作者に愛されすぎるキャラの創り方(という名の自分語り)

市亀

Dear my friends

 キャラクターは作者にとって何なのか、という問い。

 ストレートに言ってしまえば、作品という表現の構成要素、いわば非実体のパーツである、ということは間違いではないでしょう。


 とはいえ。非実体のパーツ、それに留まらない大切な存在が「キャラクター」だというのが、多くの書き手・読み手に共通する感覚だと思います。どう「大切」なのか、それを語り合うことが創作論でありファンアートなのでしょう。


 その一例として、本稿では拙作「Rainbow Noise」を通して、僕がキャラクターに抱く感情の面倒くささについてご紹介します。作品の内容には触れますが、未読の方がこちらから読んでいただいても構わないシリーズだと僕は感じています。ネタバレというよりは予告編、そう捉えていただけると。







(一応、行間を空けておく)







 本作の主軸は、高校の合唱部での音楽と恋愛模様です。主人公の男子高校生・希和まれかずと、ヒロインの女子高校生・詩葉うたはが、一緒に部活を頑張りつつ、恋の気配を漂わせつつ、恋仲よりも友情を選んでいく、というお話。この二人への想いがかなり積み重なっている、つまり二人が果たす役割が多層的になっていまして。


 ①物語の原動力として

 まずこれは間違いないですね。本作を書くきっかけ、ひいては僕がオリジナル小説を書こうとした原点が彼らです。それ以前の二次創作も充実していたのですが、ゼロからのオリキャラへの表現欲は全く別のレイヤーだったと感じています。色んな世界に出会わせてくれた、最初の二人でした。


 ②言葉の感性の担い手として

 僕の好きな台詞回しやモノローグが、希和らしい/詩葉らしい言葉遣いにそのまま一致しています。あるいは、執筆しながら彼ららしさを固めていくうちに、それが僕の好みになっていた、ともいえそうです。キャラの多様さを表現するうえで「好みじゃない」言葉遣いを心がけることも多いですが、やはり一致していた方が楽しいもので。書く楽しさを特に強く教えてくれる二人です。


 ③realとidealの架け橋として

 あくまで僕の印象なのですが、キャラ……人となりだけでなく、周辺環境や展開まで含めての「キャラクター性」は、現実と理想、あるいは実在と空想の掛け合わせで出来ている、という見方もできると思うのです。特に、キャラ間の関係をストーリーの主軸とする場合は。


 この視点において、希和と詩葉は好対照な造形になっています。

 まずは希和、出発は僕自身です。能力の傾向・選んだフィールド・置かれたシチュエーションは僕の経験に似せつつ、全体的な「強さ」を理想として取り入れた成り立ち。僕があのとき出来なかったことを代わりに、という感情が根っこにあります。


 続いて詩葉、彼女の出発は僕の友人……というより、友人との思い出です。楽しい時間を共有しつつも苦い後味で疎遠になってしまった、その友人が当時望んでいたであろうことを、僕なりに解釈してキャラクターにしたのが彼女です。こちらの根っこは、あのときの君はこうなりたかったのかな、という感情。


 ④願望と諦め、ひっくるめての祈りとして

 お察しかと思いますが、その友人というのは当時好きだった女性でした。そのとき友人に寄せていた感情を出発にしているぶん、詩葉はヒロインとしての理想像ともいえます。こんなに好きなキャラ、この先もそうそう出会えないんじゃないだろうか。


 それならば物語の中では幸せな結ばれ方を――と、なりそうですが。前述した通り、彼らは友情を選びます。厳密にいうと、自らの幸せについて考え抜いた詩葉が、希和を仲間としては尊びつつも恋慕は拒む、というルートを辿ります(詳しくは本編を読んでください)


 主人公がメインヒロインに振られるという、ビターな……もっというと「期待外れ」な展開ではありますが。そうまでしてこの関係性を描きたかったのは、詩葉(=例の友人)には自分の幸せを選んでほしかったし、希和(=当時の自分)にもそれを前向きに応援してほしかった、という想いが強かったからです。

 はじめから純ハッピーエンドにつながっていなかったとしても出会いは尊い、純ハッピーエンドにつながらないことから逃げたくない、という軸が本作執筆のモチベーションの一つでした。詩葉のような悩みを抱えた人が救われますように、という祈りも自分なりに込めました。



 ⑤友として、仲間として

 このように、多分に思い入れを詰め込んだキャラクターであることもあって。執筆中の作品のキャラクターに留まらない、それこそ実在の友人のような存在感で脳内に住んでいます。作中で部員たちがアイデアを練るときも、一員として彼らと会話しているような気分ですし。僕がリアルで落ち込んだときも、「あの子だって頑張っているんだから……!」という経路でエールになってきました。


 小説のことを考えるとき以外、自作ではないフィクションに触れるときも「詩葉はこれ大好きでしょ」「希和はこういうのモヤモヤしそう」という感覚をよく抱きます、むしろ実在友人よりもその手の想像が盛り上がる(新手の自問自答として提唱したい)



 ⑥読者さまとの絆として

 幸運なことに。カクヨムで連載を始めて四年、様々な読者さまが彼らに出会ってくれました。

 深く感情移入して応援してくださった方、自分に重ねて思いを馳せてくださった方、イラストとして新しい命を吹き込んでくださった方、とにかく可愛がってくださった方、などなど。


 受け取ってくださる方の数だけ、彼らの生きる世界は広がるのだと思います。

 それは作家としての喜びでもあり、友人としての喜びでもあります。作品に触れていただいたことに、それ以上に大好きな友人に出会ってくださったことに、感謝を。これから出会ってくださるという方も、彼らを宜しくお願いします。



 ……という訳で、「今回のお題なんだよ~! キャラは仲間だって解釈の話していい? いいよね」という発想から濃いめな自分語りになってしまいましたが。創作論の一例として、皆様の参考になれば幸いです。

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作者に愛されすぎるキャラの創り方(という名の自分語り) 市亀 @ichikame

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