最終話 龍機魔女


 『DW養成学院』を桜舞う季節が訪れる。学院の目の前のバス停。停車するバス……。 


 シュタッと飛び降りる少女の名前は、早乙女チエミ。


 推薦入学で合格した彼女。晴れて今日から彼女も学院の生徒になるのだ。


「今度は遅刻しなかった!」 


 学院の入学式。張り紙にあるクラス分けの表を見て、チエミは典子と戯も同じクラスである事を知る。


 下駄箱から誰もいない廊下を歩くチエミ。


「あれ、おかしいな。誰もいない……。あ! そうだ! この時計遅れてたんだ!」


 それに気づき、いきなり走りだすチエミだった。


 ガラッ!


「遅い! 何だ。早乙女か」


 教官の一条伊織だ。


「遅刻して申し訳ありません!」


「いいから、席に着け!」


「はい!」


 振り返ると、典子と戯が手を振っている。剣城あげはや四方陣アウも一緒のクラスだ。 入学式では、学院長のマドレニア=カッコーニの有り難い祝辞を緊張の面持ちで聞いている新入生達。彼女達の心に去来するのは、これから始まる厳しい運命の行方を指導する神様と同調しようとする自分達の確固たる決意だろうか。


(神様。どうか私達の空に銀色の懸け橋を、銀龍の翼に微笑みを!)


 チエミは心の中で叫ぶ。


(勿論!)


「誰?!」


「シッ!」


 突然心の中に響いた声に驚いて推可の声をあげたチエミに指を立てる隣の女生徒。


(誰?!)


(わからないか?! 俺の声が……) 


(もしかして遊鬼君! 何処にいるの?!)


(校庭だよ)


(今、行くから!)


 チエミは人波をかき分けて走りだす。講堂の中から飛び出して廊下を一所懸命走った。


 好きな人の元へ。ひたすら走った。


 新緑の並木。葉緑素踊る葉っぱの透き間から零れる日の光で微睡む妖精達が跳び起きるような叫び。


「遊鬼君!」



 チエミは心の底から振り絞って、名前を呼んだ。


 だが、誰もいない。辺りを見回すチエミの視界に飛び込んだのは、一匹の幼い龍だった。校庭の真ん中。チエミは目を凝らす。


「クンちゃん?!」


 そう、そこにいたのは間違いなく大王龍の幼生、クンちゃんだった。


(チエミ)


「はい!」


 テレパシーで聞こえる声に実際に空気を振動させるチエミ。


 クンちゃんに駆け寄るチエミ。


 しばしの沈黙が流れた。クリッとした瞳に、チエミの姿が映る。



(俺、人間の姿捨てた)



「えっ!」



(当分、ドラグマンには戻らない)



「どうして!」



(この大王竜の意識を育てなければならないんだ)



「そんな!」



(大丈夫だ。俺はいつも君の側にいる)



 チエミはクンちゃんに抱き着いた。



(俺を愛してくれるか?)



「大丈夫。私があなたのお母さんになってあげるから……」


 母親。全き優しい存在としての意識に甘えて欲しい。


 二人は泣いて、種族を超える純愛を誓い合った。


 チエミの後を追って出て来た、典子や戯達もそれを優しく見守っていた……。


 チエミの学院生活は今日から始まる。


 典子もいる。戯もいる。一条教官もいる。男性初のスチュワーデスを目指すアウもいる。ライバルになるあげはもいる。そして何より愛する遊鬼がいる。


 きっと彼女ならなれるだろう。『龍機魔女』に。


 『龍機魔女』。魔法を使えるスチュワーデス。


 とどまる事を知らない青春の情熱をぶつけなさい。


 空を飛びたいと願う人間の想いを乗客に満喫させる為に選ばれた精鋭の顔を見よ。


 皆光り輝いている。


 チエミは、堅く誓う。空を舞う天女として一生を捧げると。


「遊鬼君。あなたが大王龍になったら一緒に宇宙に行こうね?」


 そのチエミの言葉に遊鬼は何も答えなかった。その代わりに一鳴きする。


「ク~ン!」


 歌。『D-7』の新曲『恋愛守』が放送室から流れ、甘える余韻に弄ばれながら、音符が乱りに舞い踊る。『あなたを守る恋愛守になりたい』。チエミの母性に包まれながら。




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龍機魔女 飯沼孝行 ペンネーム 篁石碁 @Takamura-ishigo-chu-2-chu-gumi

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