21話 追い打ち


「「「――うっ、うわっ!?」」」


 ドアをノックしてまもなく、が姿を見せてきたわけだが、覚悟していたにもかかわらず、俺たちは酷く驚いた声を重複させることになった。


 迫真の表情っていうか……とてもじゃないが正視できないほど恐ろしい形相をしている。一度遠目に見たことはあったが、まさかここまで恐ろしい顔つきだったとは……。


 鬼気迫る表情とはまさにこのことで、【鬼顔】というスキル名に相応しい効果だ。しかもそれがずっと続くんだから、そりゃ店員や客が逃げ出すってことで出禁にもなるし、外出すらできなくなって引きこもるのもうなずける。


「だ、誰だぁ、お前ら……って、ウ、ウサリアちゃん……!?」


「モ、モイヤーさん、実は、あ、あなたの顔を直せる人がいるというので、連れてきましたぁ……!」


「お……おいらなんかのために、なんでそこまで……」


「モ、モイヤーさんは、大切なお客様ですからっ……!」


「あ、ありがとう、ウサリアちゃん……ひっく……」


 ウサリアの真心に対して感激したのか、モイヤーと呼ばれた男が目元に涙を浮かべてるわけだが、それでも滅茶苦茶怖い。


「……で、彼らがその、おいらの顔を直せるとかいう人たち……?」


「は、はいっ。私の知り合いの方々で、なんでも解決屋さんのフォードさんと相方のリリさんですっ」


「……な、なんでも解決屋だって……!?」


「「「ひっ……」」」


 男の鬼の形相が一層険しくなったのがわかる。こ、これは物凄い迫力……。リリとウサリアが俺の後ろに隠れてしまったほどだ。正直、俺も隠れたいくらいなんだが……。


「よ、よくもおぉ……。何がなんでも解決屋だよ。こいつらのせいで、おいらの顔は……!」


「モ、モイヤーさん、落ち着いてください……! フォードさんとリリさんは、あなたの顔をそんな風にしてしまったあの方々とは違うんです……!」


「そ、そうなのかぁ……。けどおいら、なんでも解決屋なんてもう懲り懲り――」


「――いや、その顔は俺たちがなんとか直してみせる。どうか信じてほしい……」


「そ、そうだよ。フォードなら絶対あんたの顔をなんとかできるから、信じておくれよ……!」


「……」


 こちらの説得が通じたのか、モイヤーという男の怖すぎる顔が、幾分緩和されたような気がする。それでも充分怖いが……。


「……わかったよ。そんなに言うなら、ウサリアちゃんに免じてやってもらう。けど、もしまた失敗したら、そのときは……」


「「「ゴクリッ……」」」


「少なくとも、王都内じゃ絶対に仕事ができないようにしてやる。どこへ逃げようと必ずおいらが探し出して、この顔であんたらの仕事場に居座ってやるうぅ……」


「「「……」」」


 うわ……それはかなりというか、滅法困る……。この鬼の顔で居つかれたら客はますます来なくなるだろうし、もし失敗してしまった場合、事実上なんでも解決屋はもう終わりってことだ。郊外でやるという手もあるが、治安がすこぶる悪いから現実的じゃないしな……。


「ちなみに、おいらはDランク冒険者だから、力尽くで追い払おうとしたって無駄だぞ。別の場所でやろうとしたって、おいらには一度見た相手の位置を把握できる【追跡】ってスキルがあるんだ……」


「「「……」」」


 うわ、Dランクかよ……。モイヤーからさらなる追い打ちをかけられ、俺たちはタジタジだった。ああいう高級レストランの常連客で、しかもこの家の立派さを考えたら嘘を言ってるようには思えない。


「フォ、フォード……」


 ん、リリが慌てた様子で耳打ちしてくる。


「どうした、リリ?」


「この男さ、あたしらの想像以上にストーカー気質だよ。もしものことを考えたら、今すぐやるのはやめておいたほうがいいんじゃないかい……? もっとスキルを増やしてからでも――」


「――いや、やる……」


「え、えぇ……? 本気なのかい、フォード……?」


「あぁ、折角ここまで来たわけだしな。それに、見せてやりたいんだよ。本物のなんでも解決屋ってやつを、その素晴らしさってやつをな……」


 鬼の顔に圧倒されて声を出しにくい状況、さらにモイヤーにアピールする意味合いもあって、俺は【声量】スキルで声をでかくして言ってやった。あえて自分を追い詰めて、逃げ場をなくすことで力を出そうっていう魂胆だ。


「……上等だぁ、フォードとかいうやつ……。ただし、もう一つだけ付け加えておくがなぁ……」


「もう一つ……?」


「そうだ……。おいら、この鬼の顔を直すために、高級な薬やスキルを買い漁ったが、それでも一時的に直るものはあっても、こうしてすぐに元通りの顔になっちまったし、簡単にはいかないぞ……」


「それでも挑戦する」


「へっ……どうせ、無理だ。俺がそうされたように、泥を塗りたくってやる。あんたの、その自信に満ち溢れたいけすかない顔面に……」


「……」


 な、なんか相手の闘争心にも火をつけてしまった格好らしい。もしかしたら、ウサリアと一緒に来たってことで色々と察してるのかもな。


 ここに来て、本当に身の毛がよだつほど恐ろしい形相をまざまざと見せつけられてるわけだが、ここまで舐め切ったことを言われた以上、絶対に何が何でも打ち勝ってみせる……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る