俺を惑わせる聖女様

葉山さん

第1話

 俺は一人で冒険者をしている。

 冒険者というのは常に死と隣り合わせの職業だ。

 ソロで活動する人は他にもいるが、基本的にはパーティーを組むだろう。

 俺はお金や人間関係のトラブルを避けるためソロで活動している。

 クエスト中は全身全霊で警戒をしてはいるが、やはり怪我はしてしまう。

 そんなときにいつも、教会の聖女様に治療を頼んでいる。

 今も聖女―イリスがいる教会に向かっている。


 「おーい!イリス!」


 教会が見えてくれば、入り口近くに聖女様が立っていた。

 俺がいつも通っているので、彼女も俺が来る時間がわかって、こうして立ってくれているのだろう。

 手を振ればイリスの双眸が細まる。


 「今日もよろしく」


 「全く仕方ないですね」


 イリスは、言葉ではそうは言っても、微笑みながらわざとらしくため息をしているあたり、あまり気にしてないのかもしれない。

 彼女に誘導されながら、近くの席に腰を下ろす。

 

 「浅いですが傷の数が多いですね」


 部分的につけた鎧を外し、傷口をイリスに見せる。


 「詳しくみたいので服をあげてもらえませんか?」


 指示通り背中が丸見えになるよう、服をあげる。


 「ふぅー」


 「ほわぁぁああああ!」


 いきなり背中に息を吹きかけられ、俺は飛び退く。


 「いきなり何するんだ!」


 「あはは。『ほわぁ!』ですって!」


 この聖女はこうして毎回俺にイタズラをしてくる。

 くそぉ。なんとかしてやり返したい。

 

 「なぁ、イリス…っ…!?」


 何かしてやろうと、治療中のイリスを見やれば、目の前に端麗な顔があった。

 小さく笑うイリス。

 こちらの行動を全て読まれている気がする。くそぉ。


 「アインはまだまだですね」


 「ったく。イリスは聖女だけど聖女らしくないよな」


 「失礼ですね。こんな素晴らしい聖女他にいませんよ?」


 「あーそーですねー」とおざなりに返答すれば、頬をつねられる。

 人前と俺の前での態度が違い過ぎる。

 俺も俺でおざなりに扱われているのかな。


 「これで治療は完了しましたよ」


 「ありがとう。……さて、俺は帰るとするかな」


 装備を整え、いつもの宿に帰ろうと席を立った時だった。

 俺の前にイリスが回りこむ。


 「いつものお安ーい宿に帰るのですか?」


 「お安くて悪かったな。今日は疲れたから早めに休もうかと思ってるんだ」


 俺がばつが悪そうに答えれば、イリスは人差し指を立てて微笑んだ。


 「ではこの教会に住めばどうですか?」


 「はぁ!?いきなり何を言っているんだ?」


 「提案をしているんですよ。ここに住めば宿代や食費なども浮くと思いますし、私の治療だって付きますよ?」


 「いやそうじゃなくて。俺が住んだら男と一つ屋根の下一緒になるんだぞ!?」


 「そうですけど。……もしかして、えっちなこと考えてます?」


 イリスがにやりと俺を見つめる。

 イリスは聖女だが、たまに悪魔に見える時がある。


 「そ、そそそんなこと考えてるわけないだろ!」


 「ならいいじゃないですか。私も一人で暇なんです。きっと、アインがいると楽しいと思いますから一緒に住みましょう!」


 そう話すイリスはとても楽しそうだった。

 その表情を見れば断りづらくなる。


 「あ、あぁ」 


 「それでは決まりです!早速ご飯にしましょう!」


 どこまでも楽しそうな聖女様は俺の腕を引いていく。



 今日も今日とて、聖女様は俺も惑わせる。

 


 


 


 

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俺を惑わせる聖女様 葉山さん @anukor

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