ある魔王の手記 ~チートスキル『死霊使い』があれば仲間なんて不要です!
最上へきさ
君の目の前には、ボロボロになった手記が残されている。
■1日目
いつか誰かがこれを読んでくれることを願って、書き始める。
俺の名前は
ついさっきまで普通の男子高校生だった。
気づいたら異世界、しかもダンジョンの中だ。
なんでそんなことが分かるかといえば、俺の目の前に死体があったからだ。
ミイラのようにやせ細った男の死体。
どうやらこの男は魔法使いで、しかも死霊魔法とかいうヤバいものを研究していたらしい。
色んな死体をつなぎ合わせて復活させようとしていたら、たまたま事故にあった俺の魂が引っかかったのだ。
……と思う。推測だけど。
実際、俺の体はブラックジャックみたいに継ぎ目や縫い目だらけだ。
フランケンシュタインの怪物って言った方が正確か?
とにかく分からないことだらけだ。少し調べてみようと思う。
■7日目
一週間ぐらい経ったと思う。
分かったことをメモした。
一つ。
俺がいるのは邪悪な魔法使いの研究所。
外からの侵入者を拒む造りになっていて、中は罠やらモンスターやらでいっぱいだ。
ここを作ったやつは、暇を持て余したゲーマーか、性格がクソみたいにネジ曲がったやつだ。
こんな場所、どうやって出入りしてたんだ。
二つ。
よくわからん冒険者がやってきて、勝手に罠にハマった。
助けたところで次は俺が殺されるだろうから、無視している。
三つ。
どうやら俺の体は食事も排泄も睡眠も必要としないらしい。
死体だからか。
唯一必要なのは魔力。これも大気中にあるものを勝手に体が吸収しているらしい。
何たるエコ。
四つ。
俺にも魔法が使えるらしい。
生みの親であるミイラ氏の手記にはそう書いてあった。練習してみる。
■13日目
前世では俺も一廉の引きこもりだったが、流石に娯楽のない場所で二週間缶詰は辛い。
まさか、この俺が誰かと話したいなんて思う日が来るとは。
モンスター類には一通り話しかけたが、ダメだった。
価値観が違いすぎる。
特に人肉を食うコウモリとかトカゲとかは、俺のことを保存食だと思っている。
あのミイラ魔法使いがどんな魔法でモンスターを操っていたのか知らないが、方法を調べておかないとヤバいことになる気がする。
■16日目
閃いた。
冒険者の死体を蘇らせて話し相手にすればいいんじゃね?
幸い、ミイラが残した研究資料はたんまりある。
俺には魔法の素質があるんだし、学べばなんとかなるだろう。
■34日目
とりあえず死体が自律して動くようになった。
研究所内には思ったより大量の死体があって、素材に困らなかったおかげだろう。
いわゆるスケルトンとかゾンビ、みたいなやつだ。
冒険者連中を数で圧倒するぐらいなら余裕だ。
でも、会話は難しい。
素材の脳が傷んでいるせいらしい。
多分、魂のようなものは宿っているんだが、魂の意思を脳が仲介できていないのだ。
だから言葉がカタコトだったり、情緒が不安定だったりするのだ。
■70日目
ものすごい冒険者の大群が押し寄せてきた。
死霊術師討伐軍、だそうだ。
だが俺が新開発したキメラゾンビ七号・改『ヘカトンケイル』の敵ではなかった。
身長二十三メートル、体重六トン、目が八十個、腕が十七本ある大物だ。
何しろ見た目がグロいし、匂いもキツい。
この時点で戦意喪失するやつもいる。
その上パワーもスピードも耐久力も段違いだから、普通の冒険者じゃ相手にならない。
おかげで大量の素材が手に入った。
研究がしやすくなる。
■150日目
ついにコミュニケーションがとれる個体が出来た。
簡単な命令を聞く、教えておいた回答を吐き出すぐらいの、前の世界で言うチャットボットぐらいの機能しかないが。
ようやく一歩前進だ。
■300日目
勇者(自称)パーティが現れた。
まあ百人が挑んで帰ってこなかったダンジョンに挑むやつは、勇気ある者、だよな。
それかバカか、もしくは自殺志願者。
確かに強かった。
だが、俺が作ったゾンビ軍団・十六式『レギオン』の敵ではなかった。
百を超える自律死体が、一つの巨大な合成脳が出す指示の下で連携する無敵の軍隊だ。
完璧なコンビネーションと緻密な戦略の前には、超優秀な六人のパーティなど無力も同然。
おかげで出来のいい素材が手に入った。
せっかくなので六魔将と名付けて、研究所の警備に当たらせよう。
■600日目
かなり複雑な会話ができる個体が出来た。
端的に言うと、俺が「あー死にてー」って呟いたら、「殺しましょうか?」ではなくて「少し休憩を取られてはいかがですか」って答えてくれるヤツだ。
すごい。めちゃくちゃ生活に彩りが生まれた。
選りすぐりの美少女のパーツを素材に使っているので、見た目も美しい。
めっちゃ高級なメイドロボって感じだ。
残念ながら今の俺には性欲がないので、エッチな展開はない。
肉体が死んでいて生殖機能が失われているせいなのか、そもそも個体を複製する必要がないからなのかは、よく分からないが。
■700日目
とうとう軍隊が攻めてきた。
魔王討伐軍(自称)だ。
どうやら以前やってきた勇者(自称)パーティにお姫様が紛れ込んでいたせいで、どこかの王様の恨みを買ったらしい。
万にも届く軍勢だったが、六魔将率いる『レギオン』には及ばなかった。
よーし、たっぷり素材が手に入った。
忙しくなるぞ。
■70000日目
ようやく一つの結論に達しつつある。
俺の話し相手を、この世界にある素材を使って生み出すのは不可能だ。
厄介なのは魂だ。
創り出せないし、移し替えることもできない。
まず、普通の死体を蘇生しても、連中は俺を怪物としか認識しない。
いくら命の恩人として振る舞っても、結局は殺すか殺されるかになる。
あのミイラ魔法使いがやったように、新鮮な脳を保持した死体に他の魂を移すという手段も試した。
しかし拒絶反応を抑えることができなかった。
この世界の魂は、自分以外の肉体や脳を拒絶するのだ。魂に固有の魔力パターンがあるせいかもしれない。
人間を殺さず洗脳することも試したが、最終的にはなんらかの理由で自我が崩壊してしまう。脳の欠損、情報量の肥大化……対策の施しようがない。
何より洗脳された人間との会話は不毛だ。自分の一部と会話しているのと変わらない。
気づけば、この世界の人口もかなり減っていて、最近は素材の入手にも苦労するようになってきた。
外では、俺が世界を滅ぼした魔王とされているらしい。
まったく嫌になる。
俺程度に滅ぼされる世界の方がおかしいのだ。
俺はただ、話し相手が欲しかっただけなのに。
そろそろ最後の手段に出ようと思う。
あのミイラが使った手法だ。
異世界から魂を召喚し、素体に定着させる魔法。
俺が知る限り、唯一成功例が存在する手法だ。
当然ミイラが失敗した原因は探り出し、可能な限り成功率は高めている。
それでも俺の魔力が枯渇せず、個体を保ったままで転生魔法が成功するかは五分五分だ。
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万が一うまく行かなかった場合に備えて、この手記を読んでいる者に向けてメッセージを残しておく。
俺と同じ轍は踏むな。
お前はもっと上手くやれ。
幸運を祈る。
ある魔王の手記 ~チートスキル『死霊使い』があれば仲間なんて不要です! 最上へきさ @straysheep7
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