魔法学研究所へ、ようこそ!さぁ、今日の実験は……

ヘパ

第1話 魔法学研究所へ、ようこそ!さぁ、今日の実験は……

 それは、ある昼下がりのこと。


すべては、一通のメッセージから、はじまった……。



『魔法の実験やるよ!全員参加型だから、ヘパくんも来てね!』



 スマホに、通知がきてた。妃乃ひのからの、メッセージだった。


 そんな、なりゆきで。俺は、弟のアレスと、いとこのトリトンをさそって、魔法学研究所へ向かうべく、人間界へ降りた。



 魔法学研究所っていうのは、その名のとおり、魔法を研究するための施設しせつ


魔法は、魔法陣をかくことで、発動するから。


魔法を研究するっていうのは、つまり、いろんな種類の魔法陣を考えること。



 研究室には、耀よう奈月なつき妃乃ひの神龍かみりゅう、そして、松岡まつおか博士がいた。


 テーブルに並べられた本が目に入った瞬間、うわっ!って、アレスが、悲鳴をあげた。


「その分厚ぶあつい本の集合体、なになに!?」


活字アレルギーを起こしてるアレスに、耀ようが、「本、嫌いなの?」って、きいた。


アレスが、きっぱり、言う。


「マンガしか、読めないもん!自慢じゃないけど!俺さ!本、開いたら、3秒で寝れるよ!」


「ほんと?やってよ!」って、神龍かみりゅうが、おもしろがって、本を、わたした。


アレスが、本を、手に取ったのを見て、トリトンが、カウントする。


「1……。」


アレスが、本を開く。


「2……。」


3!って、トリトンが言ったと同時に、アレスの頭が、ガクンッ!って、落ちた。


「はい、おやすみ。」トリトンが、肩を、すくめてる。


「やばいでしょ!?」って、奈月なつきが、めちゃくちゃ、ビビってた。


松岡博士も、唖然あぜん


「俺、似たような光景、すげー、見たことあるんだけど。確か、ゼウスも、ベッドに倒れて、3秒くらいで、寝てたよ。初めて見た時、びっくりした。」


「そっくり親子やんな。」トリトンが、アレスをすって、起こした。


「おはよ。」


「え?俺、寝てた……!?」って、アレスは、自覚ゼロ。


「ほらー!俺、だめなんだよー!絶対、寝ちゃうもん!2ページ目なんて、読んだことないもん!」


「それも、やばくないか!?」って、耀ようも、つっこんでた。


「ふっふっふ……。」って、妃乃ひのが、意味深な、ふくみ笑いをしたのは、そんな時。


「今回の妃乃の新作魔法はー!読書が苦手な人でも、たのしく、本が読めちゃう魔法だー!」って、テレビショッピングみたいに叫びだすから、何かと思ったら……。


「本の中に、入っちゃう魔法ー!?」


驚きのあまり、俺と、アレスと、トリトンの声がかさなった。


そんなこと、できるのー!?


「できるんだよー!本の中に入って、登場人物になって、実際に、話をロールプレイするの!どれがいい?選んで!」



 妃乃にうながされて、机に並んでる本を、見てみたけど。


作家が違うだけで、どれも、西遊記さいゆうきだった。



「……て、これ!全部、西遊記さいゆうきじゃーん!」


「そうだよ!」って、妃乃は、あっけらかんとしてる。


「西遊記、おもしろいよね!どの西遊記がいい?」



 どうしよう……。同じ物語なのに、作家が違うと、ぜんぜん、違う。


上・中・下のやつ……。上・下のやつ……。どう違うの?


一冊だけの薄いのも、あるし……。



「これにして。」って、アレスが、薄い簡単なのを選んだ。


「おっけ!」妃乃が、杖を振る


たちまち、本の上で、光が交差して、魔法陣が完成した。


「じゃあ、みんな!本の中で、会おうね!何になれるかは、入ってからの、おたのしみだよ!」


魔法陣に触れた妃乃が、真っ先に、本の中へ消える。



 妃乃のあとにつづいて、みんな、魔法陣にさわった。



 気がつくと、韓流ドラマに出てきそうな、中華っぽい宮殿にいた。


「みてみて!妃乃は、羅刹女らせつにょ!」って、妃乃が、大きな葉っぱ型のうちわを、かかげた。


奈月が、「妃乃ちゃん、俺って、なに?絶対、妖怪だよね?」って、自分の頭に生えた2本の角をさわってる。


「奈月くん、牛魔王ぎゅうまおう。」



 俺とアレスは、おそろいの着物を着てた。


唯一、違うところは、俺の腰には、ヒョウタンが、下がってるってこと。


「それ、知ってる!」って、アレスが、叫んだ。


「名前呼んで返事したら、吸い込んじゃうやつ!……てことは、俺たち、金角きんかく大王と銀角ぎんかく大王!?なんだ、それ。俺たちが、金髪と銀髪の兄弟だからって、安直あんちょくすぎだと思わない、ヘパ?」


「アレス、なんで、知ってんの!?本、読まないんじゃないの!?」


「それくらい知ってるし!マンガとか、テレビで、見たことあるし!……てゆーか!これってさ!俺たち、悪役サイドなの!?孫悟空そんごくうやれると思ってたのにー!」



 悟空ごくう、誰!?って、アレスと、妃乃と、奈月と話してたら、ヒーローサイドが登場した。


 猪八戒ちょはっかいの耀と、沙悟浄さごじょうのトリトンが、三蔵法師さんぞうほうしの松岡博士をつれて、やってきた。



 「あ、そうだ!松岡博士?」って、俺は、呼んだ。


「え、なに?」って、松岡博士は、簡単に、ひっかかった。


返事して、ヒョウタンに、吸い込まれちゃった。


「やったー!」って。俺は、ヒョウタンを、かかげた。


「三蔵法師、ゲット!」


「俺たちの勝ちー!」って、アレスと、ハイタッチしてたら。


「え、ズルくない!?」って、ブタの耀に言われた。


「とりかえすだけやけど!」


カッパのトリトンが、魔法で、噴水をあやつった。


妃乃が、芭蕉扇ばしょうせんで突風を起こして、トリトンの攻撃をはねかえす。


耀が、空間転移魔法をつかって、空間を、ねじまげた。


はねかえしたはずの一撃が、こっちに、返ってくるー!


わぁー!って、俺たちは、結局、吹っ飛ばされた。



 金色の雲に乗った神龍が降りてきたのは、その時だった。


「西遊記って、悟空が無双して、妖怪やっつける話だったよな?」



 神龍は、キレッキレに如意棒にょいぼうを回してる。


武術を習ってただけあって、迫力が、やばい。



「待った!奈月、暴力的な争いは、好きじゃない!」って、奈月が、神龍を止めた。


「ねぇ。平和に、バトルしようよ?神龍?」


「えー。別に、いいよ。」



 奈月と神龍が、こぶしをかかげた。


なにするんだろう……って思って、見守ってたら。


「ジャンケンポン!」って、ふたりは、ガチの、あっちむいてホイ!やってた。


 勝負がついた瞬間、わぁー!って、奈月も、神龍も、叫んでた。


ちなみに、勝ったのは、奈月だった。



 『牛魔王との、あっちむいてホイ!に負けてしまった孫悟空。三蔵法師は、そのまま、妖怪に、さらわれてしまいました。おしまい。』



 もとの世界に戻ってきたら、本の内容が、めちゃくちゃになってた。


「たいへんだー!」って、妃乃が、悲鳴をあげてる。


「もう一回、本の中に入って、ストーリー、やりなおさないと!これ、図書館に返さなくちゃいけないやつ!」


「はぁー!?」耀が、叫んだ。


「まだ実験段階の魔法なのに、なんで、そんな本で、テストしたの!?」


「悟空の俺は、やっぱり、おまえらを、やっつけていいわけ?」


そう言う神龍は、めっちゃ、笑顔だった。



 それで、2回目。また、本の中に、入ったんだけど。


神龍が、悪役の俺たちを、容赦ようしゃなく、ボッコボコにしたから。


『天下無双の孫悟空は、牛魔王たちを、完膚無かんぷなきまでに、ボッコボコにして、三蔵法師が入ったヒョウタンを、ぶんどりました。おしまい。』


って、話になっちゃって……。


あれ?これも、なんか違くない?って、なって。3回目。



 耀が、くしゃみしちゃったり。


ちょっと誰かが、変なことしただけで、お話が変わっちゃうから、なかなか、正規せいきのストーリーに、ならなくて。


何回も、やりなおした。



 本当に、体を張る読書だった。


神龍に、如意棒にょいぼうかれたところが、まだ痛い。


俺は、ふつうに、本を読んで、空想するくらいで、いいや、妃乃……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法学研究所へ、ようこそ!さぁ、今日の実験は…… ヘパ @hepha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ