@torisensei04

第1話

線香が香る日のこと。

私は、野原を抜けあの人の元へと力の限り走った。

「おはよう。元気だった?」と息を切らしながらうも、もうあの人には届かない。

あの人は私の前で手を合わせてそっと目を瞑る。

それが不思議でたまらない。

ただそんなことよりあの人が愛おしくてたまらない。

「どうして私の前で目を瞑っているの?」と毎度疑問を持ったが、それはもうやめた。

だって私の前にずっと居てくれるんだから。


今日は私の前にあの人は来なかった。

私の前には知らないおばさんと知らないおじさんが居る。

「ねぇ。ここでどうしたの?」

その声は届かなかった。

その人たちもあの人と同じように私の前で手を合わせた。

すると後ろから声が聞こえる。

線香が香ったあの日のように、心がふわりとはずむ、ほのかに甘く、そして苦い香りが。

「おはよう。元気だった?」

私の前にはずっとあの人が居てくれる。

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