絶対に付き合わない受験百合

 明日から高校生活最後の夏休みという日、内浦かなたに告白された。

 彼女のことはクラスメイトのひとりとしか認識していなくて、別段好きでもきらいでもなかった。


「ごめん。気持ちは嬉しいけど、付き合えないや」

「えっ! なんで!?」

 私が断ると、彼女はショックを受けるというより素直に驚いていた。まさかフラれるとは思っていなかったようだ。内浦さん可愛いし、いつでも自信たっぷりって感じだもんなぁ。


「いや、私ら受験生だよ? よくこのタイミングで告白できたね!?」

「えっだからこそだよ! 夏休みいっしょに勉強したりしたいじゃん」

「内浦さん、志望校はどこ?」

「え〜G大学とかN大学とか? 文学部があるとこで家から通える範囲ならどこでもいいかな。石崎さんは?」

「……私は、東大」

「東大!? 東大って、あの、東大!? 東京大学!?」

「ちょっと、そんな大きい声で何度も言わないでくれる!?」

 内浦さんはわかりやすく表情が変わる。

「は〜。たしかに石崎さん、成績いいもんね。頭いいとこも好き〜。きっと受かるよ!」

 さらっと二度目の告白をされてどぎまぎしてしまう。

「……ありがと。そんなわけで、私、大学受かったら上京するの。遠距離とか無理だから。ごめんね」

 そう話を切りあげて去ろうとする私の腕を、彼女は掴んだ。


「ねぇ。遠距離が無理なんだよね? 私が無理ってわけじゃないよね?」

「え。まぁ、そうだけど……」

「じゃあ、私も受けるわ、東京の大学。そしたら遠距離じゃないもんね!」

「は?」


 そして彼女は「いっしょに受かっていっしょに上京して、付き合うのはそれからね!」と勝手に盛り上がって帰ってしまった。


 夏休みの間、登校日をのぞいて彼女に会うことはなかった。

 夏休み明けの試験で、彼女はぐんと成績を伸ばしていた。



ーーーーー



 マフラーが手離せなくなってきたころ、予備校で受けた模試の結果が出た。

「石崎さん、このままだと志望校を変えなきゃいけないよ。どうしたの、本当に」

 目の前の紙に印刷された一際目立つアルファベット。

 私の実力はC判定まで落ち込んでいた。以前はA判定だったのに。


「……ほんとですよね。どうしちゃったんですかね、私」


 私はたぶん恋愛脳というやつで、好きなひとができたら、そのひとのことばかり考えてしまう。何も手につかなくなってしまう。東大なんて、夢のまた夢になってしまった。


 だから。

 内浦さん、ごめんね。

 私たちは、絶対に付き合わない。

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絶対に付き合わない百合 湯前智絵 @yunomae

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