第5話
雲蘭隊長の前に立つと彼女の圧倒的なオーラに気おされそうになる。それは彼女が長身の美人のアバターを使っていることと多少なりの関係はあるだろう。
「さて、諸君にはこれから少しばかり退屈な話に付き合ってもらうぞ」
僕たちの緊張を感じ取ってか、少しばかりいたずらっぽく笑って見せる。その魅力的な表情は効果てき面で少し場はやわらいだ。
「おいおい、こっちは忙しいんだけどな」
調子に乗ったリンドウが冗談で返したことで、場はさらに弛緩する。
「無理にでも時間を作ってもらわねばな。さて、任務について話そうか」
彼女が真面目な表情に戻ると、今度は雰囲気が程よく引き締まる。この辺のコントロールの上手さが若くして隊長を務める手腕なのだろうかと、他人事のように感心してみてしまった。
「周知のとおり、あの日以来。我々の頼りとしているコンパスは役に立たない。そのため我々はチームを編成し、めぼしいエリアに集中的に隊員を送り込むことに決めた。ここエリア51で最近大量の隊員のロストが起こったことは知っているな」
「ここに果実があるってことでしょうか?」
「正しく言えば根がいる。あの洪水は奴ら旧き神が起こしたと考えるのが妥当だろう。だが奴らがここに何らかの執着を見せている以上、果実が近くにあっても不思議ではない」
「そいつはおっかない。もう二度と根には会いたくないね俺は」
一度根と対峙しているリンドウはその恐ろしさを身をもって知っているのだろう。僕にも記憶があれば同じように思ったかもしれない。
「君たち同じシフトの三人。この時間では、葵パキラ、エゼルウルフ・リンドウ、ヒナギク・オリーブの三名には基本的にチームで動いてもらうこととなる。このスリーマンセルは固定で、君たちのシフトは常に一緒だ」
「なぜこの三人なんでしょうか?」
ヒナギクが手を挙げる。
「チームの編成は実力と、実績、隊員同士の相性、バランス考えて、私たちで決めさせてもらった。特に君はまだ初任務のようだから、実績の大きい二人のもとにつけさせてもらった。安心して先輩を頼りたまえ。逆にそちらの二人には期待しているよ。他の部隊とは独立した少し特別な任務を与えることもあるかもしれない。私からの愛情だと思って励んでくれたまえ」
そんな風に言われると存外悪い気はしない。ただ彼女の言う実績という奴が僕の記憶にない事だけが少し居心地悪かったりもする。
「司令部はここ。この場所には我々三人のうちだれかが必ず控えるようにしている。我々とは私、雲蘭リナリアと、アッカ―副長」
背後に控える優しそうな笑顔の男性が軽く手を振る。
「それから今日はシフトを外れている。レノフ副長の三人だ。顔は覚えているな」
「はい」
軽くうなずく。昨日任務の詳細を説明していた人だ。
「情報はここで逐一共有してもらう。具体的にはセーブだ。隊員たちのセーブした記憶データに関しては、我々三人にのみ特別に閲覧が許されている。君たちの集めてきた情報を分析し、次の行動を決めるのが我々の仕事だ」
「僕たちは他の隊員の集めた情報をみれないんですか?」
「すまないね。詳細は控えるが機密情報の保持のためだ。チーム間の情報の共有は我々の定めた最低限の範囲のみにしてもらう」
答えたのは後ろに控えるアッカー復調の方だった。
「基本的にこちらからの命令は絶対。これは君たちを守るためでもある。我々の最優先事項は常に隊員の安全だ。安心して順守してほしい」
「了解」「了解~」「了解です」
リンドウはこの場面でも相変わらず緩い返事をする。僕はそのふてぶてしさに少し関心すらした。
「私からは以上だ。質問は?」
その問いに誰からも声は上がらない。
「よし。では今回の任務は、街の散策だ。事前情報は与えない。これはまず偏見なくこの世界を見てほしいからだ。最初には君たちの頼りとなるこの街に詳しい
彼女が歩き出し、僕たちはそれを追いかける。副長はその場にとどまるようだった。
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