第六話「極悪怪人のヒーロー本部爆破作戦」

 前回までのあらすじ!

 私物が爆弾に魔改造されていたよ! おわり!


「もちろんひとつだけじゃないッスよ」


 サメっちがクローゼットを開けると、そこにはぎっしりと見るからに怪しい箱が積み上げられていた。


「サメっちなべしていっぱい作ったッス」

「そんな千羽鶴せんばづるみたいな感覚で爆弾いっぱい作っちゃったの?」

「アニキの作戦通り、爆弾でヒーロー本部ごと残りのビクトレンジャーを吹っ飛ばすッス」


 かわいい顔をして前代未聞のテロをやろうというのだ、この幼女怪人は。


「いやちょっと待ってくれ、俺そんなこと言ったっけ……?」

「だってだって! アニキ昨日『……爆発しねえかなあ、ヒーロー本部』って言ってたッス!」

「いや言ったよ、言ったけどそういう意味じゃないんだよ」

「それにさっき『やるなら早いに越したことはねえ、いっちょやるか……』って笑いながらシャワー浴びてたッス!」


 確かにその通りなのだがその通りではない。

 林太郎の真意は語感ごかんを読みかれるどころか、大人が本気で作ったミニ四駆よんくなみに改変されていた。


「……さっきから気になってるんだけど、その“アニキ”ってのは俺のことなの?」

「もちろんッス! 頭のいいサメっちは確信したッス。アニキはぜったい歴史に名を残す大怪人になるッス! だからサメっちはアニキの一番目の舎弟しゃていになるッス!」


 ビクトグリーン、栗山林太郎、職業ヒーロー。

 二十六歳にして怪人(ロリ)の舎弟ができました。


「しゃ……舎弟……?」

「舎弟はアニキに尽くすものだってお姉ちゃん言ってたッス。サメっちはこれでも尽くすタイプッス」


 だからベッドに入り込んだり背中を流そうとしていたのかと林太郎は思い返す。

 しかし思い返しはするものの、納得できるかどうかは別の問題だ。


「待ってくれ、俺は別に舎弟なんて」

「ふふふ、心配ご無用ッス。サメっちこう見えてちょー有能ッス。じつは脅迫状きょうはくじょうも昨日のうちに出しといたッス」

「出しちゃったの!?」




 …………。




 いっぽうそのころ。

 ヒーロー本部、正式名称“国家公安委員会局地的人的災害特務事例対策本部”は朝から蜂の巣をつついたような大騒ぎであった。


 眉間に険しくしわを寄せるのはヒーロー本部長官。

 かつて日本初のヒーローチームでリーダーを務めた守國もりくにである。


「それで、情報はたったのこれだけか?」

「“ヒーロー本部ちょーしゃをばくはする。ごくあく怪人デスグリーン”……書かれているのはこれだけです。文面の内容から爆破予告である可能性が高いと推察すいさつされます」

朝霞あさか、このデスグリーンというのは何者なんだ?」


 名を呼ばれた女性補佐官は、眼鏡をくいっと上げながら事務的に報告書を読み上げる。


昨日さくじつ、ビクトグリーンを殺害したとの声明を発表した地下組織、アークドミニオンの新たな怪人であると報告書には記載されています」


 昨日の今日ということもあり、会議室の面々にとってはビクトグリーンの殉職じゅんしょくそのものが初耳であった。

 タバコの匂いで充満した会議室に激しい動揺が走る。


「そんなばかな! あの栗山が? 間違いはないのか!?」

「前年度の首席だぞ!? あの男が本当に殺されたっていうのか?」

「たしかにヤツは倫理りんりというものを知らない真性のくずだが、そう簡単にやられるものか!」

素行そこうはさておき、実績はもうぶんない男でしたからな……素行はさておき」


 ざわつくヒーロー本部の幹部たちに向かって補佐官は報告を続ける。


「ビクトレンジャーのメンバーが受けた通信の内容証言とも一致します。またそれを裏付うらづけるように昨日早朝、都内の駅を最後に栗山林太郎の消息は途絶とだえています。網走あばしり支部からも、まだ到着していないとの報告が」

「そんなバカな話があるか!!」

「残念ながら事実だ。今は議論を交わすべきことが他にある」


 事前に報告を受けていた守國は一言で皆を黙らせると、朝霞補佐官に続きをうながした。


「正体不明の怪人デスグリーンの脅迫文からは、日時など具体的なことは推察できかねます。しかしすでに栗山を手にかけている点から、愉快犯ゆかいはんである可能性は低いかと」

「そいつが“ヒーロー本部を爆破する”と言っているわけか……」

「なんにせよ情報が不足しています。現在動ける人員をすべて庁舎内の捜索そうさくてていますが、未だそれらしき爆発物の発見にはいたっておりません」


 重苦しい空気が会議室を包む。

 守國長官はしばらく考え込むと、ひとつの結論を出した。


「やはりこの案件を解決できるのは彼らしかいない。勝利戦隊ビクトレンジャーに出動命令を出せ!」




 …………。




 ヒーロー本部庁舎内の別室。

 ビクトレンジャー秘密基地ではメンバーが悲しみに暮れていた。


 明日は故・栗山林太郎の告別式が行われるのだ。


「うおおお! 礼服なんか持ってないぞ俺!」

「てか香典高いぜ。千円ぐらいでいいぜ」

「わしはパスでごわす。明日は整体の予約があるでごわす」

「えー、じゃあさ、アタシもパスってことでいい?」


 誰ひとり林太郎の死を疑う者はおろか、いたむ者さえいなかった。

 そこに司令官の大貫おおぬきから通信が入る。


『勝利戦隊ビクトレンジャーの諸君、作戦参謀さんぼう本部からの緊急指令だ。正体不明の怪人、デスグリーンのヒーロー本部庁舎爆破作戦を阻止そしせよ』


 その瞬間、ダラけきった空気がまるでまぼろしだったかのように張り詰める。


「仕事だ、やるぞ!」

「「「了解!」」」


 彼らが手にするビクトリー変身ギアにはブイのエンブレムが光り輝く。

 勝利のVであり、彼らが積み重ねてきた実績のVである。


 “心がたぎる赤き光”

 ビクトレッド――暮内くれない烈人れっと


 “悪を撃ちぬく青き光”

 ビクトブルー――藍川あいかわジョニー。


 “パワーみなぎる黄の光”

 ビクトイエロー――黄王丸きおうまる


 “知性きらめくピンクの光”

 ビクトピンク――桃島ももしまるる。


 忘れてはならない。

 彼らはヒーロー学校を首席で卒業した林太郎と同じ、東京本部付きのエリート。

 全国に数百もの支部を持つ、日本のヒーロー組織の頂点に立つ最強の戦士たち。


 “勝利戦隊ビクトレンジャー”である。


「ビクトレンジャー出動!」


 彼らは武器保管ロッカーに手をかけた。


 ロッカーは木工用ボンドでガチガチに封印されていた。




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