第5話 王様探し 2









 木の棒を持つ手はあべこべで、肩にいらぬ力の入っているラウドを見て、大柄な先輩兵士が困った風に眉を潜ませ溜め息を軽く吐いた。

「新兵の少年、やっぱりお前もあれか?最近やたら発達してきた蒸気を使った機械やら歯車やらのおかしな装置が好きな口か?」

 大柄な兵士は余りそう言った新しい物に興味がないらしく、興味のある方からしたら酷く失礼な質問の仕方をした。

 そして、その質問にラウドは眉間に皺を寄せつつも答えた。

「え…あ、そうです。

 今、一緒に暮らしている爺ちゃんが、小間物屋の片手間にそう言う装置の修理をしているんですが、今ではどちらが片手間か分からない位なんですけど、暫くその手伝いをしてました…」

 ラウドが入隊前の生活の話をすると、大柄な兵士は構えていた枝を降ろし、もう片方の大きな手で自分自身の頭を掻いた。

「最近、多いんだよ。お前みたいな新人。

 入隊するまで武術らしい事は何もしないで、工具持って小さな部品や歯車をコチョコチョ…

 腕にも、手や指にも力が無くて、ヒョロヒョロな奴。

 全く、これは…面倒な事だ。」


 そう言って、兵士は呟いた後暫く沈黙し、視線をラウドの方へ寄せて聞いた。

「なぁ、お前はなんで志願して入隊した?本当なら爺さんみたいな仕事に就けばいいんじゃあないのか?それなのに何故わざわざ…」

 聞かれたラウドは答えに困った。

「…」

 最初は無言。

 その無言の間に彼は考える。果たして、本当の事を馬鹿正直に言っても良いものか…と。すると、口を開こうとしないラウドに焦れて兵士が苛ついた口調で言う。

「おい、目上の者からの質問には答えるもんだ。」

 そう言い放ち、不機嫌を隠す事無く見せた。

「あ~…、あの。怒らないですか?」

 仕方なく、ラウドは小さな子供が怒られる直前に問う様に聞いた。

 返しが余りに子供染みていて、兵士の苛つきに尚一層火を点けた様で…兵士の視線の中にほんの少し怒りの色が付き出した。

「怒られるような答えなのか?」

 ラウドは声を抑えながら聞いた。

「恐らく。その…下心だらけの答えなんで…。」

 自分も本当に馬鹿正直だな、と思うけど…そう答えてしまったら、その先を言わないって事は出来ない

 すると、大柄な兵士は言った。

「聞いてやる」

 大柄な兵士は結局、ラウドの聞いた『怒らない?』の答えをはっきりと答える事は無かった。

 その様子からラウドは『これは…この後、自分の話を聞けば怒られる事、間違いないな…』そう観念しつつも、仕方なく口にした。

 変に当たり障りなく繕ってみたり、上手く誤魔化した所で此方の下心なんて直ぐにばれるだろうし、最初から本当の胸の内を言っておけば過度な期待も背負わなくてもいいだろうから…と、ラウドは胸の中で思う。

「正直に言いますけど、金ですよ。自分が希望している仕事は初期費用としての金が要るんです。必要な道具や知識を得る為に金が。

 仕事をする為には他に材料もある訳ですからね。それに、上手く顧客が付けば確かに安定した収入がありますが、自分みたいにちょっと齧った程度の素人に毛が生えた様な奴にそんな仕事、直ぐには絶対に来ませんから…その間生きる為の金も要りますしね。

 なので、手っ取り早く金が手に入ってその上、ある程度の額が溜まったら…」

 そこまで言うと、頭を抱え目を閉じた大柄な兵士が自身の掌をラウドに見せ、これ以上は喋るなと示した。

 彼の胸の内はこの行動だけで十分ラウドに通じた。


 しかし、何だって自分は今日出会ったばかりの人間にこんな事ベラベラと…と、ラウドが思っていると大柄な兵士が力が抜けた様な声で話し出す。

「もういい、分かった。成程な…そんな性根だから直ぐに辞めて行くんだな?今の若い奴等は。」

 大柄な兵士はそう言って急にラウドに背中を向けた。その挙句に手に持っていた枝もその辺にぽいと捨てて門の方へ歩いて行く。その兵士の行動を見てラウドは面喰い思った。

 あれ?剣術の練習は…?

 そんな風に思っているラウドを顧みる事無く大柄な兵士は歩いて行く。

 ラウドはこの後の練習でほぼ半殺しのような目に遭う事も想定していたが、そんな事もなくただその場に放って置かれどうしたらいいのか分からないでいた。

「あの…せ、先輩?」

 そう言ってラウドが声を掛けると、大柄な兵士は此方の声なんて聞こえていない様に門の脇のレンガの縁に腰を下ろした。

 そうして…

「あぁ、もういい。どうせ長い事居るつもりのない奴に剣術なんぞ真面目に教えてた所で無駄なだけだ。昼寝でもしておいた方が有効に自分の時間が使えるってもんだ。」

 それだけを言って、腕を組んで本当に目を閉じてしまった。


 ポツンとその場に置いておかれたラウドの腰には不釣り合いな程大きな剣。

 しかも、今両手で力一杯握っているのは道端で拾った棒っ切れ…

 そんな滑稽な格好のまま彼は放置されたのだった。

 門に繋がる道に人は一人も見えず、遠くの草原をゆっくりと牛が何頭か歩んでは止まり草を食んでいるのが見える。

 本を手にしていた先輩は既に本の中の住人と化している様で…

 此方の状態に全く気付いた素振りは無い。

 ただ、食い入るように手元の本を眺めては頁を捲る…を、繰り返しているだけだった。大柄な先輩にも匙を投げられ、漸く構えていた枝を持ったままだった腕を降ろし考え…さて…どうしようかとその先を考え付く事が出来ずに自分の頭を掻く。


 そして…余りにも長閑で綺麗な空を一人、仰いだ。



 すると、ラウドの状態に気付いていないと思っていた先輩兵士が、本から目を離さず独り言のように言った。

「大丈夫だよ。あの先輩、あんな風に言っておきながら結局、どんな奴だろうと見過ごせないんだ…」

 そう言いながらページを捲る。

 まるでそう言う事があった事を知っているかのように言う先輩兵士の方へ身体を向ける。

「え…、あの?」

 本を読んでいる先輩は、手に取るその本が面白いのかつまらないのか分からないが、本の文字から目を離さない様にしながら続けて言った。

「俺も、5年前に同じような事言って入隊した口さ。俺の夢はこれ。物書きになりたくてね。でも、俺の種は芽も出ずに今に至るのさ。だから、ほぼ毎年同じ問答を俺とあの先輩は繰り返しているのさ。確かに辞めていく奴も多いけど…。でも、俺はあの人がこの隊に居るお陰でまだ、此処に残ってるんだ…実は。

 それに、この隊に合う奴はちゃんと残るし、合わない奴はどうしたって残らない。」


 そんな話を目の前の本から目を離さずに兵士は話す。


 話を聞きながらラウドは先輩兵士をまじまじと見ると、夢が物書きだと言う割に身体付きはがっしりしていて、日々鍛錬を怠っては居ない様に見えた。恐らく、目の前の先輩兵士にとって、この隊がどう言う訳かその身に合ったんだろうなと思えた。

 それと同時に不謹慎だとは思いながらも、先輩が話した内容よりも、今先輩が読んでいる本の事中身が妙に気になってる。

 本には、皮で作ったお手製と思われるカバーが付けてあり、本のタイトルは此方には見えないが…

 先輩が一瞬も目を離さないでいるその本、どれだけ面白いんだろうか、とラウドにはその疑問の方が頭の中を埋めていた。










 その国の『白亜の殿堂』やら『白の宮殿』やらの異名を持つ、白い石とチェスナットブラウンを基調とした柱や梁、家具が配置された王の宮殿の石畳を歩くと、周りの壁に反響し足音が響く。


 シルバは、自分の足音を聞きながら謁見の間へ向かっていた。

 早朝、王に呼ばれたのだ。

 現王は物静かで思慮深く、争い事は好まず…良い王と言える。

 自身の意思など無いお飾りの王かと言えばそうではなく、この国では王の意見は絶対。そして、王の意見に反論をして無事、論破出来る者は少ない。

 静かに語るその言葉は理路整然としていて正確、そして間違った事は言わぬ王だった。その為、長く続くこの国の平和が今あるのはこの王一族のお陰と言っても過言ではない。


 王の知識・見識は広くて、深い。

 そして、王の『耳』と『目』は国内外のあちこちに居り…

 王にとって、急激な発展をしている自国でも未だ風通しが良い様だ。

 今朝急に呼ばれたのも、恐らくは王の『耳』や『目』から王への報告があったからだと思われる。

 何故そう思うのかと言うと…早朝、王宮の上空を飛ぶ鷹の声を聞いたからだ。

 鳶の鳴き声と違う鋭い声が、早朝の空に木霊したのだ。


 それは、王の『耳』と『目』からの通信手段。

 蒸気機関が発達している下町とは違い、この宮殿は昔のまま…

 数百年の間、変わらない風情を残している。

 だが、王宮の敷地内の地下では改築は進み、食料や嵩のある物の運搬は地下の蒸気運搬車によって乗り入れる事になっている。

 地上へそれらの物品を運搬するのも蒸気と歯車の力を使った『籠』による昇降機を使っていた。


 だが『情報』は、未だ動物や獣を使った方が早い。

 謁見の間の栗の木で出来た扉の前に立つと、警護兵が扉を両側から開けた。

 自分一人が入れるほどだけ開けられた扉から中に入ると、其処に王は居らず、その代わりに此方を注目する人の目があった。

 その人物は部屋付きの執事で、此方を見て確認すると、ガラスで出来た鈴を一度だけ鳴らす。

 音は、石畳や壁に反響して甲高く響く。


 響いた音が消えると、室内最奥の扉がゆっくりと此方側に開かれ、謁見の間に設えた大きな窓から外の光が入って、白い壁や床は光っており、もしかしたら外よりも部屋の中の方が明るいのではないだろうかと思う程だった。

 そんな、光る床の上を部屋着のままの王がゆっくりと歩いて来る

「すまないね、朝早くから。」

 王の話口調は何時もこうだ。

 自分よりも目下の者であっても、まるでとても近しい者と話すように誰とでも話す。それが良いとされる時もあれば、人によっては不謹慎と写る事もあるが…当の本人である王は全く気にする事は無かった。

 上からではない語り口調、自分は嫌いではなかった。

 そう…祖父に初めて連れられ謁見した幼い頃、その頃に見た時と変わらぬ容姿と口調で今もその王は自分の前に立つ。

「いいえ。今朝ほど鷹の鳴き声を聞きましたので予測はしておりました。」

 言うと、王はにこりと笑った

「耳が良いんだね、シルバは。お前の父もそう言えば耳は良かったね…」

 言って懐かしそうな事を思い出すかのような声色が続く。

 そして…その言葉に自分は答える

「はい。」

 目の前に居る筈の王の顔は見えない。

 それは、自分が頭を垂れて王の御前に片膝でしゃがんでいるからだ。

 自分の目に映るのは王の靴先だけ。

 質素なココアブラウンに染められた革靴は、長年手入れをされ、愛着の証であるかのようにその靴色を何時しかチョコレートへと変化を遂げていた。



「シルバ、顔を上げなさい。人払いは済んでいるから。」

 そんな風に、王が顔を上げるようにと言う

「は。」

 王に言われて顔を上げない訳にはいかない。

 ゆっくりと顔を上げると、王の言う通り周りには人はおらず、室内には二人きりで対面していた。

 自分の視線の先には、祖父に手を引かれ連れて来られたあの日の姿と全く変わらぬ王の姿が目に入る。


 全体的に短く切り揃えた銀髪、髪に隠れてはいるが風の度に揺れる髪の向こうに見える少しだけ丸く尖った耳。

 耳には赤い石のピアスが嵌められ、指にも同じ色の石の付いた指輪をしている

 透ける様な白い皮膚にアイスブルーの瞳

 長い睫毛。

 目の前の王が自分と同じ人とは到底思えない。

 そして、王族以外に居ない青みがかった銀髪は、特に目を引いた。

 現在、王妃は既に身罷られ、いらっしゃらない。


 王妃は隣国から輿入れした美しい金髪で、深いグリーンの瞳をした方で、 王よりは幾分黄味のがかった肌が人間として健康的に見えたものだった…

 そんな王妃の横に並ばれた度、思っていた。

 王族の始祖は…人族と妖精(エルフ)族の混血であったとかなかったとか、そんな噂がまことしやかに昔から囁かれ、その上、自身の家に伝わる書物にも実は記述されていた。

 その事を王の容姿を見る度、思い出してしまう。


 そしてもう一つ、自分の記憶の中の王の姿が、昔も今も全く変わらないと言う事も考慮すると尚一層自分の考えが現実味を帯びる要因となっていた。

 だが、そんな事を知るのはこの宮殿に入る事の出来る人間だけで、王都に住まう蒼生は王族の姿を間近に見る事がまず無い。

 この国の王族の婚姻は珍しく、お相手が男であれ女であれ、伴侶になられる方が真夜中の王都を人目を避けて通り抜け、王宮へ入る。

 そして、婚姻の後のパレードなどは一切行われず、粛々と王宮内で婚姻の式典が開かれるだけ。婚姻の儀が執り行われた事だけ触れが出回るのだ。

 その上、この国の王族の方が他国に輿入れする事は珍しく、建国以来数えられる程しか例が無いのだ。

 御生まれになったお子のお披露目も、お子様達はおくるみに包まれ遠目から見てそのお姿をはっきり見る事は出来ない。


 王や王族たちも、外へ出る際は白を基調としたフードを鼻先迄深く被った上に、各々の冠を着けて外へ出る。それがこの国の仕来りであり、習わしなのだ。

 故に、現国王がこの様な容姿をしている事自体、知っている民は殆ど存在しない。

 そんな事を謁見中だと言うのにぼんやり考え込んでいると、王が口を開いた。

「最近、君も忙しいようだね。父から受け継いだ騎士の長は大変かい?」

 王は言って此方に笑い掛けた。

 その顔は、まるで大人が幼い子供にする様な笑みだった。

「それは…

 正直、大変で御座います。年々、新兵の質が悪くなる一方で…

 その上、今の若者は皆、蒸気と歯車に憑りつかれているようです。」

 そんな風に答えた。

 実際、本当に兵士になりたくて入隊する若者の数は年々減っている。大概の若者にとって兵士見習いと言うのは近年戦が無い事もあって、手っ取り早く必要な金子を手に入れる職業の様に思われている様だった。

 そんな風に軽く思って入隊した若者に兵士の鍛錬など続く訳もなく…10入隊したら7辞めるのが現実である。

「これはまた手厳しい物言いだ。

 だが、それも仕方がない事だ…時代は移り変わる。それなのに、有り難い事にこれだけ長い年月、戦などの禍事も少なく、緊張感が薄れていく事は仕方のない事だよ。」

 王はそう言ってやれやれと言う顔を此方に向けた。


「しかし、戦や争い事が現時点で無いからと放って置けば足元を掬われかねません。無知な状態で入隊した者の中で見込みのある者達は自分の仕事に誇りを持てるよう、学ばせております。最初から見込みの無い者は…此方が求める前にさっさと見限り辞めて行きます…」

 そうシルバが言うと、またもやれやれと言う表情で…

「君って子は…。良くも悪くも君にとって良い職業に就いたと言ったら良いのかな?騎士隊隊長になるべく生まれて来た様な男になってしまったね?」

 王はこんな言葉と共にシルバの方を少しだけ呆れた様な目で見た。

 しかし、実際そう言う若者は多いし、自分の仕事も騎士隊隊長なのだから言わざるを得ない。

「本当の事を言った迄です。今も平和に見えては居りますが、隣国・諸国との同盟も強固な訳では無く、何処かの国とのバランスが一つでも崩れれば雪崩のように全てが崩壊してしまう心配もあるのです。用心の上に用心は必要かと。」

 こんな若輩風情が王に意見など…とは自分でも思うが、現王は少しばかり楽観的な所がある。


 そう、『王が楽観的』などと思ったのは…御子がお一人、行方不明となってしまったあの時もそうだった。


 皆が人員や時間を費やし、東奔西走し情報を得ようとしている時、王は一人…城の屋上へ登り塔の一番高い場所から領土を眺めていた。

 自分の御子の為に動かれなかったあの時ほど、この王の事が分からなかった事は無かったが…一番分からなかったのは、あの場所で領土を眺めつつ呟かれた言葉だ。

 あの言葉は一体どんな意味があって…そして、行方不明からたった五年で御子の探索を打ち切られたのにはどんな意味があったのか。


 今も行方不明の御子の消息は杳として知れない。


 あの時、この耳で聞いた王の言葉は…

『とうとう…、回帰か乖離か…』

 そんな言葉だった。

 何が回帰で何が乖離なのか、正直その当時も今も全く分からずにいる。

 たた、その呟きを吐いて直ぐ、現王は探索打ち切りを発表した。


 自分専用の警護隊をお持ちでない御子の遠乗りに自身の私兵を就けた左大臣は当然、王に詰め寄り意見をした。

 御子の身体を心配し、数人の医師も同行した遠乗りだった…

 御子を護る為、腕に覚えのある者達がそれなりの人数、同行したのだ。

 だが、御子共々煙の様に消えたのだ。


 大体、遠乗りの話しを持って来たのは右大臣だったと言う。

 百年に一度、姿を現す美しい池があると御子達に吹き込んだ。


 お二人は、『不思議』と言う言葉や『不可思議』と言う現象、そう言う事柄にご興味のある年頃の十五歳と言う年齢で、とても遠乗りに乗り気だった。

 だが、上の御子は当日、急に発熱され遠乗りに参加は出来ず。

 下の御子と同行したのは警護の兵が五名程、左大臣の私兵が十数名と医師が三人付き添って朝早く全員馬に乗って城門を出た。

 本来なら、お二人に同数の人員が就く事に事になっていたので、この倍の数がお二人をお守りする筈だったのに…


 そんな急遽の予定変更も、池の現れる場所が程遠くないと言う事と、池の出現は一日のみと言う話で仕方なく決行したのだ。


 だが、その帰還の日が暮れてもお戻りにならず…翌朝、直ぐに探索部隊が編成され探しに出る事になった


 話を持って来た右大臣が指揮を執り、探索の為の大部隊を自分の私兵をも投入し、探索へ向かわせたのだが、何故か『闇の森』近辺に落ちていた兵の盾や兜、手荷物数点を見つけただけだった。

 その後も探索の手を隣国との辺境の辺りまで伸ばしたが発見には至らず、五年前に王が直々に探索の終了と同時に残られた上の御子が総領となる事を宣言され…

 この事件は無理やり終息した形になっている。


 王にとっては行方不明になったのが自分の御子であるにもかかわらず…率先して、事を終息させてしまった。

 流石にあの時ばかりは王に微かな不信を抱いたのだった。

 だが、宣言の直後の王の表情は今まで見た事が無い様な厳しいもので…

 裏にある王の苦悩も見て取れた。

 それだけに、あの時の王の行動は今でも不可解な事が多い。

 後に、この疑問を問い掛けた時に王は言った


 何故、そんな答えが出たのか自分にはどうしても分からなかったが…王は言った。


『あの子なら大丈夫。

 あの子の命運はまだまだ長い…自分の手元には居ないが、何処かで必ず生きている筈だ』と。


 その確信の理由も聞いたが、答えは…

「理由など無いよ。『星』が…そう告げている。」

 それだけが帰って来た答えだった。

 現王の発言は自分には理解し難い事が偶にあり…


 その時も結局、王のその確信の裏付けや理由が自分には全く分らなかったのだ。




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