私の大切な宝物

NOTTI

第1話:彼女の葛藤

 「私にはたくさんの仲間がいる。」そう言って真莉愛は突然姿を消した。この言葉の後に「ただ、本当にみんなが私を仲間だと思ってくれているのかは分からない」と続けた。そのことを知らなかったマネージャーは翌日に校閲にかける彼女の新作小説の原稿を取りに彼女が住んでいる高級マンションに向かった。マネージャーは坂の上から彼女の部屋のベランダが見えたのだが、彼女の部屋が真っ暗な事に違和感を覚えた。なぜなら、彼女は高校生から大学生にかけて学校以外はマンションにひきこもって小説を書いていた。彼女は生活のためにバイトもしたが、飽きっぽい性格と笑顔を作る事が苦手で短期間のうちに辞めてしまう生活が続いていた。しかし、彼女がアルバイトをしているという話しも聞いた事がないし、彼女がどこか別の部屋を借りている・一軒家を購入したなどという話も聞いていない。そのため、ただ単に彼女が戸を閉めて家の中にいると思ったのだ。そして、マネージャーが彼女の部屋の呼び出しを鳴らすと部屋にいたのは彼女のアシスタントである華菜と優希、彼女の身の回りの世話などをしている菜々だった。そこで「真莉愛さんはいらっしゃいますか?」とマネージャーが訪ねると「彼女は今気分転換で外に出ています」というのだ。マネージャーはこの言葉を聞いて彼女は以前の彼女とは違い、少しは外に目を向けて動けるようになった。そう思っていた。


以前から彼女は小説を出すと映画化を検討され、多くのドラマや映画のプロデューサーから逆指名される事もあり、多方面から引っ張りだこだった。そのため、周囲からの嫉妬や不特定多数からの誹謗中傷を受ける事もしばしばだった。しかし、彼女にとってはこれらの行為はどこか有名になった事の裏返しなのではないかと思ったのだ。なぜなら、彼女のデビュー作は発売日から順風満帆なスタートではなかった。しかし、友人が紹介した相手が有名人やインフルエンサーに紹介して、社会全体に対して彼女を知ってもらうためのきっかけを作ってきた。それが見えないプレッシャーになっており、以前から“今執筆している作品ももっと良くしないといけない”という気持ちが先行してしまい、ちょっとニュアンスが変わってしまったとしても敏感になり、ちょっとしたスランプ状態になっている事もしばしばだったという。


 マネージャーは彼女の担当になってからまだ2年と日は浅いが、彼にとっては若手有名作家を担当できる事に喜びを感じていたというが、どこか不安要素が日に日に増えていくことでマネージャーの方が逆プレッシャーになっていた。


 そして、原稿の締め切り当日に彼女が部屋に戻る事はなく、連絡も取れない状態になった。一体彼女に何があったのか?マネージャーは不安で仕方がなかった。


 しかも、彼女の彼女が家を飛び出してから3日後に彼女のマンションに再び訪問することになっていたが、仮にまだ彼女が帰宅していない、連絡が取れない状態になっているという最悪の事態を想定しなくてはいけないとマネージャーの脳裏を渦巻いていた。彼女のマンションは今住んでいる場所以外は知らない。そのため、彼女がどこか別の場所にいるのではないかと考えていたが、彼女には仲の良い小説家さんはいるが、北は北海道、南は沖縄まで全国にいるため、彼女がその人たちに会いに行っているとは考えにくい。しかも、他の小説家さんも締め切りに追われている事はマネージャーも知っていた。彼女の家を訪問することになっていた前日になっても真莉愛からの返信が来ないことで今書いている小説の発表も延期せざるを得ないと思っていた。


 そして、訪問当日になったが結局彼女から返信は来なかった。


 しかし、彼女の家に行くとアシスタント2人と彼女の脚本担当マネージャーがいた。そこでマネージャーが「真莉愛さんは何かお仕事でいないのですか?」と尋ねると、脚本担当マネージャーは「今はまだ公表できないですが、複数のドラマの脚本を依頼されていて、別の場所にある書斎で依頼された脚本を書いています。なので、小説のデータは合間に書くと言っていましたよ。」というのだ。実は出版社のマネージャーはこの事を聞いていない。そのため、何度連絡を取ろうと思っても彼女の携帯はサイレントモードになっていたため、彼女には通知は届いていたようだが、返信する暇はなかったようだ。


 その間はアシスタント2人が彼女から送られてくる小説を管理し、校閲などに出していたが、最近は彼女から送られてくることはなく、アシスタントも心配していたようだった。

そして、約2週間ぶりに彼女から原稿が届き、その原稿を社内検討会にかけて承認をもらって製本作業に入った。そして、同時に彼女の本の書店等での発売日の決定と各取り扱いサイトでの一般向け予約開始日の設定、書店などからのオンライン予約開始の設定とかなりバタバタしていた。


 しかし、彼女はどれだけ遅れてもきちんと支えてくれる周囲の仲間たちに感謝をしていた。


 彼女はこれまでは孤独と不安が大きかったが、アシスタントやマネージャーからいろいろとフォローしてもらえるようになってから自分の仕事に対して自信を持てるようになって、作品も最初は何度も書き直しや修正箇所が多く、予定通りには動いていかなかったが、今はスムーズに出版まで動いていくようになった。


 彼女は今まで失っていた自信を仲間や読者の皆さんの温かい声援と共に取り戻した。

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