主人公と読者と仲間たち

黄黒真直

主人公と読者と仲間たち

私、知ってるんだからね。この世界がフィクションだってこと。

私が、このフィクションの主人公だってことも。

そしてあんたらが、これを読んでるってことも!


なんで知ってるのか、不思議に思う?

そりゃ知ってるわよ、あんたらの要求のせいで、私はこんな目にあってるんだから!


私は生まれた瞬間から、私はこのことを知っていた。

ううん、この世界が生まれた瞬間からよ。私はこの世界と同時に生まれたんだから。


だってフィクションの世界だもん。作者の頭の中にある世界が、私たちの住む世界。そして私も、作者によって生み出された存在。

だから、作者が知ってることは全部知ってるってわけ。作中では、そんな素振りは見せないけどね!


ああ、もしかしたら初めましての人もいるかもだから、一応自己紹介しとこっか。


この世界は、いわゆる剣と魔法の世界。

私はエーデルワイス王国の王国騎士団長、アイリス。女騎士ってやつね。


……いま「女騎士」と聞いて、エロいこと想像した人はいないでしょうね!?


どーして女騎士っていうと、エロい目にあわないといけないのよ!

どーしてこんな、胸の形がはっきりわかる鎧を着なきゃいけないのよ!


え? 胸が固定されてた方が動きやすい?

そんな後付け設定いらないわよ!!


魔王が放ってくる魔物たちも、やたらと私の服ばっかり攻撃するし。

体への攻撃は全然ないし!

なんなの!?


そうよ、私たちは今、読者に構ってる暇なんてないのよ。

エーデルワイス王国はいま、未曽有の危機に瀕しているの。

千年前に封印されたはずの魔王モンクシュッドが復活しちゃって、国中に魔物が溢れているの。

魔王を再び封印しに行くのが、この物語の目的なのよ。


そのはずなんだけど……。


行く先々の村で、厄介な仕事を押し付けられて、そのたびにひどい目にあってるのよ!

それもこれも、全部あんたら読者の要求のせいよ!!


うちの作者は、読者に媚を売りまくってるのよ。

SNSで読者の反応を見て、それに合わせて話を作ってるの。


だからもう、ストーリーはしっちゃかめっちゃかだし、サービスシーンは毎回あるし、いい迷惑なのよ!


敵よ敵、あんたら読者は、私らの天敵よ!

魔王なんかより、よっぽど先に滅ぼすべき存在だわ!!



***


――花宮先生、今年のマンガ大賞受賞、おめでとうございます。


花宮:ありがとうございます。


――受賞した『フェアリーフラワー』は、ある王国の女騎士団長である主人公が、国を巡りながら魔王を倒しに行くストーリーです。前作も似たようなファンタジー物でしたが、やはりこういうものが好きなんですか?


花宮:私が、というより、私のファンが、こういうのを期待しているんです。


――ファンの期待ですか。


花宮:はい。


――こう言ってはなんですが、花宮先生はだいぶ読者に入れ込んでらっしゃいますね。


花宮:媚びてる、とよく言われます。(笑)


――そ、そうですね。正直、僕もそう思います。


花宮:私も自覚してます。SNSで読者の皆さんとつながってますし、エゴサで感想を読んで、作品の展開に取り入れたりしています。


――展開まで?


花宮:はい。読者が望んでいる展開を、そのまま形にしてます。だから私自身は、ほとんどストーリーを考えていません。


――どうしてそこまで読者に媚びるんでしょうか?


花宮:だって、読者あっての作品ですから。私は読者を喜ばせるために作品を描いています。つまり、私にとって創作とは、読者に媚びることそのものなんです。


――なるほど。読者を第一に考えていると。


花宮:はい。ですから私は、読者の皆さんを、一緒に作品を作る仲間だと感じています。


――仲間?


花宮:さっきも言いましたが、私は読者の反応を見て展開を決めています。それはちょうど、創作仲間からアドバイスを受けているような感覚です。そうやって、読者と作者が仲間になって、作品を作っているんです。


花宮:もちろんこの「仲間」には、読者さん以外にも、編集さんとかアシスタントさんとかも含まれます。あとは、作品の登場人物とか。


――登場人物が仲間とは?


花宮:ストーリーは読者さんにお任せしてますが、世界観やキャラクターだけは私が作らざるを得ません。第1話で世界観とキャラクターを読者さんに示し、その世界でどんなお話が作れるかを、読者さんに考えてもらっているんです。


花宮:ですから、キャラクターにはそこそこ、愛着があります。「こういう展開にしてもいい?」って、いつもアイリスと相談しながら描いています。


――アイリスは『フェアリーフラワー』の主人公ですね。彼女は作中でひどい目に遭いがちですけど、全部了解を取っていると。


花宮:はい(笑)。ちょっとエッチな目に遭いがちですけど、きっと彼女も、楽しんでいると思いますよ。


――アイリスも、読者を仲間だと思っているんですか?


花宮:ええ。一緒に魔王を倒しにいく仲間です。


――読者は仲間なんて発想は、初めて聞きました。本日は貴重なお話、ありがとうございました。


花宮:こちらこそ、ありがとうございました。

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