第21話

「真意がわかりかねます。お聞き直ししてもよろしいですか?」

副長の探るような質問、当然だ。僕と副長の脳裏にはもうすでに答えた浮かんでいた。だが、それは彼が知りようのないもののはずだった。


「簡単ですよ。魔術体系は既に存在している。太古に、この街の古い歴史の中に何度も何度も君たちの言う悪魔の様な魔法は現れた。だから我々は魔術体系の出所について考える必要はない。前例があれば魔術はあるのだから」


あの大災害を生き抜いた人がいた?一部の市民の間で語り継がれているのか?

あるいは何か魔術を使用した痕跡が残っているのか?またはあの図書館に集められた膨大な資料の中にあの大災害を示す記述が?だとして、誰が書き残した?いろんな可能性が頭に浮かんでは否定される。僕にはあの災害を生き残った街の人がいるとも、あるいは何らかの記録として残っているとも思えなかった。あれはまさにカタストロフィーで、この街を歴史事リセットしていた。


「いつからだ?」

沈黙を破ったのは副長だった。


「いつから?最初からですよ」

とグラジオスは答える。

「あなたたちは私たちを見つけたと息巻いていたようだが逆です。我々があなた方の前に姿を現したのです」


「それは僕の正体を最初から分かっていて、あなたたちの教団に招き入れたということですか?」

「ええそうです。我々は意図して招いたのです、あなた、をね」

リンドウたちの存在もお見通しだと言わんばかりだ。


「ずっと気づいていました。マザーと教会の周りにでなにやら蠢いている者たちの存在に。そしてずっと観察していた。彼らが何者なのかと」


「我々のことを何者だと結論付けたのだ?」

その問いにグラジオスは静かに首を振った。

「残念ながら外から眺めるだけでは限界がある。あなたたちは未だに我々にとって、この街とは無関係なはずの謎の第三者だ。しかし決して、我々とその目的が反目しているようにも思えない。それであなた達と対話をすべきだと考えたのです」


「僕たちがあなたたちと対話を望むと?あのネズミの楽園のように停滞した社会を打破するためだけに、平和な街を大魔術で押し流してしまうお前たちのような人間と。掲げた大義の為なら何でもする奴らと!」


「落ち着け、アオイ」

感情的になった僕を副長がいさめる。


「大魔術で街を押し流す?何を言ってる要るのかわかりませんね。まさか我々が先に話したような魔術を引き起こすと考えているのですか?逆ですよ。我々が魔術を研究するのは先に必ず訪れるカタストロフィーを防ぐためだ。この街を停滞させている悪魔から人々を解放したいのです」


「信じろと?」

「信じあう必要はありません。しかし我々の利害は一致しうる」


「何を根拠に」

「簡単です。あの大洪水を引き起こすしている者。それは他でもない。あなた方と協力関係にマザーその人だからです。マザー・…今は何というのでしたっけね。名前を変え、顔も姿も変えながら、何百年も、何千年でも生き続けるあの魔女は。彼女が健在である限り、あなたたちの探し物は永遠に見つからないでしょう」


「そんな、信じられない」

正直な感想。彼女のことを疑ったこともなかった。仮に彼女が超人的な何かだとして、それほど長い間側にいた僕たちや何よりあの雲蘭隊長を欺き続けてこれたとは思えない。


しかし、そこまでの話を聞いてから副長は少し押し黙った。

「アオイ今回の話、少し私に預けてはもらえないか?」

再び開かれた口から出てきたのは予想外の答えだ。


「副長!」

僕の抗議の声を、彼は視線で止める。

「こちらにも考えと事情がある。お前たちただの隊員の知りえないところでも事は動いているのだ。この話は私と、お前、隊長の三人だけにとどめて進める。もちろん、完全に信じるわけではない。お互いにパイプをもって情報交換をすることに意義はありそうだということだ」


彼の話を聞きながら、少年の賢者は満足そうにうなずいた。

「話は決まりですね。しかし、一つだけ。お互いの話を共有しあうのは私と、あなただけ、あなたの上司とも、そこの同志パッドとも共有しない」


「なぜだ?」

副長の問いに、彼は意味ありげな笑みだけで返した。


「…なるほど、良く調べている。わかった。君の言う通りにしよう。だが、私が君との間には何の信頼もない。私が隊長に話さないという保証はないぞ。なんなら今回の話、私は隊長とまでは共有すべきだと思っているがな」


「大丈夫です。そのために彼を連れてきたのです」

僕の方に視線が向けられる。

「彼の役目は、もしもの時のバックアップと…、これから行う魔術への保証人だ」


「何を保証するんだ?」


「これから血の盟約を行います。お互いにお互いのことを裏切ろうとしても裏切れなくなるそんな魔法です。簡単な魔法ですが、魔術を知らないあなたにとってその効力は一方的に読めない契約書にサインをさせられるようなものでしょう。そこで、同志パッドを含めて三人で盟約を行う。今の彼の知識でも十分に理解できる魔術だ。そうですね?」

二人の視線がこちらに向き。僕は無言でうなずいた。


「もはや魔術とは何でもありだな」

「そうです。魔術とは何でもあり得るのです」

こうして僕たちは互いに互いの情報を流しあう、協力関係となった。


結論から言おう。この同盟は互いにとって何の意味もなさなかった。いや、もたらさなかったのだろうと、僕は勝手に思っている。事実、僕は半年の滞在の後、大きな成果もなく次のチームに引き継ぐ形でユニバースを去り。グラジオス・スターチスは程なくして内輪もめで暗殺されたらしい。それからユニバース11はもはや規定通りとも言える終焉を迎え、


そして副長は未帰還者となり、現実に二度と帰ることはなかったのだから。

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