一章 裏切りと復讐

1.二次元趣味

 俺には友達が三人いた。我が強い佐久間さくまと、その佐久間の親友の富田とみた、そして干渉を嫌う葉月はずきだ。

俺は高校三年の初めから、扱いがおかしくなった。佐久間と富田が、クレーンゲームで動物のぬいぐるみを見たという話がきっかけだったと思う。そのクレーンゲームのぬいぐるみを、自分たちに見立てたというのだ。そして俺に割り振られたのは、サメだった。凶暴で、人を食うからだという。とても不快に思った。佐久間は一年の時から、ゲームのキャラの敵キャラを俺に当てはめて、自分が主人公のキャラになりきるのが好きだった。だから、この時はなんとなく笑ってやり過ごせたのだ。一見ばらばらな俺たちが一緒にいるようになったのは、ゲームやラノベ、漫画やアニメといったサブカルチャーのおかげだった。そして佐久間と富田は、二年の後半からコミケという漫画の交流イベントにはまっていた。俺と葉月は受験を控えているので、自然にそういったサブカルチャーから離れていた。

 

 佐久間と富田は、やがてコスプレに手を出して、本当に二次元のキャラになり切っていた。そして、何故か葉月ではなく、俺にばかり敵キャラを押し付けてきた。時には知らないキャラの名前で呼ばれ、俺が「知らないから」と言うと、二人は笑い合って俺にその漫画を貸してよこした。それは敵キャラの中でも気味の悪い最悪な人物だった。こんな奴の名前で呼ばれていたのかと、虫唾が走った。俺は佐久間と富田のコミケへの傾倒具合に、徐々に腹が立つようになった。そして二人も俺の塩対応に、嫌な顔をすることが多くなった。佐久間は俺に漫画を進めてきたが、受験を理由に断った。どうせまた、最悪な敵キャラで呼ぶのだと思うと、辟易した。佐久間はそんな俺の態度が気に食わなかったようだ。まるで俺に反発するように、腕にキャラの名前を彫ったのを見せたり、自作の漫画を描いて見せるたりするようになった。ちなみに元々自傷癖があった俺は、佐久間のこの行為により、再発した。佐久間の自作の漫画は、俺たち四人が登場する。佐久間は研究所で培養された人工神で、俺の両親がその研究員だったことから、佐久間(神)に殺されている。そのため俺は佐久間を恨んで、殺そうとしているというストーリーだった。佐久間は他のクラスメイトがいる前で、今度のコミケでこの漫画を売ると言い出した。勘弁してほしかった。しかもそのミステリーのトリックのネタは、俺が提供することになっていた。これは盗作ではないか。俺は怒り心頭で、その漫画の販売をやめさせた。

 

 俺は病気も持っていたから、同じく病気持ちの富田に色々と相談することが多かった。本当は俺のことをこれ以上「遊び」に使うことはやめてほしいと言うべきだったが、佐久間と富田の仲の良さを考えると、どうしても言い出せなかった。そんなことで貴重な高校生活最後の年になり、俺は富田と体育の授業を受けていた。その終わりごろに、富田は言った。


「何で、佐久間には相談しないんだ?」

「だって、あいつは今、自分が楽しいことしか目に入らないだろ?」

「そんなことないと思う」


俺は富田が、佐久間と俺の板挟みになっていることに気付いた。きっと佐久間は自分には相談できない事、つまり自分への悪口を言われていると思ったのだろう。俺は仕方なくうなずいて、言った。


「じゃあ、今度佐久間にも相談してみるよ」

「うん」


富田は嬉しそうに笑って答えた。俺が富田に、負担をかけていたことに気付いた瞬間だった。しかしこのやり取りが罠だったと気付くのは、もう少し後になってからだ。

俺はさっそく、佐久間に相談を持ち掛けてみたが、俺の塩対応に対抗するように、佐久間も塩対応だった。だから俺は佐久間に相談することをやめた。

 

 そして冬になり、体育の時間は室内競技が中心になった。そこで俺たちは卓球をやっていた。受験シーズンも佳境と言う時期だった。俺は二人に対峙していたが、二人は何かニヤニヤしていた。この顔はまたサブカルチャーのことを話している時の顔だ。今までの事や、受験のストレスから俺は、それに耐えきれなかった。意図せず涙が出て、富田に詰め寄っていた。どうして、相談に乗っていて、俺の事を知っているのに、そんなことをするのか。そう、問い詰めていた。すると隣にいた佐久間が、富田を保健室に連れて行ってしまった。俺も保健室に行くが、ここでも佐久間が富田を教室に連れて行ってしまった。その後、土日の休みに入り、電話やメールを富田に送ったが、全くの無反応だった。今思えば、この時佐久間と富田は、俺を嵌める計画を練っていたのだ。

 

 休み明けの日本史の時間、佐久間が俺に声をかけてきた。


「ちょっと、ついてきて」

「おう」


俺はやっと話し合いの場が持たれることを、期待した。富田に謝ることが出来ることに対しても、安堵していた。佐久間が先導し、俺の後ろに富田がピタリとついてくる。容疑者の移送のようで気分が悪かったが、今回の事に関しては俺が全面的に悪いから、何も言わなかった。しかし、佐久間は職員室に入り、担任にこう告げたのだ。


「連れてきました」


俺の心に針が刺さった。これでは本当に移送のようではないか。しかも、何故担任が、俺を連れて来させる必要があったのだろうか。これは生徒間の問題ではないのか。そして担任は相談室に俺を連れて来させた。そこには向かい合ったソファーがあった。


「終わったら、声をかけて」


そう言って、担任は職員室に戻っていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る