第2話 その、世界。 二つ





 大まかな世界の説明はこれまで。


 その世界の、ある場所にある国のある時。


 「ある国」は、東と西を分ける渓谷や断崖絶壁が多くある場所を含む広い土地を有する国であり、辺境の国。

 此方(西)側の国と東方の国は渓谷と断崖絶壁によって分断され、地表の割れ目の対岸は既にお互いが分かり合えないと言われている国であり、その国から西には広大な土地が広がっていて幾つも国が興り盛っている。


 そして、「ある時」が何時なのか全く皆目分からぬのも面倒。


 自分の立ち位置が分かる数字は必要であろうから…

 ある国の暦を使って話をしよう。


 この国の暦は「零(れい)」暦と言う


 そして、その『時』の数字はあと八年で五千を迎える四千九百九十二年。


 勿論、ある国独自の年号であり、他国には他の暦も存在しているのだが、その国の暦は約五千を重ねる程の年数、一度も他の暦に変わる事無く使われ続けていた。

国の重要書類を収めている書簡庫に現存している国の古代に記されたボロボロの巻物の一篇の中に暦の名と、中途半端な数字が記されている。

巻物に記された、中途半端な数字は『零暦二百九十五年』と記され、存在している巻物の中で其処から順に数が増えている。

しかし残念ながら…それよりも少ない数字の巻物は現存しておらず、この国がどのように興ったのか正確な事は誰にも分からない。

 暦の年数=国の年数なのか、それとも現在まで続くこの国の前に実は別の国が存在していたのか、覚えている者は居ない。


 そして『今』は、その暦の数字で語ると「零暦4992年」。


 色々な事柄が、微妙なバランスで均衡を保っていたその世界が急激に崩れ、動き出した年。


 このまま機械・工業的に発展し続けるのか、過去に戻り今は振り向きもしない者達と再度、共存して行くのかを決める岐路の分かれ道の真ん中に向かって世界が走り出した年。

この国の大きな変化はその年に始まるのだが、実は…小さなバランスの綻びはその年よりも25年前の或る日、その国の王の子どもが双子として生まれた事から始まる。

 しかし、王の子どもとして双子が生まれる事自体は全く珍しい事でも無く、幾度もあった事。

 国の長い歴史の中でも王の子どもとして数組の双子の兄弟姉妹は存在し、一人は王に一人は摂政になり今迄の歴史上では乗り越えて来たようだった。


だが、この年に生まれた双子は今迄とは少し様子が違っていた。


 直結の王族と、ほんの少しの高官らのみが知るその事は『今』の時まで伏せられ、外に洩れ出す事は無く…王都は依然平和そのもので、民達も不安なく過ごしていた。

 そして、大きな出来事が起る。


 それは『今』より遡る事10年前…


 双子の内の一人、その年15歳になろうとしていた後に生まれた子供が行方不明になると言う出来事。


行方不明時、何処に行くにも一緒だった双子が何故かその日は一緒に出掛けず、一人で遠乗りに出掛けてしまい…そして、戻って来なかった。勿論、警護の者は就いていた。 遠乗りであるから、お供に出たまあまあの人数の警備兵や医官、左大臣の私兵も数名一緒に動いていたのだが…彼等も行方不明に陥り、未だ殆どの者は戻ってはいない。


 王族の一人が消えたこの行方不明の事件は『闇の森事件』と呼ばれ、昼でも森の中が真っ暗で迷い込むとまず戻って来られないと伝えられている森の側で起こった。だが、方向を見失った一団が森へ迷い込み戻れなくなってしまった…と言う、何ともうやむやな捜索終結宣言を行方不明になってから5年後、実親である王の口から語られ事件は終結を迎えてしまう。


 王と高官達、そして民の間には少しばかりの隔たりがあり…その事件自体、民が不信がり原因を究明するように声を上げる事は全く無かった。そして王の取って付けた様な説明染みた言葉のみで全てが済んでしまったのだった。


 しかも、王が宮殿のテラスでその旨を告げ、残った子供が総領となると告げたその声にのみ民は反応を見せた。この平和な国の民の願いは誰が王になるかより、争いの無い国の平穏。そして、この先も続く自分達の幸せな毎日なのだった。


王の宣言を聞きながら、人知れず後ろでほくそ笑んでいたのは右大臣。

深く、眉間に皺を寄せたのは…宣言をした王と双子の片割れである総領となった子供や、王族の世話をしている者達や左大臣をはじめとした忠臣達だった。


 そんな宣言から5年、総領となった双子の片割れは25歳となり、いよいよ伴侶を見つける適齢期を迎えていた。


『今』の王都の都市部では、数年前に消えてしまった双子の片割れの事よりも、もっぱらその話でもちきりで…

何故かと言えば、王の伴侶は『羊』と呼ばれる何者かが、人を見極め連れて来るのが通例と言われていたからだ。確かに何処かの国の王子や姫である事も多かったが、民の出自の伴侶も長い歴史の中には存在し、国として発展するのはその伴侶が「民」の時であると言う噂話すら飛び交っているからだった。


 勿論、その話しに確証は無い。別国の王子や姫が輿入れした時に、全く発展しないのかと問われるとそう言う事は無いのだから。

ただ…其処は巷に流れる噂話である。この類の噂の原動力は、例えどんなに不明瞭な伝え話だとしても、「民の出自」からの王族への輿入れ…その事への興味と憧れの強さの所為であるようだ。


そして、或る日。

零暦を持つ国にとって更に驚くべき事が起こる。







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