第26話

「あんな事言って大丈夫なのか?自称『スラム最悪の悪童』さん」

とげのある言葉をぶつけられた本人は悪びれる様子もない。


「別にいいだろ?ぶっちゃけ、密教団の方は行き詰ってるしな。それに―」

「珍しくマザーからの頼み事みたいですしね。たまには恩返ししないと」

ヒナギクが割り込んだ。


「そういう事、それに当てはあるんだよ」

リンドウはニヤリと笑う。

「ぶっちゃけ俺もよく観察してたのよ、この世界ってやつをさ。雲蘭隊長たちは教団とのイタチごっこにご執心で結果を残せてない。出し抜けたら一気に出世できると思ってな。まあ、皮肉にもきっかけをくれたのは我らが隊長のくれたアドバイスからだけどな」


「それで、なんに気が付いたんだ?」

「それはこいつよ」

そういってリンドウがぐいぐいと前に押し出したのはヒナギクだった。


「えっ、えっ、私ですか?」

当人は困惑気味だ。


「そうそう、ヒナギクお前このユニバースの調査を始めて何回財布無くした?」


「えっと―」

かわいらしく考え込む。

「覚えてません、いっぱいです!」

彼女は胸を張った。


「ヒナギク…」

僕は憐みの瞳を向ける。


「前にマザーが広場で暗殺されかけた時のこと覚えてるか?」

以前のユニバースで広場のデモ活動に紛れていた信者が刃物でマザーに襲い掛かった事件のことを思い出す。


「それがどうかしたのか?」

「大事なのはその後だよ。ヒナギクお前隊長に言われてパニーニ買いに行っただろ」

「はい、いきました」


「そして、財布を無くしていたことに気が付いた」

「あっ、思い出しました。隊長がたまたまお財布渡してくれてたからよかったんですけど」


「たまたまじゃないさ。隊長にはわかってたんだよ」

リンドウは説明する。

「その後も気になってたんだ。異常だろ?ヒナギクの財布を無くす回数」


「確かに」

「うっ」

独り小さくうめく物体が目に入る。


「ヒナギクお前は心配することない。お前は、ただ少し間抜けなだけだ。この世界の因果にとらわれるほど」

フォローしているのか微妙なラインでリンドウは慰める。

「規則正しいこの世界は、毎回同じような役割の人間が同じような行動を繰り返す。小さな変化はあっても、この世界の基本原理は根本的には変わらない。正直理屈はわからないけどな、超絶的な神の御業の様な理がここにはある。この世界いるの人を巻き込んで」


「外から来たはずの僕たちも、この街を支配するルーティン中に組み込まれているってことだな」

「その通り、正しくは組み込まれていくんだろうな。段々と、何かのきっかけで。おそらくループは何かの不確定要素をはらむとそれを組み込んで勝手に新しくループを組みなおす。アルゴリズムのようにな。だから、世界は不変の様で、微妙な変化を伴う」

彼は締めくくった。


「じゃあ、いくつかのユニバースで教団を追い続けても何も変わらなかったのも、最近のユニバースにそれらの存在が消えてしまったのも何らかのきっかけでループが組みなおされたから」

思い至り期待をこめて相棒の顔を見上げたが、彼の表情は微妙だった。


「ま、まあ、そこら辺の謎はまだ解けないんだが、とにかく実験してみる価値はあると思わないか?」


「つまり、この件とつながってるのか?」

僕の疑問に相棒は次は自信をのぞかせる。

「いったろ、スラムの悪童の勘を信じろ。あのガキの役割が何なのか、たくさんのユニバースで見たアイツと同じロールをみてきてるはずだぜ。施設ににいたガキでいつもすれた雰囲気を持っていた奴そいつのはどんなルーティーンを行ってた?」


「お前って、馬鹿なのか切れ者なのかはっきりしないな」

「めんどくさくチクチク考えるのが嫌いなだけさ、閃きは一流だぜ」

ため息ににかぶせるようにいい笑顔が光った。


「せ、先輩?リンドウさん二人で納得したような顔しないでください。私全然理解できてないんですけど」

不満顔のヒナギクにリンドウが親切丁寧に教える。


「ヒナギク、お前の財布スッてたのは多分あのパズーとかいうクソガキだ」

こうして、ヒナギク(の財布)をおとりにしたパズー捕獲作戦は決行されることとなった。


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