第6話

隊長の後を追って部屋から扉をすぐに、自分たちがいるのが極めて大きな建物の中だということに気が付いた。廊下は広々としており、その先々に別の部屋に通じる扉が並んでいる。


「ここは教会の建物の中だよ。教会の運営する複合施設とでもいうのがいいかな。ちなみに街の中で最も高い所にある」

僕らの反応を先回りして説明すると、窓の外を指さした。そこからは街が一望できる。確かにこれはなかなかの絶景だ。


程なくして隊長は扉の前で足を止める。コンコンとノックの音が響いた。

「マザーよろしいですか?」


「ええ、少し騒がしいですけど入っておいでなさい」

やわらかで優しげな声が帰ってきて、隊長は扉を開ける。


飛び込んできた光景に、僕らは少しだけ戸惑った。扉を開けて入ってきた僕らに複数の小さな視線が向けられたからだ。


中にいたのは修道服に身を包んだ皺の目立つ老女。そして四人の子供たち。三人は地べたに座って遊んでいたのだろうか?床には玩具が散らばっている。もう一人は、彼女に抱えられていてまだ赤ん坊だ。いずれの子供もまだ赤ん坊と呼べるぐらいの年齢だろう。


「ここは孤児院でもあるのよ」

と老婆は戸惑う僕らに教えてくれた。


「マザー彼らは―」

「心得ていますよ。あなたの部下なのね隊長さん。ここに滞在する間は施設を自由に使ってもらって構わないわ。部屋も用意いたしましょう。皆さんお名前は?」


「葵パキラです」「ヒナギク・オリーブです」「俺は英雄、エゼルウルフ・リンドウだ」

三人は口々に名乗る。


「よろしくね。私はマリナ・アイビーです。皆さんのことを歓迎いたしましょう」


「ご助力。ありがとうございます。マザー」

隊長が代表して礼を言う。

「当然のことをしたまでです。神の御遣わしたあなたがたをサポートすることこそ私の喜び」


「なあ、あんたは偉いのか?」

空気を読まない男が一人。


「偉いという表現をなさるなら、私は何ら権力を持たない一回のシスターに過ぎません」

失礼な言葉に笑顔を崩すことはない。


「確かに、明文化された地位や権力を持った方ではない。だがマザーはこの国で最も偉大な人物だ。この都市の元首だろうが、大司教だろうが、彼女には頭が上がらない。我々もその人脈に大いに助けられている。失礼のないように」

雲蘭はリンドウに軽くくぎを刺す。


「そいつはすまない。気を付けるよ。マザー」

「いいえ、何もかしこまることはないわ。私が彼らと親しいのはひとえに、彼らがみなこの院の出身であるからというだけ。ここには学校でもあり、孤児院でもあるの。ここを卒業していった彼らが偉くなっただけ。私が偉いわけではありません」


「謙遜なさることではありません。あなたが育てた子供たちが、立派になり社会的地位を得て、それをあなたに感謝したからこそ、多額の寄付がこの教会に集まり、これだけの施設になったのです。尊敬は地位に払われるものではありません」


「マザー・アイビーは素敵な方なんですね。きっとだから立派な人が輩出されるんです」

ヒナギクの感想に僕も同感だ。


「そういってもらえるのは嬉しいわ。ぜひこの街をじっくり見ていってください。私の自慢の子供たちが作ったこの街は、平和で活気のある所よ。あなた達の探し物、見つかるといいわね」

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