第七話「青いアイツを爆破せよ」
大量に積み上げられた爆弾を前にして、栗山林太郎は
しかもどうやら林太郎はこの爆弾を使ってヒーロー本部を爆破することになっているらしい。
「サメっちは気の
どこにも存在しない
このままでは、林太郎はヒーロー本部に戻るどころか、お
(ヒーロー本部を吹っ飛ばすだって? いくらなんでもそんなこと……いや待てよ? 肝心の爆弾がここにあるってことは……)
当然のことながら、このアークドミニオン地下秘密基地にこもっていては、神保町のヒーロー本部庁舎に爆弾など仕掛けられようはずもない。
そのことに気づいた林太郎は、せっせと台車に爆弾を乗せているサメっちに視線を向むけた。
「……出られるのか? この地下から?」
「んッスゥ? もちろんッスよ。あれ? やっぱりやめとくッスか?」
「いや、行こう。いますぐ出発だ!」
それは林太郎にとって願ってもない話であった。
怪人ひしめく地下基地からの脱出となると命がいくつあっても
しかしひとたび地上に出てしまえば、逃げおおせる可能性はグッと高まるというものだ。
(こいつは絶好の機会だぞ。監視役ぐらいなら俺ひとりでも対処できる。地上に出たら
林太郎は降って
ヒーロー本部への帰還がはやくも
自由の身になりさえすれば、そのあとで改めてアークドミニオンを壊滅させる策をじっくり
どのみち“緑の断罪人”にかかれば、秘密基地の場所を知られた怪人たちなど
いっそのことサメっちを
「クックック……思ったよりも簡単にいきそうだな。よし、これでいこう」
「おおー、なんだかやる気まんまんッスね」
「ああそうとも。目にもの見せてやるさ」
「さっすがアニキ! 頼もしいッス!」
林太郎のよこしまな
一番舎弟の
…………。
林太郎が爆弾でヒーローを吹っ飛ばしますと申し出たところ、思いのほかすんなりと車を借りることができた。
怪人たちはサメっちのことを「悪い子だなぁ~」と
そしてこれまた好都合なことに“監視役”として林太郎に
ところかわって東京郊外にそびえる廃工場。
かつては化学薬品工場として戦後の地域経済を
しかしそれも今や荒れに荒れて
立ち入り禁止の看板さえもツタに厚く
わざわざこのような
仲間内での
少なくともまともな人間が寄りつくことはない。
爆弾を“
「
「だーいじょぶッス。サメっちは
「なるほどそいつは頼もしい。じゃあまずスキップしながら運ぶのをやめようか」
林太郎の脱出計画における
監視役であるサメっちを捕縛するにあたり、抵抗のすえに自爆でもされてはたまったものではない。
もちろんこれが人口密集地で爆発しようものなら、ヒーロー本部への復帰どころか左遷すら生ぬるい処罰が待っている。
そこで林太郎はわざわざ車を人気のない郊外まで走らせたというわけだ。
ここなら
「はえー、こんなところで爆発させるんッスか? ヒーロー本部からだいぶ離れてるッスよ」
「いいかいサメっち、これは一時的に保管しているだけだよ。なくなったりすると大変だからね」
「なるほどッス!」
「ああ、これだけ離れていれば大丈夫かな……」
林太郎は爆弾から十分に距離を取ったことを確認すると、練りに練った計画を行動に移した。
「おりゃッ!!」
「はわッスゥ!?」
なにも知らず背を向けたサメっちの小さな体を、林太郎は両腕で抱え込んだ。
…………。
林太郎がサメっちに襲い掛かったちょうど同時刻。
彼らがいる廃工場の前に、ひとつの青い影が忍び寄っていた。
「こちらブルー。反応があったのはこの建物に間違いねえぜ」
彼こそは林太郎の“元”同僚・ビクトブルーこと
グリーンの“ビクトリー変身ギア”の反応を追って、ブルーは東京郊外にそびえる廃工場への潜入を試みていた。
今回どうしてブルーが単独かというと、何故かビクトレンジャー全員のロッカーが木工用ボンドでガチガチに封印されていたからである。
かろうじて武器一式を取り出せたのはブルーただひとりであった。
『こちら司令部。でかしたぞブルー。だが無理はするなよ』
「おいおい、冗談キツいぜ。俺は日本で一番の
そう言うや否や、ブルーは廃工場内にまるで
廃工場の内部は彼の予想通りもぬけの
だがたとえ怪人で
ここで説明しておこう!
ビクトブルーこと藍川ジョニーは元警察官である。
それも有事の際に建物へ
千葉県警突入救助班、通称ARTで数年前までエースを務めていたのだ。
彼の速さと判断力、そして射撃の腕前はビクトレンジャーにおいても
「こちらブルー、連中がここで何をしているのか突き止めてやるぜ」
『了解した。十分に注意しろ』
「ああ、言われなくてもわかって……ちょっと待つぜ。こいつはなんだか
廃工場内は倒れた棚やひっくり返った机など、あらゆるものが
しかしいまブルーの
まるでついさっき、ここに運び込まれてきたかのようだ。
「これは怪しいぜ……」
ブルーが箱の山に手を伸ばそうとしたそのときである。
「うきゃーーーーーッスゥゥゥ!!!」
ヒーローとしての本能が、ブルーの脳に警告ランプを
「こちらブルー! どうやら緊急事態っぽいぜ!」
ブルーが
「ひゃーーーーーッス!!」
「うへへ、動くんじゃないぞ……痛い思いはしたくないだろう?」
「いきなり抱きつくなんて大胆ッス!! アニキのえっちッス!!」
「あっ、こら暴れるんじゃない! このっ!」
人も寄りつかない廃工場で、男が幼女を無理やり抱きかかえていた。
ヒーローに限らず、誰がどう見ても明らかな事案である。
「現行犯逮捕だぜ!!!」
「なんだお前!? ジョニー!?」
ブルーが思わず叫んだその瞬間、林太郎とブルーの視線が
しかし
頂上に積まれていた緑のキャリーバッグが、ブルーの目の前にごろりんと転がり落ちて口を開く。
そこにはご
「……
次の瞬間ブルーの
林太郎とサメっちの眼前で、五〇メートル近い
あまりの衝撃に、林太郎はサメっちを抱えたまま廃工場の外まで吹っ飛ばされる。
そのままゴロゴロと
全身に
先ほどまでいた廃工場は、
「……そんなばかな……」
目の前で起こったことが信じられないとばかりに、林太郎の口からそんな言葉が
眼鏡は鼻の下までずれ、見開かれた目元に前髪がはらりと落ちる。
「アニキ、
「………………へっ……?」
「やっぱりアニキは大怪人の
林太郎に両腕で抱え込まれていたサメっちは、なんと無傷であった。
目をキラキラさせるサメっちに対し、林太郎はなにかを言い返すわけでもなく。
ただ
遠くで緊急車両のサイレンが鳴り響いていた。
その音に合わせて林太郎の
『エリートヒーロー、
『あまりにも残忍な手口、
『幼女が爆弾を……犯人の意味不明な供述』
『元同級生は語る“いつかやると思っていました”』
「あわ……あわわわわ……」
「アニキ、はやく逃げるッス! ヒーローきちゃうッスよ!」
この
ブルーを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます