正体

「以上が、ヤ国が滅亡した経緯のすべてだ」マコトシヤカニは一呼吸置くと、タシカニ、サスガニ、フクヨカニを順々に見つめてから尋ねた。「どうだね。これで信じる気になっただろう」


「信じるよ」フクヨカニは大きく頷いた。「とても引き込まれる話だった」


「僕はまだ信じがたいね」サスガニはさすがに疑り深い。「そもそも、この話には大きな矛盾があるじゃないか」


「矛盾? どういうことだい」


「ヤ族はすべて鳥貴族によって水揚げされてしまったんだろう? それなのに、なぜヤ族である君がまだ生き残っているんだい」


「確かに」


「それは、マコトシヤカニさんだけは運よく網に引っかからなかったんだろう。だから、水揚げされることなく、ヤ族で唯一生き残ることができた」


「いや、それはありえないよ。マコトシヤカニは、ヤ族が水揚げされた後の出来事も話してくれただろう。ということは、マコトシヤカニも他のヤ族と一緒に水揚げされたと考えないとおかしい」


「確かに」


「でも、水揚げされたんだとしたら、マコトシヤカニさんは蟹鍋にされて鳥に食べられてしまったはずじゃないか。マコトシヤカニさんが生きているというこの事実は、どう説明がつくんだ」


「確かに」


「それは、こういうことさ。マコトシヤカニはありもしない話をでっち上げて、まことしやかに語って聞かせたのさ」


「マコトシヤカニさんが嘘をついてたというのかい」


「そう考えないと、説明がつかないじゃないか。そうなんだろう、マコトシヤカニ。いや、マコトシヤカニという名前も、存外、出任せなのかもしれないね」


「バレてしまったら、しかたない」マコトシヤカニと名乗っていた蟹は、ほう、と溜息をついた。「君の言う通り、マコトシヤカニという名前は出任せだ」


「ほら見ろ」サスガニが勝ち誇ったように言った。「やっぱり嘘だった」


「だが誤解しないでほしい」マコトシヤカニと名乗っていた蟹は、慌てて言った。「ヤ国が滅びたというのは本当だ。イ国とヤ国が戦争をしたことも、鳥が攻め入ってきたことも、ヤ族がお互いを食べたことも、すべて本当の話なのだ。実は、君たちに一つだけ話していないことがあった。あの後、ミヤビヤカニは鳥に食べられず、生きて海に帰ってこれたのだよ。共食いを始めた蟹を見て気味悪く思った鳥たちは、ミヤビヤカニを食べる気になれなくて、海に放り捨てたのだ。それで、ミヤビヤカニだけは生き延びることができた」


「ということは、君の本当の名前って」


「そうなのだ。私の名前はミヤビヤカニ。いままで騙していてすまなかった。だが、マコトシヤカニと名乗ったのには、ちゃんと理由があるのだよ。私はもう、ミヤビヤカニという名を口にできる資格はないと思っている。自分が守るべき国を、守れなかったのだ。私はすべてを失った。仲間を失い、住む場所を失い、地位も名誉も失った。そんな蟹、もう雅やかでも何でもないからね」

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