第9話

街がい極めて大きいということは、城門をみればわかる。

行きかう人々も活気に溢れていて、商人らしき人の群れに紛れて僕たちはそこに踏み入った。懐中時計のコンパスを頼りに、街の中を迷いながら進みそれらしい建物を見つけるころには日はすでに傾き始めていた。


コンコン、と何の看板も掛けられてない扉を叩く、外からはつぶれた商店の後にしか見えない。誰もいないのでは?っと思った時、のぞき窓が開き2つの目がこちらを伺う。

「ここは会員制だ」

しわがれた声は警戒心をあらわにしている。


協力者コーポレーターか?僕たちはMALUSの隊員だ。ここを開けてくれ」

ディオネアが答える。


「何のことだかわかんないねえ。とにかくここは会員制だ。会員だってなら、会員証をみせな」


「茶番はいいよ。僕たちは長旅で疲れてるんだ」

男の態度が気に食わなかったのか彼はいつも知る姿より気持ち高圧的だ。


「会員証。ないなら入れない」

しわがれた声は、意に介さずに同じことを口にする。しかし僕はそこで男の言わんとしてることに気が付いた。


「懐中時計のことだよ」

慌てて懐から取り出す、男はぎょろりとした目で僕の手元のそれを見つめる。


「開いて見せてくれ」

相変わらずの声音で指示する。この時計は、使用者と紐づけがされていて、他の人間が万が一拾っても使えないようにできている。僕は言われたままに懐中時計の蓋を開いて見せた。


「会員の方だな。そっちは?」

視線は次いでディオネアに向けられる。


「これでいい?」

彼は乱暴に時計を取り出して掲げて見せる。


「開いて見せ…」

男は促す。

「もう、いいでしょ?開けてよ」

開くどころか、それを握りしめて、うんざりといった風にため息をつく。疲れているのだろうか、イライラしているように感じた。


「……わかった。会員2名様だ。ご案内」

視線の主は少し、考えてから、これ以上ディオネアの機嫌を損ねる必要もないと考えたか、はたまた単に納得したかのぞき窓をいったん閉じる。すぐに閂のようなものが外される音がして、ぼんやりとした灯りが灯りをこぼしながら、扉が開く。


僕たちは無言でその扉を潜った。


「悪かったな。最近皆ピリピリしてるのさ」

閂を再びかけながら謝るのは、姿は小柄な男性だ。顔に刻まれた皺からかなり高齢に見える。老人といって差し支えないほどだ。


「我々はこの国ではただでさえ異端扱いなのに、最近近隣の町や村のわしら信者が管理する教会があちこち襲われてるようでな。各秘密教会の管理人たちと連絡が取れなくなっている」

その言葉に僕とディオネアは目を合わせた。


「じゃあ、あの教会も」

「そうか…、お前さんたちの通ってきたところもか…」


「ええ、枝に遭遇して、命からがら逃げてきました」


「これもまた女神さまの試練か、はたまた旧神たちの謀略か…」

ぶつぶつとつぶやいて、老人は深刻そうに眉を顰める。

「まあ、なんにせよお前さんたち無事でよかった」


「僕らのほかにも、隊員が?」

「ここには一人、お前さんたちで三人だ」


ってことはこの街にはここ以外にもセーブポイントがあるの?」

今度はディオネアが尋ねる。


「細かい話はおいおいしよう。まずは休むといい」

老人はそこに来て初めて笑う。その笑顔は、僕たちを心から歓迎している。


「さっきはすまみませんでした。そんな事情とは知らず…」

腹の虫が悪かったディオネアも流石に居心地の悪いのか申し訳なさそうな顔になった。


「疲れただろう。簡単な食事なら用意できる」

彼は、何でもないという態度で言葉を受け入れる。僕たちが長旅の疲れと緊張から解放された瞬間だった。


出された食事は、思いがけず温かく美味しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る