笑うな

星埜銀杏

ホラーだよ~♪

 これ、読んでいい? オッケー、読むよ。


 怖い話だって。ああ、そう。楽しみだよ。


 ぺらり。


*****


 …――マジ? これ、なに? 面白すぎるんだけど。


 私が書いた小説を読んで大爆笑する読者。


 開いた口がふさがらない。


 唖然とし呆然と立ち尽く。


 いや、こんな奴、毒者と表現してしまった方がいい。


 毒者であるからこそ、この小説を読んで笑えるのだ。


 普通は笑えんぞ。お前、脳は正常に動いているのか?


 うむっ。


 ほとんどの読者さんは優しくて、和気あいあいとコメントのやり取りを愉しめる。


 しかし、


 今、目の前で、腹を抱えて大笑いを続けているこいつは、やっぱり毒者だ。こいつとはWeb小説を載せるサイトで知り合った。詳しくは書かないが例の巨大サイトでだ。そして、ごくたまにだが私の書いたものの挿絵を描いてくれるのが、この毒者。


 だからこそ忌憚がない意見をくれるのだ。


 加えて、


 私も、こいつの小説を読んで評価する。評価し合う仲だ。そんな仲ゆえ、こいつを仲間と言ってしまってもいい。だがな。親しき仲にも礼儀ありという言葉あるだろうが。失礼すぎるんだ、今のこいつは。だからこそ腹に据えかねている次第。


 いまだ、


 真っ白な歯を魅せ大口を開け笑い続けるアホな毒者。


 ガッハハと、いまや漫画でも見ない絶滅危惧種風に。


「てかさ」


 てかさじゃない。そろそろ笑いを止めろ。


 止めないと私が、お前の息の根を止める。


 人生という名のレールを引き剥がして無理矢理、命という不労所得を差し止める。


「このシーン、大好きだわ」


 笑いながら言うな、毒者。


 失敬な。


 好きと言われたくない。今のお前にはな。


「このガイコツが歯を剥き出しにしてカタカタって……、ああ、口にしたら余計に笑いがこみ上げてきた。ヤバっ。腹筋崩壊する。笑いが止まらねぇ。アハハ」


 その馬鹿笑いを、さっさと止めろ。ボケ。


 命が湧き出る泉の源泉を買い占めて、お前の生命の蛇口をしめるぞ?


 そんな気持ちを知ってか知らずか……、いや、敢えて知らないフリをしてだろう。


 我が小説が映る画面に右の人差し指を押しつけてから、まだまだ笑い続ける毒者。


「ここもスゴい好き。天井から現れる髪の長い女がコーラをポタポタと主人公の頬にたらす場面。ねぇ? イラストにしていい? 絵にして、みんなで共有してぇ」


 共有するな、拡散するな、その気持ちを。


 むしろ、お前のデオキシリボ核酸配列をバラバラにしてやる。おお?


 毒者め。


 というか、そのコーラと言ったものは比喩表現だ。正体はだな。ここに、きちんと書いてある。血だ、血だろうが。それにな。そのあと蒼白い顔をした女が髪を振り乱して主人公を頭から一呑みにする。このワビサビが分からんのか、毒者め。


「このギャグ小説、本当に面白いな。笑いが止まらん」


 笑いすぎて涙まで、にじませ始めやがった、こいつ。


「顔にケチャップをぶちまけたアイスホッケーマスクマンも良い味出してるしッ!」


 アハハ。


 だから、その馬鹿笑いを止めろ、本気で。


 失礼千万で、無礼千万だ。


 恐怖という羅針盤が狂わされて笑いの太鼓判が押されている今の状況こそが茶番。


 それはな。その小説はだ。


 ホラーだ。ホラーなんだ。


 まごう事なきホラーなんだよ。クソがッ!


*****


 まあ、書き手にとって、ある意味でホラーだわ。間違いなく。うん。


 これは、怖いね、確かに。

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笑うな 星埜銀杏 @iyo_hoshino

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