俺と先輩と恋心と

ふなぶし あやめ

俺と先輩と恋心と

 例えば、文芸部として日々学校で文章を綴っている高校生男児がいるとする。

 例えばそいつは、同じ学校の先輩に淡い気持ちを抱いているとする。

 それは、恋と呼ぶにはあまりにも無自覚で、愛と呼ぶにはあまりにも無邪気だった。

 けれど、そいつはある日気づくのだ。

―――高校生なんて、あと1年も満たずに終わってしまう……!

 だから、彼女との関係を変えるために、……変えるために……―――。









 そこまで打ち込んでから、俺はタイピングを止めた。


(「恋と呼ぶには無自覚」のくせに、どうやったら関係性を変えようと思うんだよ)

(つーか「愛と呼ぶにはあまりも無邪気」ってかゆくないですかね)


 自分で打っておいてなんだが、呆れてしまって溜息をつく。そのまま、勢いでバックスペースキーを押し、そして今しがた生まれようとしていた高校生の淡い恋物語は呆気なく消えた。

 名前を付けないでいてよかった、と思う。名前を貰っておきながらこんな消え方、さすがに可哀そうではないか。

 また改めてこのネタを書けばいいのだろうが、おそらくもう筆と形容するキーボードを進めることはないのだろうなと思うから、やっぱり名前は与えられなくてよかったのだ。


「……関係性変えたいとか思ってんのは俺なんだよなあ」


 そもそも、自分の願望をそのまま書こうとしている時点で問題は山積みだ。エッセイじゃなくてフィクションだっての。自分の気持ちを元に書いたフィクションだとしても、それでは読者置いてけぼりになってしまう。それは書き手として褒められた行動ではない。

 と、ぼーっとまた彼女のことを思い出す。

 同じ高校の、1つ上の先輩。

 バスケ部で、ばりばりの運動部で、いわゆる「運動部」らしく遊びにも行くのに、昼休みは決まって飲食OKの自習室で本を読んでいる。彼女が選ぶ本は、大体ミステリーかサスペンス。あと人間ドラマをたまに。しかもミステリーに関しては、同時に読んで犯人を当てようと話したことがあるが、見事に的中したのは彼女のほうだった。知的で、明るくて、あと、めっちゃ可愛い。


(あー……やべ、会いたい)


 頭をがしがし掻く。

 そんなこと思っても、放課後のここ自習室に彼女が来ることはない。だから、このままのポジションだと俺は昼休みの自習室でしか会えないわけで。だけど告白して失敗したら、その時間さえも会えなくなる。じゃあこのままでいいかと言えば、3年の彼女はあと1年もせずに卒業してしまう。


「言うか言わざるか……」

「何が?」

「だから……えっ?」


 心地の良い声に気づいて、すぐに声の方向を見れば、今まさに会いたいと思ってた人が扉に手を掛けて俺を見ていた。


「ミ、ミナミさん……部活は?」


 俺の想い人であるミナミさんは「ああ」と笑いながら自習室に入り、扉を閉めた。音を立てないように優しく隙間を合わせるので、俺の位置からうなじが見えた。夏に向かって髪を上げるの、最高過ぎませんか。夏に感謝の意を込めて心の中で手を合わせておく。


「おかげさまで引退ですよー」

「えっ」

「インターン終わったじゃん。知らなかったの?」


 ミナミさんは俺の隣に腰を下ろして、運動部の文化にいつまで経っても無知の俺に「覚えてないの」と笑う。


「去年もインターンの話した気がするけど」

「この時期はコンクール近くて忙しいんですー」


 6つの机だけの簡素な自習室には、俺とミナミさんしかいない。当たり前のように隣に座ってくれるのが嬉しかった。もともとここは第3自習室で、サイズも一番小さいからほぼ人が来ないのだ。だから、俺とミナミさんが出会えたことに運命的なものを感じてしまう。

 ミナミさんは鞄からノートと参考書を取り出して机の上に並べ始めた。


「受験?」

「うん」

「おお!どこ受けるか決まってる?」

「まだ絞ってる段階。でもどこ受けるにしても基本科目は一緒だから、今日からここで受験勉強」


(え、今日から放課後も会えるってこと!?)


 にやけ顔が出ないように必死に抑えて、「そうなんだ」とどうにか取り繕って返事した。嬉しすぎて、今すぐにでもガッツポーズ取りたい。


「で、シュンは何を迷ってたわけ?」


 参考書をパラパラめくって目的のページを探しながら、ミナミさんはそう尋ねた。まさか、あなたに「好きです」と言うか迷ってましたとは言えない。俺、そんな心臓強くナイ。


「えっと、次の作品を恋愛モノにしようかと考えてたから、そしたら主人公は告白するのかなぁ、とか思って」

「恋愛モノ!へー、そんなのも書くの!」


 ミナミさんは途端に俺を見てキラキラと瞳を輝かせる。興味津々の時の顔で、俺が最初に好きだと自覚したときに見た表情。それを、俺の作品の話に対しても向けてくれたことに、胸の奥が収縮した。気がした。


「新しいチャレンジのつもりだけど。うまくいかなさそうならやめる」

「えー頑張ってよ。読みたいよ」


 そうか、ミナミさん読みたいなら……って待て待て、そしたらあの内容は完全にアウト!

 ちゃんと読者に読んでもらえる作品を作ろう、と心に決める。


「主人公は告白するのかって話だけど」

「うん」

「シュンが書いてて、この雰囲気なら言うなって思う流れになったら告白するんじゃない?」

「雰囲気か……」


 まぁ確かに、言うぞ!って心づもりで会いに行くと、今から告白します空気がきついよな、お互い。あとたぶん緊張しすぎて心臓がもたなさそう。


「そうかもね」


 それなら、普段通り過ごしてて、成り行きで言いたくなった瞬間、言葉が溢れるしかない状況になれば自然に言えるか。それなら筆が動くままに彼らに動いてもらって、主人公的に言いたくなるシーンが作れれば……。告白っていうタイミングが作れなければ、それならそれで恋心を持ったまま終わっても、まあ綺麗だよなぁ。


「うん、ありがとミナミさん。慣れないからって事前に練るんじゃなくて、とりあえず書き始めてみる」

「いえいえ、このくらい。頑張ろーね」


 その言葉に、俺は勉強の邪魔したくないなと思いつつ、つい笑ってしまう。ああ好きだなと思った。

 それを見て、ミナミさんはシャーペンの芯を出しながら、不思議そうな顔をした。


「何かおかしかった?」

「いやなんか、それすごいミナミさんっぽいなって」

「私っぽい?」

「頑張ってね、じゃなくて頑張ろうねって言うとこ」


 俺が好きになった人は、こういう人なのだ。自然で、飾らずに、好きなバスケも読書も人目を気にせずやってしまえて、ほぼ二人きりの自習室で抵抗もあったはずなのに、結局程よい踏み込みをしてくれて、一緒にいて心地良い相手。あ、あともちろん可愛い。


「えーそうかな」


 ミナミさんは、俺の言葉に照れたように笑った。鼻の頭に皺が寄る笑い方が好きだなと思う。

 自分の言葉を口にするのが苦手で、だから文字を書くようになった俺は、今だって口がうまいわけではない。けど、ミナミさんといるときはなるべく思ったことをちゃんと言おうと思っていた。だって、言わなきゃ伝わらないのは文字を書いていてむしろ強く自覚するようになったから。

 あわよくば、俺のこと少しでも好きになってほしい。


「でもそれなら、私はシュンの方がらしいなってさっき思ったよ」

「俺?」


 照れた仕返しなのか、ミナミさんは俺に照れ隠しのような、挑むような、そんな色にも見える瞳を向けた。


「俺、なんか言ったっけ?」


 今日は大した話はしてないから、そんな風に言われるようなことしてないと思うけど。

 俺は首を傾げて、ミナミさんは笑った。


「主人公に告白させるべきかな、じゃなくて、主人公は告白するかなって」

「?」

「キャラクターを生かしてるんじゃなくて生むとこが、めっちゃシュンぽいよ」


 俺は言葉を失った。心の奥底がじんわりと温かくなる。

 ―――ああ、本当に本当に、この人が好きだなと思う。この、ぐぐぐと迫り上がってくる想いは、どうしたらいいんだろう。留めておくことなんて、できるわけがないのに。


「ミナミさん、俺―――」


 手を、伸ばしたくなっても仕方がない。

 今が間違いなく、「成り行きで言いたくなった瞬間、言葉が溢れるしかない状況」なのだ。と、ふいに理解した。


「ミナミさんのこと―――」





















 ―――っていう、俺が大好きな先輩と結ばれた話を元に書いてみたんですけど、どうでしたかね?

 どっか修正いれたほうがもっと良くなるかなぁ?

 貴重なお時間いただいちゃうので、少しでも楽しんでもらいたいんですよね。

 もし率直にご意見でももらえれば、それを手直しの参考にさせてもらいますので、ぜひ気軽に教えてください。


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