全自動WEB小説サポートAIアイちゃん

澤田慎梧

全自動WEB小説サポートAIアイちゃん

「うへぇ、また『謎の上から目線コメント』かよ……」


 カク●ムから届いた「新しい応援コメントがあります」の通知にワクワクしながら読みに行ったら、今月何度目かのやけに偉そうな読者からの謎のアドバイスだった。

 やれ「前置きが長すぎる」だの「一文一文が長すぎる。短くしろ」だの、「もっと人気のあるジャンル書いた方が良い」だの。そりゃあ拙い小説かもしれないけれども、どこの誰とも分からない人に偉そうに言われても不愉快なだけだった。


 ――僕がWEB小説を書くようになって数年が経つ。流行りのジャンルを書かないのと、生来のコミュ障気味な性格のお陰で読者や作家仲間はあまりいなかったけれども、それでもそこそこ読まれて、そこそこ感想をもらえているので満足していた。

 けれども、最近どうやら少し潮目が変わって来たらしい。


 WEB小説は元々、作家と読者の距離が近い。感想はリアルタイムで届くし、投稿サイトだけでなくSNSで繋がっていることも少なくない。

 おまけに最近は投稿サイト自体にもSNS機能が充実してきて、コミュニケーション能力を要求される場面も多くなっていた。コミュ障の僕としては、煩わしい限りだ。


 もちろん、殆どの作家さんや読者さんは基本的には優しい。コメントにも言葉を選んでくれる。

 けれども中には、辛辣なだけの言葉の羅列を「鋭い意見」と勘違いした輩や、ただの宣伝目的のコメントを寄越す奴、酷い時には「まだ書いていない俺の作品をパクった」だとかいう言いがかりをつけてくる人までいる。

 メンタルが強い人ならば華麗にスルーしたり撃退したりと、上手く対応するのだろうけれども、コミュ障の僕にはどだい無理な話だった。


 そんなある日のことだ。僕は神のツールに出会った。

 その名も、「全自動WEB小説サポートAIアイちゃん」。


 アイちゃんはスマホやPCのブラウザに機能追加する、いわゆるプラグイン形式で提供されているサポートAIだ。

 その主たる機能は「フィルタリング」。なんと、投稿サイトやSNSに寄せられた辛辣なコメントを自動で非表示にしてくれたり、はたまたな表現に置き換えて表示してくれるのだ。


 例えば、読者からの「つまんねー」等の罵詈雑言は容赦なく非表示になる。一方で、「長すぎて途中で読むの止めた」という悪口寄りのコメントは、「大長編ですね! 今は時間が無いので途中までしか読めていません、すみません!」等と、柔らかい内容に変換して表示してくれる。

 これは作家側からの返信コメントも同じだ。辛辣な表現が含まれる場合は、アイちゃんが「センシティブな表現が含まれています」という警告と共に修正候補をいくつか提示してくれるので、一時の感情の昂りで「炎上間違いなし」みたいなコメントを公開せずに済む訳だ。


 アイちゃんは各種投稿サイトとSNSに対応している。

 なので、今までは怖くて読み専状態だったSNSでも活動を開始したし、「コメントの民度が低い」と有名な投稿サイトにも手を伸ばしてみた。

 すると、これが正解だった。今までとは比べ物にならないくらいの作家仲間が増えたし、読者数もウナギ登りだ。どうして僕は、もっと早くアイちゃんを導入しなかったのだろうか?


『凄い! どうしたらこんなの書けるんですか?』

『あなたの表現には毎度驚かされます』

『お、新作待ってました! これからもお互い頑張りましょうね!』


 フィルタリングされた内容も多いだろうから、これら全てが好意的なコメントなのかどうか、本当のところは全く分からない。けれども、僕にとって全てが励みになる言葉であることには違いなかった。

 仲間と読者が沢山増えたおかげで執筆に対するモチベーションも上がってきた。

 今まではコンテストなんかにも興味はなかったけど、これからは挑戦していこうかな――?


   ***


 ――後に彼は、周囲から「謎の強メンタル」だとか「心が鋼でできた男」等と呼ばれることになるのだが、本人がそれらの呼び名を目にすることはなかったという。


(GOOD END?)


※「全自動WEB小説サポートAIアイちゃん」は非実在のサービスです。また、実在したとしても筆者はお勧めいたしません。

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全自動WEB小説サポートAIアイちゃん 澤田慎梧 @sumigoro

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