8話 下準備


 ろくに飯も食えないまま朝を迎えたこともあり、俺とリリはフラフラと教会の近くまでやってきていた。もちろん俺たちの目的は、ゴミスキルを封じてあるがゆえに捨てられたであろう神授石だ。


「フォードォ、あたし、思うんだけどさぁ……いや、やめとくよ……」


「ん……? リリ、言いたいことがあるならはっきり言っていいぞ。気になるだろ」


「その……傷つかないでおくれよ?」


「ああ」


「またここでゴミスキルを拾って、フォードの【分解】スキルとやらで新しいスキルを作って見世物小屋をやるにしてもさ……【目から蛇】以上のインパクトなんて、そうそうないって思うんだけどねえ……」


「……まあ、そうだろうな」


 リリの言いたいことはよくわかる。確かに彼女の言う通りだ。いくらゴミスキルをいじくってもあれ以上の衝撃を客に与えるのは難しいだろうし、仮にできたとしても一時的なもので、すぐに飽きられてしまう。


「あっ……まさかフォード、見世物小屋をやる場所を変えようっていうのかい?」


 リリがはっとした顔になる。


 それも選択肢の一つとして考えたが、都の中で安全といえるのは王城近辺か商店街くらいで、城の近くでは商売をするのを固く禁じられてるしなあ。つまりは商店街でやるしかないわけで、そこから離れたら危険な上、その分人も減っちゃうから論外だ。


「いや、あの場所から離れるつもりは当分ないよ」


「ホッ……よかったよ。あの商店街は孤児院のあった地区と比べて安全っていうか、あんまり身の危険を感じないから気に入ってるんだ……」


 リリは心底安堵した様子だった。まあそうだよな。孤児院って貧民街の近くにあって治安は当然良くないから、そこに比べたらどんな場所でもオアシスみたいなもんだし。王城近くのほうが安全とは思うんだが、宿にせよ飲食店にせよ物価が高くて貧困層には暮らし辛いんだ。


「別に、商売する場所を変えなくても成功する道筋はできてる」


「ほ、ホントなのかい? どんなことをやるつもりなのか教えとくれよ」


「あとのお楽しみだ」


「えぇー……」


「すぐわかるからまあ見てなって。とりあえずスキルを拾うぞ」


「あいよー」


 俺は昔から、楽しみはあとに取っておくタイプなんだ。だから当然、友達のリリにもそれは順守してもらう。




「――ふう。こんなもんでいいかな。リリはどれだけ拾った?」


「こんだけだよ。ほかにはもう落ちてないみたいだねえ」


 俺たちはしばらく教会の周囲で神授石を探し回って、俺が二つ、リリが三つで合わせて五つゲットする形になった。んー、大して落ちてなかったなあ。まあ貰ってすぐ捨てられるような神授石なんて相当なゴミスキルが封じられてるんだろうし、ある意味レアなのかもな……。


 さて、早速拾った神授石を分析アナライズしてみるか。


【指拡張】:対象の指が広がる。


【輝く耳たぶ】:自分の耳たぶが光り輝く。


【寡黙】:しばらく対象を黙らせる。


【虚偽】:少しの間、嘘を本当のことのように思わせる。


【視野不良】:一時的に対象の視野が狭くなる。


「……」


 本当に、想像した以上にゴミスキルばかりだ。【輝く耳たぶ】ってなんだよ。ピアスの強化版みたいなもんか? 時間が指定されてないし、耳たぶが永遠に輝きそうだ。


 さて、これらを【分解】しないと所有できないわけだし、少しでも有用なものに変える作業に取り掛かるとしよう。


 スキル名:【視野拡大】

 効果:一時的に対象の視野が広くなる。


 これは【指拡張】と【視野不良】をバラバラにして合わせたものだ。やっぱり視野が広がると色んな意味で便利そうだから持っておきたい。


 スキル名:【正直】

 効果:対象がしばらく嘘をつけなくなる。


【寡黙】と【虚偽】を解体して組み合わせ、虚偽を黙らせる効果にしたらこういうスキルになったので採用した。相手が嘘をつけなくなるなら、重要な取引とかに使えそうだ。


 スキル名:【輝く耳】

 効果:自分の耳が光り輝く。


 最後に、一つだけ余った【輝く耳たぶ】を弄って、耳たぶだけでなく耳全体が輝くようにした。これ自体に大した意味はないが、解体しないと【分解】スキルの一部として纏めて所有できないからな。こんなもんでいいか。


 ここで、俺が持っている所有スキルの一覧を【分解】以外、分析によって確認してみることに。


【降焼石】【目から蛇】【宙文字】【希薄】【視野拡大】【正直】【輝く耳】


 全部で七つもあるし、いい感じになってきた。まだ完璧とは言えないが、これから俺たちがやろうとしていることの準備が整いつつある。


 リリにも【宙文字】で、今まで獲得したスキルを宙に書いて見せてやると、顔を近付けて食い入るように見つめていた。


「へえ……【輝く耳】以外はいい線行ってるねえ。んで、こんなにスキルを集めてどうするっていうのさ……?」


「そりゃもう、あれよ」


「あれって何さっ」


「あれはあれだよ……」


 俺は流されない男なんだ。相手が友達だろうと家族だろうと、そのときが来るまで絶対に言うつもりはない。


「むー! まだ引っ張るっていうのかい……!?」


「もうすぐわかるって。さー、俺についてこい!」


「ったく……フォードは亭主関白だねえ。あたしが尻に敷いてやる予定だったのに……」


「なんか言ったか?」


「い、いやっ、なんでもないよっ」


 リリを従えた俺は、早速目的地へと向かう。これでスキルが足りなければまた取りに行けばいい。あんまり多いと把握しきれなくなる可能性もあるし、とりあえず今あるもので頑張ってみようと思う。


 さー、やってやるぞ。面白くなってきた……。

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