僕は今日も小説を書く

カユウ

第1話

「……これでよし。あとは、SNS で書いたことを告知してっと」


 充電器につないだスマホを手に取りながら、独り言が口をついて出る。一人だとついつい独り言が出ちゃうんだよな。そんなことを思いながら今しがた投稿した小説を SNS で告知する。僕をフォローしてくれている人は少ないけど、やらないよりはいいだろうと思って続けている。

 パソコンで開きっぱなしにしていたワークスペース。その通知アイコンが光っているのに気づいた。小説の投稿作業をしているときはそっちに集中しているから見落とすことが多い。通知アイコンをクリックすると、前に投稿した小説に応援や★レビューがついたという文言が目に入ってきた。


「あ、前に書いた小説の評価がついてる。やったねって……え、うそ、マジか。コメントもらったの初めてじゃね?」


 嬉しくてニヤニヤしてしまう。読んでくれた人が評価してくれるって嬉しいよね。これがあるから、また小説を書いて公開しようって思うんだ。


「あー、でもこういう小説投稿サイトがなかったら、どうやってんだろう?」


 ワーキングチェアの背もたれに寄り掛かって伸びをする。ずっとパソコンに向かっていて固まった肩や背中がパキパキと音を立てる。そして、脱力したとき、ふと浮かんだ疑問を口にする。小説投稿サイト。自分が書いた小説を公開して読んでほしい人たちや、いろんな人が書いた小説を読みたい人たちが集まるサイト。もし、小説投稿サイトがなかったらどうなるか。


「小説投稿サイトがなくても、小説を書くことはできるよね。最低限、紙とペンさえあればいいんだし」


 パソコンの横に置いてあるネタを書いているノートと万年筆に視線を向ける。どうにもこうにも僕はアナログ人間らしく、考えをまとめるときは紙に書いていくのが性に合っている。機能的にはパソコンやスマホがあればいいのだが、考えをまとめる、ネタを作るという点では、紙とペンが必須だ。


「小説投稿サイトがないんだから、どこで公開する?ブログとか個人サイトを作ってそこに載せるのかな」


 プロの小説家の中に、個人サイトで小説を書いていたっていう人がいることは知っている。賞を受賞した小説より、個人サイトで掲載されていた小説のほうがメディアミックスされ、世間一般の認知度が高いというびっくり話つきで。そう考えると、小説投稿サイトがなかったら、ブログや個人サイトを作って公開するのだろう。書いた小説を公開する先はできた。だが、サイトを作っただけでは、見てもらえないはずだ。


「SNS で告知しても、僕の SNS をフォローしてくれている人にしか届かない。となると、検索?でも検索上位に来ないと読んでもらえないんだろうな」


 パソコンで検索サイトを開き、適当な言葉で小説を検索してみる。検索結果の上位に出てくるのは、有名な作品ばかりだ。これじゃあ僕みたいな素人小説書きが書いた小説を見つけてもらうことは難しいだろう。見つけてもらえなければ、読んでもらえない。読んでもらえなければ、こんなに小説を書いていないかもしれない。


「やっぱ小説投稿サイトがないと」


 ブラウザのタブを切り替えて、先ほどまで開いていた小説投稿サイトのワークスペースを表示する。先ほど投稿した小説の PV が上がっていた。

 小説を投稿する場所が自動的に小説の PV を集計してくれるのは、ありがたい。自分の書いた小説がどれくらい読まれているのかを知れると、次はこんな小説を書こうって思うきっかけになる。


「小説投稿サイトが告知してくれると読んでもらえる可能性が高くなる。ま、僕のが載ったことがあるわけじゃないけど」


 小説投稿サイトからのお知らせページへのリンクをクリックする。いろいろなお知らせの中に、公開されている小説の紹介記事がある。ここに載ったら PV や応援が跳ね上がるんだろうな。

 そんな妄想をしながら、先ほど見た自分の小説への応援やコメントを見る。


「PV が上がっていくだけでも嬉しいけど、応援やコメントがつくとね。ニヤニヤするわ」


 自分が書いた小説を喜んでもらえているという証拠を目にすることができるのは、踊りたくなるほど嬉しい。


「読んでもらえて、応援やコメントをもらえると、もっといい小説を書きたいって思うよね」


 改めて、自分の小説が受け入れられたという証である通知を見直す。自分の中にある小説を書きたい気持ちが湧き上がってくるのを感じる。


「それに、他の人が書いた小説を読めるっていい刺激になるよね。すごい小説を読むと、僕ももっといい小説を書こうっていう気になるし」


 マイページへのリンクをクリックし、フォローしている小説の一覧を見る。あ、未読ありの小説があるわ。


「小説投稿サイトがあるから、僕は小説を書き続けてるのかも。未読読んだら次のネタ考えよう。いい小説書くぞー」

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