第5話 She came (彼女が来た)①

 辺り1面漂ただようぺトリコール。

 岩場には親子の蛙が腰を下ろし、雨音をバックに輪唱りんしょうする。

 ついに来てしまった梅沢うめざわ雨子あめこさん。

 生物にとっては神様のような存在で、彼女は気まぐれにやってくる。

 俺は彼女が嫌いだ。いや、好きでは無いのだ。

 他の人からすれば、同じことではないか? と疑問に思うかもしれないが、俺は全く違うと思っている。

 まぁ文句を言ったところで、自然様に勝つ事などありえない。

 俺は体育館の扉にもたれ、雨を眺めて考える。


 ピピッ——————「おし、次やるぞ」


 休憩終了の合図に連動し、顧問の武田たけだが大声で呼びかける。

 ガタイが大きいと、声まで大きくなるものなのか?

 俺はペットボトルにタオルを巻き付け、舞台に放り武田のもとへ向かった。



「ゲーム終了だ。よし、今日はこれまで。ストレッチと片付けしとけよ、あとは大前に任せる」

「「お疲れ様でした」」


 巨漢きょかんの武田は胸を張りがに股で体育館を後にした。

 武田がいなくなったのを確認した一同は一斉に暴れ出す。

 あいつに騒いでいる所が見つかると1時間以上の説教をくらうので、あいつがいる時は皆大人しいのだ。

 まぁ俺は騒がず黙々と片付けするがな。

 知能のない猿どもと遊ぶ気は毛頭もうとうない。

 特に部内の実力ワースト集団。

 その筆頭の泰成たいせい 和馬かずまは、容姿は整っているが、頭の悪さが目立っている。

 要注意人物だ。

 そんなことを考えながら掃除をしていると、


「拓真! 」


 と、キャプテンである大前おおまえ 晴輝はるきに大声で呼ばれた。

 部活の中で唯一話すのが、大前だ。

 手を止め、大前を見ると、


「この後少し時間あるか?」


 と、言われたのだ。

 このあとは裕翔と帰るつもりだが、野球部が18時まで活動しているので、それまでということで承諾しょうだくした。

 野球部はもうすぐ甲子園があるため、雨でも練習するそうだ。

 裕翔の野球姿を想像するも、また片付けに戻った。


 部活終了後、俺は大前と顧問室に向かった。

 顧問に呼ばれる時1番に考えることは、顧問からの叱責しっせきだ。

 しかし俺はやらかした覚えなど一切ない。

 俺は不安を抱きながら入室する。


「「失礼します、武田先生」」


 俺と大前は声をそろえ武田を呼ぶと、椅子にどっしりと座る武田が俺らに手招きをした。

 俺らが武田のデスクの前へいくと、武田は要件を言う。


「お前ら、今度の大会のメンバーを決めろ」


 こいつの話はいつも唐突とうとつだ。

こいつは前にも、地域の大会の登録用紙を前日に配布し当日参加出来た人は7人、登録できる最低人数であった。

この時は本気でこいつをうらんだね。


「メンバーをですか? 」


 流石の大前も聞き返す。

こいつも被害者だ。


「ああ、次の大会はお前らが主力となって戦うんだからな」


 武田は少し微笑みながら軽い口調で言った。

こいつは全くもって反省の色を見せない。

 武田の笑みに俺は寒気を覚えながら、職員室を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋愛以外ほぼ有能なぼっち籠球男子と、高校球児界で知らぬもの無しのスーパールーキーが愛を深める物語!? 基津佐(もとつさ) まきじ @gyrowolf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ