15話 裏表


「「……」」


 冒険者ギルドの待合室は、俺たちのいる出入り口を除いて余すことなく長椅子が設置されてるわけだが、そこには既にぎっしりと猛者たちで埋まっていた。


 しかも、俺とリリのほかに立ってるやつは一人もいなかったため、暇を持て余した幾つもの視線の餌食にされてるみたいで、なんとも居心地が悪かった。


「リリ、笑え笑え」


「あ、あいっ……」


 慣れてないとどうしても引き攣ったような笑みになってしまうが、そこは仕方ない。それに、こういう場所にいる連中は依頼に応える人間が来るのを待ってるやつらなわけで、酒瓶を手にギラギラした視線を向けてくる連中とは違うのでそこまで警戒する必要はないんだ。


 ――おっ……目つきの鋭い小柄な男が入ってきて、キョロキョロと周囲を見回し始めた。この感じだと、席を探してるっていうより人探しが目的っぽいので、否応なく緊張感が高まっていく。


 ちなみに、自分たちに関する見た目の特徴――服装や髪型等――については特に力を入れて書いてるので、もし例の貼り紙を目当てにしてるやつなら、こっちを見たらすぐにピンと来るはずだ。


「おっ、あんただな!」


「「っ!?」」


 小柄な男が俺たちのほうに向かってきた。


 ついに来たか――と思ったらあっさり通り過ぎてしまって、後ろにいる腕組みをした老齢の男の元へ行ってしまった。さすがにそう都合よくはいかないか……。


 それからどんどん室内にいる者たちが減っていったため、俺たちは座って待つことができるようになったわけだが、待ち人は焦らすかのように一向に現れることはなかった。もしかしたら、報酬が安いと思われたんだろうか? けど、一応相場の10倍は出してるんだけどなあ――


「――フォッ、フォード……!」


「ん? あっ……!」


 ぼんやりと考え事をしている最中にリリに呼ばれたと思ったら、いつの間にか目の前にガタイのいい男が立っていて、ギョロリとした鋭い目で見下ろしてきた。ま、まさかこんなところで恐喝でもやろうっていうのか……?


「おい、そこのお前……」


「……な、なんだ……?」


 俺は負けじと睨み返すも、内心じゃ戦々恐々だった。戦うとしても体格じゃ明らかに負けてるし、やつの所持スキル次第ではあっという間に組み伏せられ、金を巻き上げられてもおかしくないからだ。


「この紙に書いてあったものを持ってきた」


「「あっ……!」」


 男が見せてきた依頼書は、確かに俺が書いたものだ。


「じゃ、じゃああんたが……」


「そうだ。こいつと引き換えに例のものを渡してもらおう。返品は不可だ」


「あ、あぁ……助かったよ」


 男から神授石を五つ受け取り、代金として銅貨を50枚支払うと、男は厳つい顔を少しだけ緩めて無言で立ち去っていった。


 俺の書いた依頼書は、落ちている神授石を全部で十個買い取るっていう内容だったが、五つしかなかったんだろうしこれでもありがたい。


「フォード、やっぱり神授石を募集してたんだねえ。あたしの予想した通りだったよ」


「バレてたか……でも、まさか相場の10倍とは思わなかっただろ?」


「そりゃねえ。でもいいのかい? そんなに渡しちゃって……」


「まあ確かに痛いが、店で売られてるような神授石を買うよりはずっと安い。それに、あのエルフから貰った銀貨でしばらく凌げそうだしな。とりあえずここじゃなんだし、その辺の店で飯でも食いながら神授石を【分解】で分析アナライズしたあと、新しいスキルを作るとしようか」


「そうだねえ。そろそろあたしも腹が減ってきた頃合いだよ……」


 そういうわけで、俺たちは急ぎ足でその場をあとにするのだった。




 ◆◆◆




 冒険者ギルドの一角、酒場スペースのとあるテーブル上には、盃や料理が盛られた皿のほかに、が幾つも添えられていた。


「うおおおぉっ! 酒がうめえっ、最高にうめえぜっ……! 今頃フォードのやつ、拾いに行った石がなくてすげーがっかりしてんだろうって思うと、ますますうめーっ!」


 酒気や唾をまぶしたアッシュの言葉に、同席する仲間たち――ハロウド、パルル、グレイシア――が揃ってうなずいてみせる。


「フッ……。ゴミスキルを集めてなんでも解決屋とは、役立たずでしかなかったフォードさんの割りに考えたものですが……これは裏を返せば、誰にでもできる、というものです」


「パルルもそう思うのー! 豚に真珠っていうよりもお……アホに神授石って感じいっ……!?」


「パルルったら、なんてことを言うんですの……。フォードに対して、それはいくらなんでも褒めすぎですわ。アホのところをゴミムシに変えるべきではないですこと……?」


「「「ワハハッ!」」」


 グレイシアの毒舌によってその場がさらに盛り上がる中、パーティーリーダーのアッシュがはっとした顔で盃を置く。


「ういー……ってことはよお、ハロウド、俺たちもなんでも解決屋をやろうってんのか……?」


「ええ、もちろんです、アッシュさん。ここに教会で拾った神授石が20個ほどありますので、これを使い分けることでフォードさんたちのお株を奪う格好となり……さらに、のこのこと僕たちの様子を見に来た彼らが脱帽し、絶望する様子を存分に味わうことになるでしょう……」


「うおおおおぉっ! さすがハロウド――俺たちの軍師っ!」


「パルルたちの希望の星っ、大軍師ハロウドー!」


「ハロウド軍師さえいれば、わたくしたちも安泰ですわね」


「うっ、うおおおおぉおっ! ひっく……でも、軍師のせいでよお、リーダーの俺の立場が霞んじまうぜえええええぇぇっ!」


「「「アハハッ……!」」」


 ハロウドが披露してみせた謀略により、その場は一層盛り上がるのであった……。

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