11.成果

◆ ◆ ◆


 遠野にとってはもう過去の事だったが、老人は昨日のことのように言ってくる。その後ろに控える九重は、相変わらず微動だにしない。執事然としているが、九重はあらゆる武術に優れた人物だと聞く。その上頭がいい。絶対に敵に回すべき相手ではないと、誰もがい知っていた。


「して、この場を用意したということは、わし等と手を組みたいということかのぅ?」


眼光鋭く、老人は遠野と百田をねめつけた。


「はい。勢力関係を保つためにも、その必要があるかと」


老人は椅子の背にもたれかかり、笑った。


「危ぶまれるのは、お前たちの方だけじゃろう?」

「はい。お力添えを賜れれば幸いです」


遠野が老人に向かって深々と頭を下げたので、百田もあわてて真似をする。


「では、この条件でどうかのぅ?」


老人が九重に視線を投げかけると、九重は用意してきた資料を遠野と百田に渡した。そこには、水墨画と自画像のタトゥーを先に回収し、勢力拡大を図ること。つまり、瞳と地獄絵図のタトゥーを回収するのは後回しにすることが記されていた。遠野が資料から顔を上げたのと同時に、九重が口を開く。


「どうやら、地獄絵図のタトゥー保持者である一般人は、水墨画のタトゥー保持者である水牙に恩を感じているようです。そして、自画像のタトゥーの保持者である教祖は、水牙の保護下にあることが判明しております。つまり、一つのグループに二つのオリジナルのタトゥーが所有されている現状があります。そこで、先に水牙と教祖を襲えば、二藤部瞳、サブロウ、一般人である市村真幌は、助けに入る可能性が高いのです。ここで全てのオリジナルのタトゥーが集まれば、全てを手に入れることも可能かと存じます」


そう言って、九重は一礼した。ふんぞり返ったままの老人は、笑いながら「まあ、そういうことだのぅ」と白い髭を撫でつけた。


「お言葉ですが、我々だけで他のタトゥー全てを相手にするには、危険だと思われます。やはり、二藤部瞳か市村真幌のどちらかを先に入手してはいかがでしょう?」

「わしに意見とは、随分偉くなったのぅ。遠野」

「いえ。そういうわけでは……」

「なら、どういうわけかのぅ? 臆病風に吹かれおって。全てのタトゥーを、敵に回せば、の話じゃろう?」

「それは、どういう?」

「まあ、見ておればいずれ分かる。とりあえず準備が必要じゃ。準備が出来れば出向いてやろう。九重」

「はい」


九重が椅子を引くと、老人は立ち上がり会議室を後にした。遠野と百田はその場に立ち尽くし、百田は頬を膨らませた。


「あーあ。お爺ちゃんは僕のマウスには興味なしか。残念」

「俺たちは立場的に逆らえない。協力をしてくれると言うだけで成果だ。帰るぞ」

「はぁい」


遠野と百田は駅に向かい、それぞれに違った意味の溜息を吐いた。


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