3.すれ違い
『私はある意味、カルトのやっていることに賛成よ』
『救いがあるからやろ? でも、財産全部吸収しとるで。しかも、洗脳して』
『汚く得て、キレイに使う。信者も社会貢献し、自分の罪に向き合い、幸せに死ねるなら、これ以上何を望むの? 集団を維持するなら、経費も掛かるのは当然でしょ?』
『俺のやろうとしとることは、自己満足かいな?』
『それ以外の何? あなたはこの人を救えるの?』
どちらの主張も正しいと思ってしまう俺は、やはり一般人だからなのか。しかし、もしも水牙の言うカルトがなかったら、この人たちは、一体どこに行けばよかったのだろう。迫りくる死の恐怖におびえる日々の中で、何にすがって生きていけば良かったのだろう。カルト宗教は、本当に壊滅させなければならないモノなのだろうか。では、この人たちの苦悩を、誰が緩和させてあげられるのだろう。カルト以外に救われるモノがなかったから、ここにこうしているのではないか。
「真幌!」
水牙が叫ぶ。
「教祖様の敵は、俺の敵だ!」
一人の男が、獅子に変じて俺を頭から食らおうと、大口を開けて襲い掛かって来た。動物画の偽タトゥーだ。咄嗟に俺はその口に向かって火の玉を放って、応戦した。獅子は口の中を焼かれ、言葉にならない叫び声をあげて人間に戻り、床に転がった。これを見た他の男たちの表情が固まる。その表情は、皆等しく、恐怖の色をたたえていた。
「あれが、地獄絵図のタトゥーか」
「あれが、あの……」
見たり聞いたりしたことがあるという反応だった。ある者はネットで見たのかもしれない。ある者は七里や他の人から聞いたのかもしれない。地獄絵図のタトゥーだけが、他のタトゥーを消滅させられるモノであることを。
「本物か?」
「本物なら、俺たちのタトゥーが消せるのか?」
「助かるのか?」
信者たちに動揺が広がる中、高木は叫んだ。
「騙されるな! きっとそいつのタトゥーも偽物だ! 俺達には教祖様がいる!」
俺を囲んでいた男たちの顔つきが変わった。何か重要なことを思い出したかのように、全員が祭壇の中央を見上げる。そして、男たちは口々に「教祖様」とつぶやき、俺を見て殺気立つ。自分たちの目の前にいる俺こそが、自分たちの救いを滅ぼしに来た敵であると再認識したのだ。高木は陣頭指揮を執るように、袂から包丁を取り出して掲げた。
「教祖様をお守りしろ!」
「教祖様の為に!」
「教祖様の敵!」
高木は包丁の刃を向け、ある者は毒蛇に変化し、ある者は持ち込んだ種子から植物を発芽させて、俺に襲い掛かった。凶刃が俺に届く寸前、俺は叫んだ。
「そんなに教祖様が大事か!」
攻撃が、一瞬白けたように止まった。それを見て、俺は続けた。
「大事だよな? 死ぬって、怖いもんな」
「真幌、何言うとんのや!」
虎の鼻先に強烈な蹴りを入れた水牙は、虎がひるんだ隙に水の刃を作る。頭を振り、再び向かってくる虎を、水牙はその刃で貫いた。轟然たる断末魔をあげて、虎が足を折り、その場に伏した。虎の肩の辺りから、血が広がって行く。虎は和服を着た青年の姿に戻っていた。すぐさま水牙が俺の背中を守るように、水の刀を持ったまま後ろに立った。
「真幌?」
背中合わせになったところで、水牙は俺が震えていることに気付いた。
「水牙。俺も瞳と同じ意見だよ。俺だって救われたい。そう思うのは、いけない事なのか?」
「真幌、こいつらは」
「分かってる。もう死ぬんだろ? でも、俺たちとどこが違うんだ? 俺も水牙も、他人が転写してくれなければ死ぬんだ」
「だから、カルトを野放しにしたらやな」
「科学集団が悪いんだろ?」
「ええ加減にせぇよ、真幌」
水牙のどすの効いた声に、俺は首を横に激しく振った。そして、祭壇の中央を見上げた。
「聞いているんだろ?」
祭壇の上には小さなカメラがあった。七里が監視するために使っていた小型カメラだ。もちろん、音も拾うようになっている。
「取引しないか?」
「もう、ええわ!」
水牙はしびれを切らして、水の刃を取り囲む男たちの人数分に分け、小さなカミソリを作った。それを男たちの首元めがけて放つ。しかしその瞬間に俺は炎の壁で、男たちを守った。炎の壁にぶつかった水のカミソリは、蒸発して消えた。
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