自分で言っておきながら照れてしまったという……。
でもまあ、事実付き合っているんだから遠慮しないで求めてきてほしいというのはあった。
キスとかはいいからもっと触れていたい。
好きな人に触れていたいと考えるのはおかしくはないはずだ。
「じゃあほら、これでいいか?」
「はい、あ、私からもいいんですかね?」
「そりゃそうだろ、付き合っているんだし」
おお、背中に触れることなどはほっとんどなかったから初めて分かったけど、やっぱり表だけじゃなくて裏もがっしりしているんだなって。
男の子なんだなあってよく分かる要素のひとつだった。
「つかなんでいきなりキスという話になるんだ?」
「それは翼が勝手に言っているだけですよ、私はこれだけで満足できますから」
「なんでいきなりなんだ?」
えっと……あれは言っていいのかな?
翼が大好きなお兄さんではあるから「まだ早いっ」とか言って相手の人をぼっこぼこにしたりとかしないかな?
というか、友達が異性とキスしたことを普通にほいほい吐いてしまっていいのかなという常識的なあれで引っかかっているのもあった。
「翼が興味ある的なことを言っていたので」
「そうなのか」
無難な感じにしておいた。
やっぱり勝手に話してしまうのは違うし。
「椛は?」
「私は先程も言ったように抱きしめてもらえるだけでいいです」
「ふーん、そうか」
キスはもう私の普通からは外れてしまっているから駄目だ、もしされたら精神が終わる。
「別に無理やりにとかしねえから安心しろ」
「はい、紅葉がそんなことをしないと分かっていますから」
「ただまあ、翼の気持ちは分からなくはないな」
「え?」
おっと、これは少し意外な感じだ。
急激な変化を嫌がっているのは彼もそうだと思っていたけど、どうやら違ったみたい。
「キスができる相手っていうのはそれなりの関係の人間だろ? で、俺らは恋人同士だから両方が納得していればできるわけだ。それだったら興味が出てこないか? というか、しておかないと不安になるっていうかさ」
「あ、浮気とかしませんからね?」
「ああ、椛がそういうことをしないって分かってる。でも、椛の側に男が近づく度にこっちが不安になるんだよ」
あ、確かに紅葉の側に女の人がいたら気になるかもしれない。
そんなことにはならないと思っていても引っかかる自分が絶対に出てくるだろうから……。
「し、したいんですか?」
「まあな」
「し、してくれるなら……いいですよ?」
「いいのか? じゃあじっとしておいてくれ」
もちろん見ていることなんてできないからぎゅっと目を閉じてそのときを待って。
されてから分かった、確かにされたなあぐらいにしか分からないということが。
「あ、ありがとうございました」
「おう」
でも、逃げたくなったりはしないことも分かった。
「好きです」
「おう」
「あれ? 耳が赤くなっていますけど……」
「触れるなよ馬鹿っ、いいから黙ってゆっくりしておけっ」
「はーい、分かりました」
兄妹揃って可愛いかよと言いたくなったそんな一日だった。
これからも近くで見られればいいなあ。
47作品目 Nora @rianora_
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