さあ、次は何を書こうか?

秋空 脱兎

執筆の合間に

 2021年3月19日、午後12時を少し過ぎた頃。


「あっ、次のお題が更新され……『私と読者と仲間たち』……?」


 カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2021、通称KAC2021六回目のお題がこれだった。


「『私と読者』、までは解る。『仲間たち』……仲間とは……?」


 何だろう、カクヨムを利用している内に知り合った方とか、作家仲間、だろうか?

 それとも?


「自分が書いた小説の登場人物、とか? それはちょっと違うと思うよ?」


 聞き覚えのある鈴を転がすような声が斜め後ろから聞こえ、驚きながら振り向いた。


 そこには、古い付き合いになる、カーキ色のジャケットを着た黒髪の少女剣士がいた。

 この少女の名前はコギト。昔書いた小説の主人公だ。イメージ通りの外見で、イメージ通りの綺麗な声だ。


「久しぶり、作者さん」

「ええ……何これぇ……」

「え、そんな言い方なくない? 心外だなあ……」

「いやだって、さあ……ねえ?」


 いよいよもって精神が限界になったのかと思うでしょうよ、そりゃあ。

 或いは夢か。初めて見るタイプの夢だが。


「いつもやってる事でしょう? 登場人物キャラクターとの脳内会議」

「いやそうだけどさ、流石に登場人物が実体化なんてしないのよ」

「でも、小説に起こすならこの方が楽でしょう?」

「いやメタいって」

「メタくて結構。だってもう私の旅の続き書かないんでしょ?」

「いや、そんな事は、ないん、ですけど……」


 ていうかそれ関係あるの?

 言いかけて、それは飲み込む事にした。


「だって、続きがないなら物語から自由の身になったも同然じゃない?」


 そういう理屈なのか。


「で、書かないんだよね? リメイク版も何も」

「いや……書きますって」

「本当に? ダッシュボード見てから言ったら?」

「…………」


 正直見たくはないのだが、ここで粘ると面倒な事になりそうなので、ダッシュボードの『小説』の欄を開いた。


「ほら………思い付くだけ思い付いて放置してるやつとか、書き始めても、えっと、エタるだっけ」

「合ってます」

「ありがとう。で、それになってるやつあるじゃない。放置は八つ、エタるは二つ」

「仰る通りです……」

「で、今書いてるやつの他に、KAC参加してて、アンソロジーの締め切り近い訳でしょ? いつ書くんです? というか、私の台詞久し振り過ぎて、口調も怪しいし」

「……スミマセン……」

「……ふ」


 ふいに、コギトが小さく噴き出した。


「あははは、ごめんごめん、意地悪が過ぎた」


 そうして、あっけらかんとした態度で笑って見せた。

 こんなに性格が悪い娘だっただろうか。


「あ、今シツレイな事考えてたでしょ」


 何でバレるんだ。私の子みたいなものだからか。


「まいっか。それで、これからどうするの? 新作とか、続きとか、色々」

「えっと……」


 急に言われても困る。こう、聞かれた事を口頭で答えるのがどうも苦手なのだ。

 少し考えてから、回答する。


「まず、KACなんだけど、これは全部参加する」

「初参加なんだっけ」

「記憶違いじゃなければ。次に、アンソロジーなんだけど、これが最優先になる」

「でしょうね、締め切り近いし」

「次に、連載中のもの。今書いてるやつは、完結させる」

「うん」

「で、エタってるやつなんだけど……正直、設定練り直して、書き直したい」

「去年と一昨年のカクヨムコンに出して、途中で放置してるんだっけ?」

「たぶん……」

「たぶんて……ちゃんと覚えときなよ」

「気を付けます……」

「思い付いてそのままのやつは、保留。それで、コギトの旅の話なんだけど」


 そう言った時、ピクリ、とコギトが反応した。

 上手く言葉に出来ないけど、先程までと気配とか、色々変わった。気がする。


「その……最初からやってみる気は、ある?」

「……リメイクするの?」


 コギトが、じっと私の眼を覗き込んできた。

 期待と恐れが入り混じっているかのような表情だ。


 何となく、なのだが。

 この娘だけは──いや、一部を除いた私が関わった人と、小説を書く上で生み出した登場人物全員に対して言えるのだが──、裏切ってはいけないと感じた。


 私は勇気を振り絞って、間違いなく頷いて、


「いつになるかは判らないけど、約束する」

「…………」


 そうして、コギトは笑顔を見せた。

 アルカイックスマイル。コギトが作れる笑顔の中でも、一番美しいもの。


「分かった。じゃあ、ずっと待ってる」

「頑張ってみる……」

「無理しない程度にね」

「うん……」

「じゃあほら、そろそろ起きて」


 あ、やっぱり夢だったんだ。









 時間を見ると、午後十二時を少し過ぎていた。どうやら二度寝したらしい。

 ということは、そろそろKAC2021の六回目のお題が発表されている頃だろう。

 朝食兼昼食を食べる前に確認してみようか。


「ええっと……『私と読者と仲間たち』……?」


 どうしようか……?

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