【KAC20216】神転で行く異世界勇者ソラの冒険

海星めりい

神転で行く異世界勇者ソラの冒険

「ここ……どこ……?」


 なんかよく分からない真っ白な部屋に私――水瀬みなせそらはポツンと立っていました。


「え、ちょっと待ってホントにどこですか、ここ!?」


 先ほどまでは多少寝ぼけたような感じだったのですが、急に頭がシャッキリしてくると、状況のおかしさに気付きました。


 こんなところに来た記憶などない……というか、少し前まで何をしていたのかの記憶がないのです。


 いったい、なぜ……と悩む私の目の前に光り輝く人型が現れました。

 それも妙に威厳のありそうな声と共に。


「ふぉっふぉっふぉ。ようやく目覚めたようじゃな、水瀬空よ、待っておったぞ」


「……どなたですか?」


 光り輝く人型が喋りかけてくるとかおかしさしかないが、そもそもの状況がおかしいので気にしてもしょうがありません。


 それよりも今は少しでも情報が欲しいところです。


「お主という魂を拾い上げたもの……簡単に言うと神様じゃな」


「神様? いや、それよりも魂?」


「そうじゃ。水瀬空よ、お前は死んでしまったのじゃ。死んだことは覚えておるかの?」


「死んだ……うっ!?」


 そう言われて頭に頭痛が走るのと同時に、それらしき状況がフラッシュバックしてきました。


 私が死んだというのは間違いないようです。

 でも、いったい何のために私は神様に喚ばれたんだろう? そう考えている私に神様は話はじめました。


「そこでじゃ、死んだお主にはこのまま異世界に転生して貰いたいんじゃ」


「神転、神転ってやつですか!」


「なんか、急にテンション上がったの。まあ、お主の言うその、神転? には違いないのじゃがな――……」


 そうして、私は神様からどうして転生して欲しいのかの説明を聞きました。


 どうやら、私は生への渇望とか未練とか――所謂、魂の輝きが強いらしいです。


 そういった魂には試練を与えて、その試練を突破したら元の世界に良い条件で再び帰ってこれるみたいですね。転生なのか、死を無くしての復活かは本人次第とのこと。


 試練となる異世界はファンタジー的な世界のようで、そこで魔王を倒して世界を救えという話ですね。テンプレと言えばテンプレでしょうか。


 転生して復活したいのは山々なのですが、このまま転生? 転移? したところでただの女子高生である私がどうにか出来るとは思えません。


「なにか、超強い能力とかもらえるんですよね?」


「残念ながらそういう能力を授けることはできんのじゃよ。規定で決まっておるのでな……」


 そう言われ、思わず『ええー……』という顔をしてしまいました。

 そんな私の顔を見た神様は落ち着けと言わんばかりに続けざまに話しました。


「しかし、何もサポートを付けずに送り込むようなこともしておらん」


「というと?」


「向こうの世界の技や魔法の全てを使える身体とメンタルの強化じゃ!」


「微妙……」


 思わず声に出してしまいました。いや、悪くはないんですが、自分で努力しろってことですよね、それ。


 メンタルの強化は……魔獣とか人をやっちゃった時に役に立つ感じですかね。一歩間違えたらサイコな感じになりそうですが。


「そう言われてものう……そういう決まりじゃし。引き受けないというのならこのままあの世に行ってもらうだけじゃから、儂としてはそれでも構わぬがどうするかの?」


 そんなこと言われたら受けるしかないじゃないですか。チャンスをフイにする気はないのです。


「分かりました。異世界に行きます」


「おお、よかった! では、水瀬空よ! 行ってくるのじゃ! 行ってくれてよかったのう……また新しいのを探すのは面倒じゃからな」


「ちょっと、待って!? 最後、なんて言い――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 私は言い切らないまま、足下に開いた穴に吸い込まれていくのでした。


 この時の神様の言葉の意味を理解するのは後々のことになるのです。





 **********************************





「はぁぁぁぁぁぁぁぁ! 〝エンチャントホーリー!〟続けて、〝セイントクロス!〟 これで、とどめです!」


「ぐああああああああああああ!?!?」


 聖なる加護を加えた剣で、無防備な身体を十字に切り裂きます。


 すると、私の一撃を食らった魔族はその身体をグズグズに溶かして消滅させていきました。


 〝毒のヴェノミーサー〟と喚ばれた魔王の幹部の一人でしたが、しっかりと対策を取っていればなんとかなりましたね。


 無傷とはいきませんでしたが、致命傷にはほど遠いです。


「やったな、ソラ!」


「ふん、この俺が協力してやっているのだ。当然だな」


「よ、よかったです。無事に勝てました」


 〝毒のヴェノミーサー〟を倒した私の元にやって来たのは仲間達です。


 順番に剣士のアレス、弓士のフリューゲル、僧侶のシャロン。

 この三人に勇者の私――ソラを加えたのが勇者パーティと呼ばれる対魔王の精鋭部隊となります。


 魔王には十を超える幹部がいると聞いていましたが、今倒した〝毒のヴェノミーサー〟で六人目になりますが、苦戦した幹部はいません。


 なぜなら、私達は下調べをして、技術を磨いて、連携も磨いて――まあ、準備をちゃんとしてから闘っているわけですよ。


 私、RPGではその街の最強防具と最強武器を全員に装備させてから次に進む派だったので、転生してからもそんな感じで魔王軍と戦っているのです。


 安全に勝てているわけで、仲間から批判が来たことはないのですが、からは批判が来るのです。


『違うんじゃよなあ……』


『何が違うっていうのですか?』


 脳内で語りかけてきたのは、私をこの世界へと送り込んだ神様です。

 どうやら転生しても会話はできるようで、時々語りかけてくるのですが、


『そこは毒をくらってピンチになってからの逆転じゃろ? 敵の大技を封じ込めて、終始有利な状況とかカタルシスが足りん。全く面白くない』


『知りませんよ!? 大体、私の行動が物語になるなんて一言も聞いてなかったんですけど!?』


 そう、この神様大事なことを一つも言わないまま私を異世界へ送ったのです。

 三人目の幹部を倒したあたりで唐突に神様から呼びかけられました。


 いきなり脳内に聞こえてくる声に最初は混乱して口に出してしまったせいで、仲間からは心配されてしまいましたが、そこはどうでもいいです。


 大事なのは、私の行動が物語になるということ。


 そして、それが神様達の間で読まれており、と言うことです。


 つまり、これは異世界を救うのと同時に、神様の娯楽的欲求を満たすエンターテイメントなわけです。


 これのどこが〝試練〟なんですかねぇ!!

 聞いたときには思わずぶち切れそうになりましたよ。


 私以外にも別の神様に同じような感じで転生や転移させられた魂がいるらしく、そういった魂の物語をみるのが神様達の間でブームなのだとか。


 なんだそのブーム?


 で、神様が私にわざわざ言ってきたのは、私の活躍がつまらないからだそうです。

 万全の準備をして、相手からの攻撃が致命傷にならない物語を読んでも面白くないとのことです。


 知るかぁ!?


 こちとら命がかかってんですよ! 準備をしていくのは当たり前でしょうが! 


 その後、一応、幹部の四人目ぐらいから物語ということを意識して闘ってみているのですが、


『山場がないんじゃよ、山場が……分かるかの?』


『……相手から一撃貰ったじゃないですか。攻撃くらってますよ?』


『そんなもん攻撃に入るわけないじゃろ!?』


『なんでくらって怒られなきゃいけないんですか!?』


 といった感じで上手くいきませんでした。


 さっきの〝毒のヴェノミーサー〟も同じ感じでダメだしされていますしね……。


 とりあえず、次の戦いからはもう少し流れを意識してみます。


『……いやダメじゃろ。なんで剣を吹っ飛ばされたのに、ピンチに陥らず拳で倒しとるんじゃ……』


『……魔法が封じられたからって、魔法が放てる道具を使うとか、ピンチのピの字もない戦いじゃった』


『……ブラインド状態にされても気配で避けたら意味ないじゃろ。というかどうやって魔法までよけたんじゃお主……』


 大失敗でした。


 剣を落として戦ってもダメ、魔法を封印された状態で戦ってもだめ、見えない状態で戦ってもダメ、人気が上がらないと神様に言われ。


 仲間からは変な戦いをし出した私の事を私らしくないとまで言われ、不審がられる始末。


「ああ、もう!? 私にどうしろって言うんですかぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 次は裸で戦えとでも?


『それ、新しいのう! 採用!』


『乙女的に絶対、ノウです!』


 神様からのアホな提案を蹴りつつ、今日も私はどう山場のある物語を作ろうか、と頭を抱えながら魔王軍との戦いへ赴くのでした。

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