第13話
完全に消えていた意識を、まどろみまで持って行ったのは喧騒だった。そして異様によって眠気は完全に覚醒する。夜は開けていない、窓の外にある暗がりがどこか待ちの遠くから照らされている。立ち込める煙が灯りに照らされて闇夜に浮かび上がり、この街のどこか遠くから夜中に相応しくないざわめきが漏れ聞こえてくる。
まだ、目覚め切ってない体を無理やりむち打ち、窓の側に駆け寄る。のぞきこんだ通りに人影が走りこむのが見えたと思った瞬間、その人影はガンガンと階下のドアを打ち鳴らした。
「誰かね?ここは会員制だ。会員証はお持ちか?」
階下でヤナギの緊張した声が努めて平静を装いながら、扉の向こうの何者かにいつもの決まり文句をぶつけるのが漏れ聞こえる。
「いいから開けてくれ!僕だ!」
老人の声に被せる様に叫ぶ声は、馴染みのもので僕は緊張を一割だけ割り引きながらも急いで部屋を出て駆け下りる。何事かという気持ちだった。
僕が一階に降りるのと、ディオネアが扉からなだれ込んでくるのはちょうど同じタイミングだった。
「なんだ、何があった⁈」
ヤナギ老人がその慌てように尋ねる。
「…はぁ、はぁ」
ずっと走ってきただろうディオネアは、二呼吸分だけ息を整える。
「教会が…、あちこちの秘密教会が襲われている」
「なんと…」
二人が絶句している間に、もう一人の男が遅れてようやくどかどかと降りてくる。
「おいおい、何の騒ぎだこれは?」
空気の読み切れない男は、頭を掻きながら眠そうな声と共に欠伸までする。
「近郊の教会は全滅していた。急いで知らせに戻ってきたんだが、この街に、潜伏している複数の秘密教会も城に近い所から順番に次々襲われてる。今!まさにだ!」
遠く赤らむ町を照らすのは、襲われた教会に放たれた火の手か、はたまた兵隊たちの手にしている松明か。いずれにせよ夜風にふさわしくわない物騒さが風に乗り伝わってくる。
「おいおいマジかよ…」
眠気をこらえていた男も一気に覚醒する。
「ほかの隊員は?」
首は横に振られる。
「何もわからない。ただ、道すがら、街の人が話してるのが聞こえたんだ」
「なにをだよ」
「王の首がはねられた。旧神教派が軍を掌握し、異端者たちのあぶり出しを始めたと」
「ありえん!」
声を荒げたのは、ヤナギだった。
「旧神派にもはやそれだけの気概も余力もない。よしんば王を暗殺せしめてとして、軍を掌握できるほどの政治力など奴らには残っておらん」
そう否定しながらも、その表情には狼狽が見て取れる。誰もがまさに混乱の最中にいた。
「とにかくどうする?話がホントならここにも敵さんが向かってるってことだろ?」
完全に覚醒したリンドウもまた焦りの中で尋ねる。
「とにかく場所を移すのは?」
要は逃げようという点案をする。僕の問いにディオネアは再び首を振った。
「城門を含め街から出られる場所には真っ先に軍が向かってるはずだ。この街に身を隠すにしても時間の問題、いずれはあぶりだされる」
「じゃあ、どうするよ⁈」
長身の男は今度は、あまりの事態に頭を掻いた。ディオネアはその言葉に少し考え込む。
「MALUSの隊員が抑え込まれてるなら、敵の中には間違いなく根がいる。あるいは枝が、いずれにせよこの街だけでも100人近い隊員がいるんだ相手の主戦力は間違いなくここに集中してるはずだ。なら、向こうの本拠地を叩く」
「正気かよ?」
ディオネアの下す決断にリンドウは驚く。
「それに僕たち以外の災難を逃れた隊員も地下を目指して集まってくるかもしれない」
「それは本当だろうな?」
「わかるわけないだろう!だが今他にもっといい案はあるのか?」
彼の一声に、沈黙が答える。長く長くなるほどそれは言葉を肯定した。
「決まったようだな。地下道まで、案内しよう」
ヤナギ老人が全員の意思を代表した。
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